第14話 白銀狼のリル
「ソイツ、名前はどうするんだ?」
おれは発泡酒をちまちまと飲みながら、セリアの膝に乗った白銀狼を指差しながらそう尋ねた。名前がないとなにかと不便だからな。
「うーん……。リルにしましょ。可愛い名前がいいもんね」
「そうか。まぁいいんじゃないか?」
白銀狼だからリルなんだろうな。安直な気もするけれど、まぁそれくらいがいいかもしれない。……いや、安直過ぎるか? ……まぁいいか。
おれは食器を片付けて再び焚き火の前に座った。するとリルがテクテクと歩いてくるので、頭を撫でながら軽く火を通した肉を与えた。
美味しそうに食べるものだ。リルを眺めていると、そんなおれの顔をセリアが見ていた。
「可愛いでしょ?」
「……うん。あんまり動物は見ないからね。……白銀狼を動物扱いするのはちょっとバチ当たりかな」
「ふふっ……まぁいいんじゃない? こんな顔を見るにほとんどただのワンちゃんだし」
おう……セリアもなかなかバチ当たりなことを言ったな。……リルも気にしてなさそうだしいいか。というか白銀狼って人の言葉は理解できるのかな? まぁ多分できるだろうな。
「……料理で思い出したけど、グラはあれから料理修行はしたのか?」
「そうね……数えきれないほどの犠牲が出たわ」
「おぉ……そりゃまた……ご愁傷様で」
そのあたりは上達していないんだな。まぁある意味安心したというかなんというか。やっぱり何があってもグラに包丁を握らせるわけにはいかないな。絶対に。
「ふぁ〜……。そろそろ寝ようかしら。エストもそろそろ眠いんじゃない?」
「2階に上がって手前がおれの部屋だから使っていいぞ。おれは奥のじいちゃんの部屋使うから」
「なんで?」
「2人だと流石に狭いから。じいちゃんの部屋よりはおれの部屋の方が片付いてるし」
「ふーん……」
セリアは頬を膨らませながら不服そうにそう言った。あれかな? 別れた部屋にはしない方がよかったかな? おれは宥めるように軽く笑いながらセリアに話しかけた。
「今度からはテントにしておこうか?」
「……準備がいらないから家でいいわよ。それに大英雄様とエストの過ごした家だし」
「そうか? ならいいんだけど」
「おやすみね。明日の朝は私が作るわ。リル、おいで」
セリアはそう言って家の中へと入っていった。リルもキャンと言ってそれについていく。おれは“おやすみ”と返しつつ、焚き火に向かって座ったままグラスに注いだ発泡酒を飲み干した。
おれもそろそろ寝るか。船酔いで体力をだいぶ持ってかれたからな。ちゃんと休憩しておかないと動けなくなっちまう。おれはじいちゃんの部屋へ行って布団に包まった。
***
「エストー! 朝ごはん作ったわよ!!」
階下から高い声が聞こえた。もう朝だろうか……。頭が重い……起きるのがしんどいな……。
別に体調不良というわけではなく、ただただ眠いだけなのだが。セリアには聞こえないであろう唸り声で返事をしていると、布団の上に微かな重みを感じた。
「……? ……あぁ……リルか……。セリアに頼まれたのか……?」
おれの腹の上には、尻尾を振るリルが乗っていた。恐らくはセリアにおれを起こしてくるよう言われたのだろう。……やっぱり人の言葉を理解できてるのかな。着替えを済ませ、リルに引っ張られながら階段を降りた。
「おはよう、セリア。」
「おはよー! ちゃんと起きれたのね!」
セリアは元気よく返事をした。朝から元気なもんだな。羨ましいよ。ほんとに……。おれは席に着いてセリアの方に目をやった。
「体調はどう? 昨日は船に乗ったせいで一日中あまり良くなかったでしょ?」
「しっかり寝たから大丈夫だよ。……ありがとう」
そう言うとセリアが朝食を出してくれた。卵とベーコンを焼いたものか。まさに朝食って感じだな。
「美味しいね。……王様になっても朝はこんな感じなのか?」
「まぁ朝から重いものは食べられないからね。雰囲気はお洒落だったりするけど。よそは知らないけど……うちは豪華さにこだわるほど発展してないから。まずは国からやってかないと」
「ふーん。まぁ慎ましいのはいいことだろうな。国民にも寄り添えるだろ」
「そうだといいわ」
「でももっと威厳を出していかないと」
「あら、私に威厳は感じないのかしら?」
どうだかな。おれとセリアは共に食事を摂りながら話していた。足元ではリルもパクパクとご飯を食べている。
みんな朝食を済ませ、食器を片付けてから外に出た。再び空間収納へと家をしまい、反対に台車を取り出して大きくなったリルへと繋いだ。大きくなったリルはやっぱりカッコいい狼って感じだな。さっきまでの可愛い犬の雰囲気ではなくなっている。
「じゃあ行くわよ! お願いね、リル!」
「ワオーン!!」
台車に乗って、セリアはリルに呼びかけた。リルも遠吠えで返事をすると同時に、空を裂いてもの凄い勢いで走りだした。これならすぐに到着しそうだ。リルは体毛がなびかせながら、木々を風圧で退けて走った。




