贈り物のお返しは
冒険者として長く活躍してきた弓使いのアロウと相棒のシン。
二人は遠く東の土地に居を定めることになりました。
本編のずっと後の時系列のおはなしです。
「アロウってさ」
シンがひとりごとのように呟く。
目の前の地面を横切る蟻の行列をのぞき込みながら。
「ヘンだよね」
「……なにが」
ジト目で振り返ったアロウは、ストラップつきのぶかぶかパンツに麦藁帽に軍手という庭師スタイルだ。
シンは言い直した。
「……ヘンな領主だ」
「不満か?」
不本意だと書いてある顔でアロウは短く尋ねる。
足元では土が掘り返され、温室で育てられた苗が木箱に準備されている。
『秘密の庭』は、すでに春爛漫。
アロウの手で整えられた花があちこちで咲き誇っている。
もともと薬草の生育を本業としていたため、知識と経験がいかんなく発揮されていた。
本人の性分にも合っているようで、休日はもくもくと作業に集中している。
とはいえ、本来の目的が忘れ去られているわけでもない。
この庭全体は、シンのために用意されたものだ。
見渡す限りの自然風の花畑全部。
頬が知らず熱くなるのを感じて、シンは地面に目を凝らすふりをする。
アロウの声が頭の上から降ってくる。
「お前、服や宝石を渡しても喜ばないじゃないか」
「でも普通、庭を丸ごとプレゼントしたりとか考えないでしょ……」
「俺が用意できる一番でかい贈り物を用意しただけだ。ヘンで結構」
若干拗ねた様子で土いじりに戻っていくアロウの靴先が見える。
シンは立ち上がると草と土を蹴散らして、その背中に飛びついた。
「おわっ、おま……ちょっと大きくなったんだから加減しろって」
シンはアロウの背中に頭を押し付けてたまっていた文句を申し立てる。
「大きすぎてお返しが用意できないって言ってんの!」
「……シン」
「お返し、何がいい?」
背中に頬をつけて小さい声で聞く。
ややあって、ささやくような返事があった。
「こっち向いてほしいかな」
「それはやだ」
頬を膨らませてシンは即答した。
なんでもあげるとは言ってない。
まだ心の準備ができていないものは渡せないのだ。
「そっか……」
アロウの声は変わらず静かなままだ。
「ところで、頼みがあるんだけど」
「うん?」
他のお願いなら聞かないこともない。
シンが顔を上げると、アロウは真剣な声で言った。
「腰痛めたから肩貸して」




