第12話 質素な贅沢
「儂はお前達を止めるつもりはないんじゃが……大丈夫かの? お前達が2人だとどうも心配じゃ」
「大丈夫、大丈夫! おれがどれだけ生きてきたと思ってんだ」
「ブレーキ役がいないのが心配なんじゃよ。……セリアはお前のことになるとなかなか止まらないからな。特に最近は」
グラは心配そうにそう語った。まぁ言いたいことは分かるけど……変なことは起こらないだろ。セリアだって常識人だしな。おれだってそれなりの常識は持っている。だからまぁ多少は気を抜いても平気だろうな。
「……そういえば旅行ってどこ行くんだ? まぁ別に目的地は無くたっていいけどよ」
「そうね……。エストってイリアとバンリューには会えてないんでしょ? せっかくだし会いに行こ? 私も久しく会ってないし。あとはまぁ……観光名所でも回ればいいでしょ」
なんか……堂々と宣言した割にはなんのプランもないんだな。まぁいいけど。
おれはカップに注がれたお茶を飲み干して席を立った。まだ少しふらつくけれど、立ち歩けないほどではない。おれはテーブルに手を置きながら身体を安定させた。
「……あれ? 確かエストって船乗れないわよね?」
「…………まぁ……苦手ですね……未だに。まぁでもどうしようもないだろ? 仕方ないさ」
「それもそうね。まぁ……頑張って!」
「おう。……あれだな。おれの部屋はないよな。どっか空いてる部屋とかある?」
「あぁ……あると言えばあるけど……寝れるところでもないから、私の部屋に来てもいいわよ」
「そっか。じゃあそうする」
おれは部屋を出てセリアについていった。やっぱり城は広いな。構造を覚えるのには随分かかりそうだ。明日から出掛けるから……まぁ当分先のことになるな。まだまだ1人で歩いてたら迷子になるだろうから、ちゃんとセリアの後ろを追いかけていく。
セリアの部屋はかなり大きなものであった。流石は王の部屋というべきであろう、しかし大きさの割にはほとんど飾り気はなかった。ベッドと机とソファと……あとはタンスやらがあるだけだ。機能のあるものが置いてあるだけで、装飾がない。
「スッキリしてるでしょ? 私あんまり飾るの得意じゃないし……人に見せるわけでもないからいいかなって」
「うん。いいんじゃないかな。セリアっぽいよ」
「そ? ならよかったわ。そうそう、良いのがあるのよ」
そう言ってセリアは保冷庫から葡萄酒を取り出した。おれとセリアはソファに座ってグラスにそれを注いだ。
美味いけど、別に高価なものというわけでも無さそうだ。……そういやあんまり酒は飲んでこなかったな。セリアも20歳になったのは最近だろうからあんまり飲んでないだろうな。
「これね、お父様からもらったものなの。プリセリドで作ってるお酒。どう?」
「美味しいよ。好みな感じだ。……じいちゃんが飲んでたのと似てるな」
「エストと大英雄様ってプリセリドの近くに住んでたんだものね? そのときから特産品だったのかな?」
おれ達はしばらくの間談笑をしていた。話題というのはなかなかに尽きないものだ。尽きたと思っても次々と浮かんでくる。軽く酔いが回った状態で何時間か笑って過ごしていた。
疲れたからとっとと寝ようと思っていたのだけれど、なんだか勿体無い気がして遅くまで起きてしまっていた。楽しそうにしているセリアをずっと見ていたかったからだ。
流石に眠くなったので、おれ達は眠りについた。長い1日であった。長く濃い夜だった。
***
「……おはよ。起きた?」
「う……ぁあ。……ぉあお……」
非常に薄れた意識の中、すぐ隣から声がした。ような気がした。おれは声にもならない声で返事をし、重力に逆らうように目を開いた。
おれより先に起きていたセリアが、半覚醒になっていたおれに声を掛けていたようだ。昨日は酷く疲れていたから、もしかしたらうなされていたのかもな。おれは首を横に捻ってセリアの顔を確認した。
確かにそこにはセリアがいた。セリアがいることに、おれは安堵した。これからは、これが日常になるんだな。おれの日常は戻ってきたんだな。
「ふふっ……どうしたの? そんな泣きそうな顔しちゃって……」
セリアはおれの目元を指で撫でながら優しくそう言った。分かっているだろうに。優しさと悪戯心が絶妙に混じり合っているのだろうな。
おれは“なんでもないよ”と、それだけ言ってセリアの手を取った。柔らかく温かな手だった。
セリアはにっこりと微笑んで身体を起こした。おれはまだ布団の中で温まっておこうと思っていたけれど、セリアに布団を剥ぎ取られたので渋々と起き上がった。
「ほら、エストもこれを羽織りなさい。少しは隠さないと目立つでしょ? 髪の色も瞳も派手なんだから」
「んん……おれは目立っても平気なんじゃねぇかな?」
セリアは黒いの外套を身に纏い、同じものをおれにも渡してきた。フードを深く被れば顔も隠せそうだ。セリアは有名だし顔を隠そうとするのは分かるけど……おれは必要ないだろ。
「エストが目立つと必然的に私も注目されちゃうでしょ? 怪しまれるかもしれないけどこうする方がマシよ。それに私だけこれ着るのも嫌だし」
なるほど……最後のが本音だろうな。そういうことなら……まぁ着るか。別に動きづらいってわけでもなさそうだし。
おれはセリアに出された外套を羽織った。思ったより軽いな。邪魔になることは無さそうだ。なんならこれを着たまま戦うこともできそうだな。
「よし、じゃあ出掛けるか? えーっと……」
「まずは東大陸に行きましょ。というか船ならそれが一番早いからね」
「そうか。じゃあ行こう!」
おれ達は必要なものを空間収納の中にしまって城を出た。一瞬で東大陸に戻ることになったけど……まぁ構わないか。誰にもバレないよう、特にセリアは顔を隠しながら港に向かった。おれとセリアは2人、船に乗って大海を突き進んだ。




