第10話 新たな王
「思ったんだけどよ……“デモンゲート”って長くないか?」
「はッ……!! 申し訳ございません!」
「いや、別に怒ってねぇよ」
おれ達は城を出るまでの間にそう話しかけた。セリアは短くて呼びやすいし、“グラダルオ”だってグラで呼びやすくしている。……セリアだってセルセリアか。
何にしたってしたって呼びづらい。いや、言っていることは失礼だけど。
「デモンゲートだよな……デモ……デモはしっくりこないか。デ……デムは?」
「エスト様がお決めになられた名であれば、私はありがたく頂戴いたします」
「じゃあデムって呼ぶよ。おれは」
「良いんじゃない? なんか……っぽくはないけど」
確かに絶妙にしっくりこないけれど、まぁ慣れれば平気だろう。何よりやっぱ呼びやすいし。
おれ達は城門を出て、街に出た。商業地区には店や家が多い。その分かなり活発だ。人通りが多く、人を呼び込む声があちこちから聞こえる。……いいものだな。
「あ! 国王様!! こんにちは!!」
「あら、こんにちは」
正面にいた子ども達が、セリアに気づいて挨拶をしていた。街の人達も挨拶をしているが……特別な感じはしない。日常って感じだ。セリアは普段から街に出ているのだろうか。
「セリアが街に来るのは珍しくないのか? みんな当たり前のようにしてるけど」
「ええ、いつもって訳じゃないけどね。やっぱ国の人とは深く関わっていたいから、他の街にも行ったりするのよ。……王様なんて言っても……偉そうにするのは性に合わないから。……変かな?」
「変じゃないよ。良いことじゃないか」
その後も街の説明をしてもらっていたが、セリアは街の話をしている間、ずっと楽しそうだった。おれとそういう話ができたというのも理由だろうけど、少なくとも街にもそれだけ愛情があったからだ。
王としての自覚がどうのこうのと心配している様子もあったけれど、国を、民をこれだけ思っているのならば充分だろう。
しばらく道を歩いていくと、風景は街から畑へ、畑から森へと移っていった。さらに森を進めば、魔素が歪み、歪な空気を纏っていく。
木の葉を通る風を受けていくと、少し開けたところに門が開かれていた。真っ黒の門、見えないけれど、この先に異空間が広がっている。2人ほど見張りがいるようだ。
「! セルセリア王、獄境へ向かわれるので!?」
「ええ、ちょっと用があってね。構わないでしょ?」
「え、ええ。もちろんです。……本当は護衛など付けていただきたいですけど」
「2人いるし平気よ。そもそも私を守れる人なんていないじゃない。私が守る側よ」
「…………それはそうなんですけど……。そちらの方は?」
「新しい参謀よ」
「そうですか……お気をつけて下さい」
見張りは頭を抱えながらそう言った。たぶん勝手なことをするのはこれが初めてではないんだろうな。家臣達からしたら気が気ではないのだろうけど、今回はデムもいるから安心といった感じだろうか。
まぁ……普段はデムがまともなのかも知れないけど……おれがいると2人ともヤバいからな……。たぶん一番安心できない組み合わせだぞ。おれはそう思いながら門を潜った。
「おっ……おぉ?」
そこに広がっていたのは暗い世界であった。赤と青の2つの月が照らしている。光源はそれだけだ。建物の中には明かりもあるようだけれど、それくらいしか“明るさ”は存在しない。夜の世界だ。
「暗いけど、夜じゃないのよ。むしろ昼ね。夜になったらあの月も沈むから。……だから月っていうより太陽に近いわね」
「へぇ……なんか不思議だな。…………どこか懐かしい雰囲気もあるけど。もしかしたらおれが生まれたのは獄境かも知れねぇな」
……というか獄境にも星があるんだな。異空間とは言っても世界の構成は現世と同じようなものなのか。植物だって生えているし、空気もある。現世が表なら獄境は裏の世界って雰囲気だな。表裏一体って感じだ。
獄境側にいた見張りの魔族にも軽く挨拶をして、セリアの後について行った。現世とは違って街が発展しているわけでもないのだな。その割には城は立派なものであるが。そこに力を入れているのだろうか。
「ユリハー? いるー? 私よ! セリアよ!」
「セリアお姉様!? いらしたんですか!? ちょっ……ちょっと待ってくださいね!」
城にやってきたおれ達は、扉に向かって声をかけた。部屋からは懐かしい声がした。懐かしいのだけど……どこか雰囲気の違った声だった。いや、2年も経っていれば多少は変わるだろうし、おれからすれば2000年も前の話であるため記憶が曖昧なだけかも知れない。
けれど確かに、おれの記憶にあるユリハの声とは少し違った。そう考えていると、目の前の扉はゆっくりと開いた。
「いらっしゃい。セリアお姉様。デモンゲートさんも。それと…………!?」
「や、久しぶり……?」
「おじ様!? ですよね!? 生きていらしたんですか!!?」
「わわ、元気だな」
扉から出てきたのはユリハであった。確かにユリハではあったけど、随分と大きくなっている。雰囲気もいくらか大人っぽくなったユリハが、おれの懐に飛び込んできた。
「生きていたとは……。お久しぶりです」
「うん。久しぶり。久しぶりなんだけど……大っきくなったね。おれの記憶だと6歳くらいだったのに」
どう見てもユリハは8歳とか9歳とか、そんな様子ではなかった。20歳ほどでもないけれど、15歳かそこらの雰囲気だ。子どもではあるけれど、幼児ではない。背もそれなりに高くなっている。
「魔族ですから。獄境にいると成長が早いのです」
「そうかそうか」
ユリハはにっこりと笑っておれの顔を見上げた。おれはそんなユリハの頭をよしよしと撫でる。
言葉遣いがしっかりしているから、精神年齢もだいぶ高くなっているかと思ったが、この顔を見る限りはまだ小さい子という感じだな。
……子どものいる親は、おれを見ていたじいちゃんはこんな気持ちだったのかな。
「久しぶりだな、セリア。エストも生きてるなんて驚いたぞ」
「フリナか! フリナも久しぶりだな! ……でもなんかあっさりしてないか?」
「さっきグラから連絡があったからな。さぁさぁ、座れ座れ。積もる話もあるだろう」
フリナはそう言っておれ達を椅子に座らせた。乾いてるというかあっさりしているというか、彼女はそういう性格なんだろうな。今にも“生きてたならなんでもいいじゃないか”とでも言い出しそうだ。
おれはユリハを膝に乗せて色んな話を話し、聞いた。今は魔族の王として敬われ、畏れられているユリハであったが、おれの目にはただの元気な子として映っていた。




