PrismHourglass
西暦2330年3月1日。脚を怪我して入院した女子サッカー選手の夢葉は、29歳になる。
サッカーに一途だった彼女は、病室のベッドの上で天井を眺めながら引退になりかけることが辛かった。
そして、恋愛したかったなぁ…と思ったら虹色に光る砂時計が夢葉の目前に現れ、回転し砂を落とし始めた。
砂時計がいつの間にか消えた。夢葉は、周囲を見渡した。夢葉が病院を退院することになり、母が迎えに来ていた。
カレンダーの日付を見て、違和感を覚える。過去の日付、16年前の3月24日になっていた。
夢葉は、12歳。中学1年生にもうすぐなる…つまり、恋愛できるように青春をやり直せってことに気付いた。
西暦2314年4月16日。女子サッカー部へのスカウトがかけられ入部しようとしたら、頭に虹色の砂が落ちるイメージが浮かび速攻で断り美術部に入部することになった。
恋愛…まぁ今回も出来なかったら…いや、最初から諦めてますよ。
で、美術部に入部したらただ油絵を描きたいだけの廃部にはならない程度の人数がいた。
その中の男子部員である、葉哉が夢葉に話しかけてきた。
「ねぇねぇ!僕、文化部初のマネージャーなんだ。女子サッカー部を断った子だよね?よろしく!」
誰も、突っ込まない。担任の先生が、美術部には2年生の男子マネージャーと自称する生徒がいるということを夢葉は思い出した。
一応、惚れられているのかしら…
美術部顧問の先生は、この部がマンガ研究部に人数とられてまともに油絵描く部にしたいと挨拶をした。
同期も、画家志望じゃないしマンガ知識にも自身がないのが数人。
夢葉は、緊張してる素振りをして美術室を例の砂時計を探しに見渡した。
「あの…美術部は運動部じゃないのよ…新入生、困っているじゃない。」
「…すみません。」
葉哉の謝罪と同時に引き下がる様子の直後、夢葉は視線を葉哉の目に移した。
「大丈夫だよ。油絵を真面目に描くのは、私も初めてだからね。」
何かわからないけど、葉哉の家が金持ちみたいで夢葉含む新入生の分の油絵用具が用意されていた…
その頃、夢葉の両親と葉哉の両親が豪邸の客室で話し合いをしていた。
葉哉の両親が、夢葉の両親に仲良くしてと願う会話だ。
「俺のとこの倅と友達になって欲しい。倅は、運動部に憧れはいても入部できなかったからな…是非とも、美術部で仲良くなってくれ。」
西暦2300年に施行された臨時収入に関する法律。臨時収入は月1億円まで所得税を免除されるもの。貧困是正臨時法。この法で、何人もの国民が貧困から救われ少子化対策にもなっていた。
そして、夢葉の両親は机の上にある葉哉の父親から出された5000万円の大金の前に賄賂じゃなくなった賄賂に肯定するしかなかった。
貧困是正とはいえ、楽したいという気持ちは誰にでもある。夢葉と葉哉の友情を大金で約束されてしまったのは、夢葉の両親にある良心が抵抗をしたがいつ大きな出費が来るのか不明故に負けたのだ。
4月下旬の火曜日。夢葉は葉哉と一緒にいたらリーフコンビと呼ばれるようになった。
夢葉は、鬱陶しさを葉哉に感じてた。でも、母親から葉哉とは仲良くするようにと毎日朝食の度に言われていたので反抗期の抵抗する時間も今は無かった。
「先輩、油絵上手いね。」
「運動オンチだから、色の感覚を鍛えるしかなかったんだよ。それに、君もコンクールで良い結果を出そうよ。」
「…えぇ。」
仲良く…親の為であり自分の為に。だから、甘やかして優しくしなきゃ。
幻覚、砂時計の中の砂が虹色に光る。それが、夢葉と葉哉の間に浮かぶ。
サラサラ…キラキラ…
5月7日。連休最終日。葉哉の家である豪邸の一室では、夢葉は葉哉とオリコン20位以内の楽曲の聞き比べをしていた。
20曲の歌詞と曲調を聞いたら感想をルーズリーフに書き、互いに見せあう。
国語と音楽の成績を上げる勉強といったとこか。曲が同じでも夢葉と葉哉は違う見方をしていた。
GALAXY HOURGLASSだけでも作詞者の意図とか入れば、誓いの内容も平穏を望むことと情熱的なことの両方捉えられる。
オリコン2位の曲を、音楽再生端末からかけた。曲名は、尊き愛。
尊き愛
愛することが尊いのなら 声にしてごらんよ
沈黙なんてらしくないでしょう I lovn you. and mine.
sublimity 崇高なコト? 考えてたら期限切れ
遅すぎるものは尊くない 速く早くしてよ君の声
So love love love. Not late late late.
長すぎる愛も煩いだけ 加速した世界は眠れない
Know fast fast fast. Yes like to ray.
甘くたって それは恋だよね
苦くたって これも愛だよね
愛の光が暖かい なんて神様が決めたのか?
冷たい愛の形は 厳しさで片付けられた
確かに 尊き愛は 光るだけではないんだよ
少しの闇を味方にして 煌めき燦めくchocolate
声にした尊き愛 夢の果てへ響き渡る
sublimity 崇高なコト? 黙っていたら騙されて
走ってても転ばない そんな伝説に憧れた
So love love love. Not late late late.
長すぎる愛も煩いだけ 加速した世界は眠れない
Know fast fast fast. Yes like to blue bird.
沢山の光に闇がある 煌めき燦めくchocolate
1位もコントラストにする軽々しい歌詞と曲調。明るすぎると思った。
20曲の感想の交換を終えて、オレンジジュースとオランジェットがメイドに運ばれた。
葉哉が、ウェットティッシュを夢葉に渡した。
「手を拭いて。このオランジェット。とても、美味しいから。」
「輪切りオレンジにチョコが、かかってて不思議。」
夢葉は、渡されたウェットティッシュで手を拭いた。普通は、ポテチが出てくるところだけど一応健康的な菓子なんだなと…
虹色の砂時計が2つの皿の間に出た。少し砂が、下の方に落ちている。恋愛のタイムリミット的なものがあるのか?
とりあえず、オランジェットを1枚食べたら苦さと甘さが同時に来る美味しさを堪えて呟く。
「Prism Hourglass…」
葉哉は、見えてそうで見えない表情をした。そして、英語の発音も大切だよなーとシャンデリアを見上げた。
虹色の砂時計がまた消えた。
メイドが、お裾分けということでケーキ箱5つくらいのオランジェットとアールグレーの茶葉を夢葉へ渡した。
夢葉は、帰宅後に母親からお裾分けを喜ばれた。家族全員がオランジェットを食べれる上に、菓子には困らない。葉哉に助けられた…ということかもしれなかった。
期末テスト終了直後の放課後…夢葉は多分低得点の同級生を慰めていた。家の方向が同じだから、同級生数人が親に怒られる代わりに夢葉が優しくしてる。
「うん…答えを書けただけいいよ。点数で怒られるのは仕方ないけど…」
「…はぁ。いいなぁ、勉強できる人は…」
「勉強が本分な今は、否定できない。」
夢葉は、家の前で同級生数人と別れたらすぐに自分の部屋に行き片付けをした。雨音が、同級生数人の状況への心配の権化であるように鳴り始めた。
テストが返された日の夜。同級生数人がお礼として、ポプリ ベビーピンクの口紅 薔薇の香水 チェリーレッドのテディベアが夢葉に渡しに来た。
女子力を爆上げというアイテムだらけなのだけど、慰めのお礼には大きいような。
夢葉は母親と2人になった時に、呆れた顔をしてた。
「…慰め以外の何のお礼なんだろう。」
夢葉の母が笑いながら言った。
「実は、ママ友に余ったオランジェットを配ってたんだ。子供が0点テストでも叱るの厳禁て、忠告してね。」
「賄賂…ね。」
「でも、良かったじゃん。友達は、叱られるのを回避できる可能性ができてこんなにお礼貰えて。」
14年前の法律が施行されたから理不尽回避というものも、簡単にできるようになったのだろう。
夢葉には、生まれる直前の法律だった。大量のお裾分けでこんなに優しいコミュニティを目前にして、校長先生の言葉を思い出した。
「14年前から、堕落してる。自己責任から逃れられるようになってる社会にいるのだ。」
そんな、校長先生の言葉の裏が少しは分かったつもりでいた。
「こんばんは、お邪魔します。」
葉哉が、メイドの1人とリビングに上がった。メイドが、夢葉の部屋にテーブルの上のものを運ぶ。
「先輩。テスト、頑張りました。」
「がんばったね。そうだ、一緒に音楽番組を見ようか。」
夢葉はソファに座ると、葉哉に隣に座られ彼のスマホから音楽番組のライブ配信を見た。
夢葉の母が微笑ましく風呂を張りに、風呂場に行った。
GALAXY HOURGLASSは、相変わらず1位。人気が、こんなに続いたのはアニメソング以外では久しぶりだ。
葉哉が、新曲で2位になった曲のパフォーマンスを見て怪訝な顔をする。新曲は、いつも受け入れられるには時間が掛かるよねーと、夢葉が葉哉を見守った。
夏休み初日の夜。ドリル類を日中に全て済ませ、19日までに他の宿題も全て済ませられるように予定を立てた後だ。
夢葉は、自室のノートパソコンでニュースサイトを見てた。
14年前の法律施行を訴えた人の論文が、公開されたのだ。
ほぼ全ての物事が贅沢品になった昨今、富める者は貧する者に貢ぎ救う義務を負うことを理想とする。
このまま、生存権すら贅沢品になれば…
夢葉は、途中まで読みニュースサイトを閉じた。ノートパソコンの電源を落とし、葉哉は本当に富める者だろうか?と考えた。
短文SNSに、葉哉からメッセージが来た。
「おやすみなさい。早寝しないと、宿題が捗らないよ。」
夢葉は返信した。ドリルが済んだことは、伝えない方がいいよね。急かしてそうだし…
「おやすみなさい。」
夢を見た。延々に、オリコン20位の曲が歌詞と共にぐるぐると夢葉の周囲で光っていた。
色々な愛。サッカーの代わりの愛。そして、歌詞が空間の端に捌けたらニュースサイトの論文が白銀に浮かび低い声を発した。
愛も生存権も贅沢品に…それは嫌だから理想が義務に…
そして、当たりが暗くなり…彗星が虹色に頭上を駆け抜けて消えたら漆黒の空間にいた。
もう、レトロCDコンプ目覚まし時計からのアラームが鳴る。4年前のオリコン1位の曲だ。
イントロ中に、起きて曲を停止させた。
7月25日。自由研究と読書感想文の宿題を済ませ、アラームの曲を歌った。とはいえ、歌詞はうろ覚えだ。
昼食後、女子サッカー部の部長が美術部部長と一緒に夢葉の家に来た。
「リーフコンビのPKを見たくてね!」
「…だそうです。貴方と葉哉さんには、忙しいとこすみませんがサッカーコートへ一緒してね。」
両親への説明もして、PKをさせるこの2人には否定もできなくさせられてた。
サッカーコートには、女子サッカー部員のみならず男子サッカー部員も全員いた。夢葉を、女子サッカー部員にさせたい意志がそうさせているのか…PKの時間が始まる。
ゴール前。あのPrism Hourglassは出ない…
置かれたサッカーボールを、夢葉は女子サッカー部のゴールキーパーが来ないだろうゴールの空間を狙い蹴った。
ネットが揺れるかと思った。でも、ゴールキーパーは取り損ねてボールが落下して微妙な判定になった。美術部に入部したので選手を目指すまでの腕にまでなってないのだ。
葉哉の番は、さすがにゴールキーパーは男子サッカー部の方に代わった。
葉哉は…フェイント狙いでトリックスター向けだな…でも夢葉程良い判定ではない。
全て終えて、やっと男子サッカー部員と女子サッカー部員が見守ることから解放された。
葉哉が、夢葉にタオルを被せる。夢葉は、目から上が隠れた葉哉の姿に胸が鳴った。
恋愛は、そういうもの…とドリンクを飲む。互いに汗を拭き、ドリンクを飲みきり女子サッカー部マネージャーに渡した。
男子サッカー部マネージャーも、葉哉という文化部のマネージャーには好奇の目で見てくる。
夢葉は、ジトリと無言の圧力をかけてその視線を止めさせた。
葉哉は、夢葉に礼代わりに手を繋ぐ。夢葉は、鳴った胸から拍動を感じた。振り解く勇気もない。
ただ、あの虹色に光る砂時計から少し遠ざかる気がしただけだった。
それを、建物の屋上から見てた人が数名いた。軍の司令官服に長ズボンを着てた。ミリタリー趣味の彼らは、14年前に施行された法律で救われた苦学生だった。
翌日、夢葉は学校のプールで水泳の宿題をこなす。水泳の宿題はプール利用7日だ。葉哉も一緒に来て、泳いでる。
プールサイドでは、暑そうでゴツイ服を来た数名が担当の先生にトランク一杯の札束を見せて話してた。
「こんにちは、新米教師さん。」
「生徒に何をするつもりで…この数億円は!?」
「14年前、臨時収入による法律で私達は進学できました。」
そこに、校長先生が来て邪険に扱った。
「警戒はやめて下さい。大金の返還と、提案をしに来たのですから…」
「14年前の教え子か…何をしたい!?本来は、門前払いものだ!」
「先生。最新VRのテストに生徒を参加させたいのですよ。」
「つまり…」
「そう、恋愛を体験させ振られる体験を追加して現実を見せるテストですよ。勉強に身を入らせる名目なら教育機関として…」
「断る!」
「校長先生。」
「おや?学校の評価を上げたくないのかね?」
教諭として失恋を押し付けて勉学をさせるのは理念が許さなかった。
OBやOGの数名は、そのまま去って…行かなかった。大金を仕舞ったら、校長先生をプールに突き落とそうとして担当の先生に止められる。
「じゃ、金も評価もいらないってことか…」
「痛い目見なきゃダメだよね!」
夢葉と葉哉が、プールから出て先生が困る様子を見た。
「どうする?このまま逃げるか…」
「躾て、聞こえたけど…」
夢葉は、葉哉に引かれるまま更衣室のドア前まで逃げた。
すると、サイレンの音と共に警察車両が学校を取り囲んだ。
数分後、夢葉は女子更衣室から葉哉は男子更衣室から着替えを終えて他の生徒と同じく緊急帰宅した。
校長先生が、何かの犯人になってたようで警察に取り押さえられていた。
校長先生は教員免許剥奪され、9月17日まで学級閉鎖になりました。
夏休みの宿題は全て提出してすぐのことだった。運動会は中止。文化祭についても後々に…ということだ。
9月3日。葉哉が夢葉の部屋に来て持ってきたホールケーキを切り分けた。
夢葉は、校長先生が冤罪か?でニュースサイトを空間に画面を映す端末で出す。
「不審者と思ってた人はかなり前の先輩達で、勉学をさせる為にVRで何かしようとしてたが…」
「毅然とした態度をとっただけで逮捕て、おかしいよ!」
生徒だから指を咥えて待つしかないのだが…と思ってた時にプールサイドにいた当日担当の先生が所持してたボイスレコーダーの音声が、端末から流れた。
不審者ことかなり前の先輩達の意見が、夢葉と葉哉もとい全世界に伝わる。
失恋を体験させるのが目的のようだ。勉学と恋愛は両立しないとでもいうそれは、科学技術が進むと必ず当たる壁でもある。
勉学は義務だけど恋愛は義務じゃない。だから、義務以外を全て失敗させて義務だけすればいいというのが、あの人達の躾の内容だ。
「勉強以外も大切だってのに…」
「大金の使い方が勉強以外知らない家庭だったんだね。」
あの人達が逮捕されるのを待つ立場ながら、考えている恋愛と勉強のロジックに憤りを感じながら堪えた。
二学期の勉強は数冊の教材で何とかしている。午後からは恋人らしくしてるつもりだ。
夢葉は端末の電源を切り、ケーキを食べる。葉哉もケーキを食べるが、食べ方は上品だ。
富める者としての食事方法はしっかりしてるんだと、関心した。
一方、校長先生はかつての教え子達に監視され書斎の椅子に座らされていた。
かつての教え子達の仲間に、貧乏なら勉強以外するなという横暴な態度をとったことについての謝罪文と賠償金の工面を書斎でやらされていた。
「わかった。貴方達は、これが目的だったんだな。成績で新しい法律の例外にさせたことへの…」
「救われた私達は、救われなかった仲間を救ってるだけだ。警察も金で同意させている。」
「警察が私達に騙されたと知ってここに来ても、大金絡む法律の撤廃を希望する者だと思うだろう。」
「うっ…」
「さぁ、この作業を全て遂行するのですよ。全ての者は神様を信じてる。だから救われなければいけない。」
信じる者は救われる。その言葉を信念にしてるように低い声で男性の一人が言う。
「法律の例外にされた人の気持ち、理解した?堕落してるからと理解しなかった先生。」
「大丈夫。先生の中学校に18日からいい後任を手配するようにしてるからさ…」
翌日、午後2時。夢葉は、葉哉と空いている神社に参拝している。校長先生の無事を願ってのことだった。
鳥居の外で、2人以外の美術部部員が待っていた。歩きながら校長先生の安否を祈ったことを話した。部活が出来ないということは、コンクールに油絵が間に合わなくなる可能性が大きくなるということだ。
生徒としてやれることはできるだけやる。そして、GALAXY HOURGLASSを歩きながら口ずさむ。
その頃、中学校職員室。先生が業務をしながら数人の警察官と校長先生の軟禁状態を解いてもらおうと話していた。
「校長先生は…」
「無事です。ただ、私達はここの卒業生数人に署長が騙されたとわかりながら従うしかないのです。」
「騙された!?」
「署長が騙されたと気付き改めてあの方々を逮捕するには、数々の問題があります。」
ホワイトボード代わりに、映し出された画面に文字が出て難しめの話を始めた。
法律の御相伴に預かることすら成績で決めていいのか?と教頭先生に警察官の一人が雑談がてらに言う。
「富める者は貧する者に貢ぎ救う義務を負うことを理想とする。その理論に救われるべき人が、愚かだからって貧する者のままだったら?の問いが動機だろう。」
「それでも、校長先生を恨むなんて…」
「愛は贅沢品か!?」
「永遠の問いだな。不老不死みたいだ。」
成績がトロッコ問題の切り替え装置…それでいい世間が復活してることに危機感を持たないといけないことを、教師一同は思い知った。
神社からの帰路、夢葉は虹色の砂時計が和菓子屋の看板の上に一瞬出たので目線を向けてすぐ前を向く。
夢葉の同期の一人が、和菓子の話題を打ち出した。
「そういえば、蓬餅も美味しいんだよね。」
「そうそう。餡子最高ー!」
夢葉は、葉哉と目を合わせて和菓子の話題を聞き流す。和菓子屋に入店してる時間はない。
和菓子屋さんから美術部一同の前に店長らしき人が飛び出して来た。
「そこの中学生達ー!この失敗作の蓬餅を食べて下さい。」
部長が即答で断る。生徒としても非常事態なので、欲に負けるのは場違いすぎるからだ。
夢葉は、謝罪のお辞儀をして葉哉の手を繋いだ。
恋愛できたか?…そうではなさそうだな。校長先生は、大丈夫だ。
先程までのやり直した青春が暗闇に消え、病室のベッドの上に夢葉はいた。
また、西暦2330年3月に夢葉は戻った。虹色に光る砂時計 Prism Hourglassが、下部を上部になるようにひっくり返る。
空間に変化はない。クールタイムといったとこか…
夢葉は、スマホ端末のメールを見る。まだ朝陽は差し込まない。
メールは、GALAXY HOURGLASSを歌ってた歌手がアレンジバージョンを出すという内容だった。スマホを消して、また寝ることにした。女子サッカー選手の引退…その絶望が辛いまま静寂になった。
朝食が運ばれて、やっと体を起こして箸を手に取る。
そして、やれたことを思い出した。葉哉と、カラオケ代わりに流行歌について捉え方の違いを話したり…
PKをしてみたり…
朝食の完食と共に、少し上った太陽の光が病院近くの神社の鳥居を照らしてる様子を窓越しに見た。
校長先生の安否を祈った神社とは別だけど祀る御祭神は同じだったような。
看護師の一人が朝食を回収しに来た。
「おはようございます。相手選手の妨害が原因でしょうが、他に…」
「大丈夫です。退院したらもう引退を考えなければいけないのですから。」
「…一応そうなのですね。」
選手生命ってそういうもの…と沈黙の了解という状態になった。
3月2日に、日付を変える看護師の姿を見て夢葉は深呼吸をしてみることにした。
Prism Hourglassを、探す。まだ、看護師がいるのか消えていた。
沈黙が続く、看護師が去るまでの時間が長く感じていた。
参考文献
『サーキット・スィッチャー』安野貴博/ハヤカワ文庫




