第13話 犬っころ
ミスロン王国のとある警備塔にて、小型の魔導通信機を通じて連絡が取られていた。この2年間で開発されたものだ。未だ携帯するにはやや大きく、大型の魔導通信機より寿命が短いものの、小さな部屋にも置けるものとなっていた。
「ああ……あー、こちらミスロン。聞こえますでしょうか?」
「……どうした?」
「国王・ネフィル=セルセリアがしばらくの間、国を空けるそうです。詳しいことは聞かされておりませんが」
「ほう…………ほう? ……となると戦力は……?」
「主戦力は竜帝・ジルダ=グラダルオと神喰らい・デモンゲートです。軍隊は全て残されております」
「あまり変わらないではないか……。ネフィルがいないだけマシか?」
「そう思われます。長いこと空けるとの話でしたので……これ以上ない好機かと」
「………………なるほど。考えておこう。報告ご苦労」
「はい」
***
「…………やっぱり……あれだな……。船はダメだな……ゔッ……!」
「大丈夫……じゃないわよね。ほら、落ち着くまで休んどこ?」
船を降りたおれは、ベンチに座って休憩していた。深く空気を吸いながら少しずつ落ち着かせていく。これからは竜にでも乗せてってもらった方がいいかな。
……でもグラは乗せてくれないしな……。“儂は乗り物じゃないんじゃ!”とか言って……竜はそういう誇りがあるのかもしれないし頼りにはできないか。まぁ別に目立ってもいいなら自分で飛んでった方が速いしな。
「ああ……どこに行く? そろそろ動けるぞ?」
「急がなくてもいいけど……最初はイリアに会いに行こうか。スリドさんのとこに行くと目立つし……バンリューのいるとこは遠いから。だから中央大陸のビロンに行こう」
「馬でも買えるといいんだけどなぁ」
歩いていくと時間がかかるからな。いや、まぁ急げばいくらでも早く着けるけど……わざわざそんなことしたくないもんな。でも馬ってどれくらいするんだ?
「買えなくもないけど……わざわざ馬を買う必要もなくない?」
「そう?」
「だってほら、別に買わなくったって捕まえればいいでしょ? 白銀狼とか。台車だけ買っちゃいましょ」
セリアは生き生きとそう話した。まぁ……セリアがそれでいいならいいんだけど……それってだいぶ目立つんじゃねぇかな。おれはセリアに連れられて購入した台車を空間収納内に入れて歩みを進めた。
「ん? ってか白銀狼って探せばいるもんなのか?」
「大きい森で魔力を垂れ流しておけば見つかるわよ」
「へぇ、そんなもんなの?」
「ええ。そんなもんよ」
そうなのか。……そうなのか…………。なんか白銀狼ってそこそこ神聖な印象あったから意外だな。竜にも並ぶ種族だから……竜だってその辺にいるか。じゃあ割とそんなもんなのかな。
おれはそんなことを考えながら歩き続けた。街を抜け、広大な森の中に入り、変わらぬ景色の中を何時間と進んだ。
「さて、日も暮れ始めたしこの辺りでキャンプしましょ。もしかしたら白銀狼もいるかもしれないわ」
「そうか。じゃあ飯はおれが作るから気にしといてくれるか?」
「うん。……え? ……ん?」
おれが空間収納の中から家を取り出すのを見て、セリアは困惑していた。まぁ初めて見るならビビるのは当然か。家なんて持ち運ぶものではないから。
「それ……家よね?」
「うん。おれの家。山に残してても意味ないから持ってきたんだ」
「そう……もはやツッコむのはやめておくわ」
セリアはため息を吐きながらゆっくりとそう言った。おれは笑いながらそんなセリアを見送った。白銀狼を探してきてくれるそうだ。
おれはキッチンに入って肉と野菜とを切っていった。今日はステーキにするつもりだが……まぁ良い塩梅に焼いていくか。片手間にスープを作りながらパンも焼いていく。焦がさないように適当に面倒を見つつリンゴのジュースを口に運んだ。
「エストー? 帰ったわよ!」
「おう。もうできるぞ」
「良かったわ。ちょうど帰ってきたとこなの。見てみてよ、可愛い子連れてきたわよ」
「よそったらそっち行くよ。ちょっと待っててくれ」
おれは外にいるセリアにそう声をかけた。白銀狼を捕まえられたのかな? ……デカい狼って可愛いもんなのかな……。まぁ感じ方は人それぞれか。
おれは皿と器に食事をよそって外に出た。そこにはいつも通りのセリアと……思ったより大きな狼が座っていた。もはや狼とかいうデカさではないな。座った状態でも2メートルほどの高さがある。
「わぁ! 美味しそう! 食べていい?」
「うん。いいけど……それが白銀狼?」
「そうよ? 私の魔力を食べて大きくなっちゃったけど……ね?」
セリアは白銀狼の顎をワシワシと撫でながらそう呼びかけていた。会ったばかりだろうに随分仲良くなってるな。なんか……もうペットみたいな感じだ。力関係をはっきりさせたのかな。
「白銀狼はね、小さくなれるのよ。幻獣だからね。ほら、小さくなりなさい」
「ワンッ!」
「お……おぉ」
セリアが呼びかけると、白銀狼は子狼のような大きさになった。これなら可愛いというのも分かるけど……狼っていうか犬だな。そんな犬っころは肉を頬張っているセリアの肩によじ登っていた。
「美味しいわね。これ。うちのシェフのと同じくらい美味しいわ」
「そりゃあ2000年も料理してたんだ。特技じゃないとはいえそれなりに上手くなるよ」
「それもそうね。でも凄いことでしょ」
セリアは笑いながらそう言ってくれた。気を遣ってくれているのか、でもそう言われるのは嬉しいものだ。飯を食って、おれも腹を満たしていった。




