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神話の英雄譚/神々の楽園  作者: わらびもち
第三章 旅行
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第18話 雇われの

「おい! 今何つった!? ミスロンが何だって!?」


「ん!? ……何だアンタ?」


「エスト、落ち着いて……!」


 おれはその冒険者に質問した。焦っていたせいで少し語気を強めてしまったかもしれない。冷静に…はなれないかも知れないけれど、一度深呼吸をして落ち着きを取り戻した。


 今焦ったところで何も変わらないではないか。セリアだって動揺を隠している。誰よりも衝撃を受けているであろうセリアがだ。誰よりも心配しているであろうセリアが、少なくとも表面上は落ち着いている。だからおれも、落ち着いて情報を聞く必要がある。


「いや、すまなかった。ちょっとミスロンには縁があってね。詳しく聞かせてくれないか?」


「え、ええ。いいですよ」


 冒険者の青年が言うには、中央センダル大陸のズーザミアという国がミスロンに侵略したとのことだ。セリア、国王がいないという情報を得て、戦力が薄くなっている今が好機だと踏んだらしい。


 その情報をどこから得たのかは分からないけれど……それにしたってミスロンにはグラもデムもいるはずだ。それでも攻め込むとは……どういうことか。そう思ったが、ズーザミアも国の戦力だけという訳でもないらしい。


 なんでも五法帝のパルセンダと、ジルアードとかいうヤツを雇ったようだ。そしてその侵攻が新聞で知らされたのはついさっきだ。ここからミスロンまではあまりにも遠い。……今から間に合うだろうか。……いや、間に合わせるしかない。


「セリア、飛んでくぞ。リルも小さくなれ」


「え? 飛ん……え?」


 おれはセリアと小さくなったリルを抱えた。脚に思いっきり力を込めて飛び上がった。空を蹴り、念力(精霊の力)で身体を引っ張りながら魔界へと大急ぎで向かった。


 音速よりも遥かに速く、空間を裂きながら走った。何度か時間も止めて、可能な限り早く到着できるように。口の中に少しずつ、鉄の味がし始めた。筋肉の千切れる音が、骨の軋む音が聞こえた。


「エスト! 無茶しちゃダメよ!!」


「大丈夫……大丈夫だよ。……だってセリアの国だろ」


 セリアの表情は落ち着いているが、その瞳の奥には不安と怒りが宿っていた。そんな顔を見て、おれはなかなか平静を保つことはできなかった。口から出てくる血を手で拭きながら、おれはセリアに質問した。


「セリア、パルセンダってのは知ってるけど、ジルアードってのはどんなヤツなんだ? 法帝ほうおうでもねぇだろ?」


「…………力はあるけど人格に問題があったから法帝ほうおうにはできなかった人よ。盗賊ギルドのリーダーとかいう噂もあるし、少なくともまともな人じゃない。能力スキルは……詳しくは知らないけど“切断する力”とかなんとか」


 となると実質法帝(ほうおう)が2人か。移動に力を使いすぎるとやられかねない。……いや、グラもデムもいるなら最悪の状況にはならないか。


「向こうに着いたらおれに任せてくれ。セリアは怪我人がいたらそっちの対処をしてほしい」


「……そうね。本当は私が相手をしたいのだけど、私の能力スキルじゃ逆に国を滅ぼしかねないから」


「はは……冗談にならないな。おれが言うのもなんだけど、冷静さを忘れないでくれよ」


***


「ぐわァッ……!! ハァ……ハァ……貴様……なぜミスロン(儂ら)を……!?」


「ふふっ……何、雇われただけよ。国王ネフィルさえいなければ、貴様らなぞ塵に等しいわ! ……強いて言えば、パルセンダが容易く敗れたことが想定外か」


 男が視線を落とすと、そこには倒れた法帝ほうおうがいた。街は焼け、軍隊と軍隊が剣を交わし魔法を放っていた。住民は逃げ、それを騎士が守り、別の騎士がその騎士を襲う。


 ミスロンの現最高戦力であるグラダルオとデモンゲートが、ジルアードと対峙していた。グラは左腕を斬り落とされ、デモンゲートは全身が斬り刻まれていた。対するジルアードはかすり傷や軽い火傷だけであった。


 このまま勝負が続けば……その結果は火を見るよりも明らかだ。


「俺の能力スキルは『完全斬刻フルスラッシュ』、グラダルオ、貴様がどれだけ硬化しようとも俺の“確実に斬る”という理屈には全て無意味。デモンゲート、貴様の時を止める力さえも無意味なのは理解できているだろう。何、悔やむことではない。俺と貴様らの相性というものが最悪なのだ」


 “斬る”という意志の元に確実に繰り出される斬撃。それは物質の硬さを無視し、発動してしまえば止まった時さえも越えていく。


「パルセンダの野郎がいなければ貴様の攻撃などトロいものだ……!」


「……ッ!!そこはやはり……経験の差であろうな……!!」


 デモンゲートが時を止めて攻撃、それでできた隙にグラが炎を纏った拳で殴りつける。パルセンダの拘束がなければ、そう簡単に斬撃を喰らうこともない。そう、パルセンダの鎖による拘束がなければ。


「なッ……!?」


「俺が……この程度でくたばると思いなさんな……!!」


 意識を保っていたパルセンダが、地面から何本もの鎖を出してほんの一瞬、2人の動きを封じた。魔力を込めれば、彼らならすぐに破壊できただろう。だが雨が降るのはその一瞬で充分だった。


「でかしたぞッ……!! パルセンダ!!」


「ぐ……あッ……!!」


 ジルアードが手を振り下ろすと、天から降り注ぐ無数の斬撃が2人を、国を襲った。一つ一つは決して威力の高いものではなかったけれど、雨のように降り注ぐその斬撃は確実に人の肉を抉っていった。


 法帝ほうおうと呼ばれる2人でさえも、なんとか意識を保つのがやっとであった。炎に包まれ、斬り刻まれた景色を眺めて、ジルアードは言葉を発した。


「ふふっ……この惨状を見たら……ネフィルはどんな反応をするか……! 楽しみではあるが……彼女と正面から会えば間違いなく殺されてしまうな」


 だから早く始末しなければ、そのような意味を含んだ言葉だった。そうして完全に国を破壊してしまおうとしたとき、遠くから一つの巨大な魔力が近づいてくるのを皆が察知した。


「…………!! この魔力は……!!」


「……この匂い……主様がお帰りになるぞ。お怒りだ……。不甲斐ない……!!」


「? 匂い? 何を言っているのだ……貴様」


 デムは身体を震わせながらなんとか立ち上がった。それが限界から来る震えなのか、何かへの恐怖なのかは分からない。


 そんなデムの行動には驚きつつも、何より彼らの言葉にジルアードは疑問を抱いていた。いや、それ以上の疑問があった。


「……おかしいだろ……。あの化け物(ネフィル)のことだ、海を渡っていることに疑問はない。……だが、この速度は何なのだ!!」


 およそ人間の出せる速度ではなかった。それこそかつて人類最強と呼ばれたバンリューでもなければ。ジルアードは冷や汗を垂らしながら、急接近してくるモノに視線を向けた。

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