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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

マイペースに異世界暮らし

ドライブ日和

作者: 汐琉

マイペースに異世界暮らしシリーズです。


ちゃんとシリーズとしてまとめられているのか不安です。


感想、誤字脱字報告ありがとうございます!

●7月■日



 本日もうだるような暑さだ。


 今さらだが我が家の間取りを説明しよう。


 正面に引き戸の玄関。三和土があって、上がり框がある。

 入ってすぐに右手に座敷があり、仏間、茶の間と奥へと並んで続いていく。

 部屋へ入らず廊下を真っ直ぐ歩いていくと、突き当たりにはトイレと浴室が並ぶ。昭和溢れる我が家だが、リフォーム済なので水洗の洋式トイレだ。お風呂もガス給湯にした。

 その前を廊下はキュッと直角に曲がり、茶の間隣の台所へ続く。

 台所には、日々成長を続けている家庭菜園へと出られる勝手口があり、窓からは笑顔のカッパくんが覗いている事もある。


 うーん、ファンタジーだ。


 そうそう。廊下の右手側の話をしたが、今度は入って左手側の話をしよう。

 そちら側はいわゆる通り抜けというやつになっていて、我が家を車で前から後ろへ突き抜けられるようになっている。

 まぁ、昔は突き抜けた先に作業所があったから通り抜けを作ったんだろうけど、作業所は取り壊されて今は何もなくなっていた。


 そして、さらに『今』は竹やぶとカッパくんが住む水場があるようだ。



 それはさておき、我が家ではただの車庫として使っていた通り抜け。


 なので、車が置いてある。


 主人として申し訳ないが、愛車も一緒に転移して来ていると気付いたのは、クマ案件から二日程経ってからだ。

 食料は十分な備蓄があって、家庭菜園へ行く以外引きこもっていたので、愛車に気付くのが遅れてしまった。

 日常風景の一部だったので、愛車がある事に全く違和感がなかったのだ。

 ある瞬間、ハッと愛車に気付いた私は、慌てて愛車へ駆け寄り、無事を確かめる。

 エンジンもかかるし、燃料はほぼ満タン。オイル交換もしたばっかりだから、問題なく走れそうだ。



 ただ一つ問題があるとしたら、モンスターが普通にいるこの世界で走らせるには、可愛らしい軽自動車は少し心細いぐらいだろう。




 タイミングよく隣のおじさまが車で出かけるのを見かけたので、帰ってきた時にキュウリとトマトをお裾分けしつつ、それとなく交通事情を伺ったところ、防災無線の指示に従えばここら辺でも車での外出も問題ないらしい。




 あ、ここら辺と言ったのは、私が住んでいる場所がまぁぶっちゃけド田舎だから。

 車がなければコンビニにすら行けない。

 スーパーも同じく。

 自動販売機は徒歩圏内にあるのが唯一の救いかな。

 まだ確認はしていないけれど、転移前には小さな雑貨店みたいなのが近所にはあった。

 車がないおじいちゃんおばあちゃんはそこで買い物をしていた。

 バスも二時間に一本、駅は遠い。

 そんな土地柄なので、車は一家に一台は必須だ。



「店の場所は変わってないか」



 スマホの地図アプリで周囲の確認をしてみたが、よく使っていたコンビニやスーパーの位置は変わっていないようだし、地形にも大きな変化は見当たらない。

 それに安堵していた私は、隣のおじさんが言った『ここら辺でも』という言葉が含む意味を、この時は気付かなかった。




 夕方、涼しくなった頃に洗車をする。

 通り抜けを裏へと抜けると、少し開けた小さなコンクリート張りの広場になってるので、そこでバシャバシャと遠慮なく水をかけていく。

 実は家庭菜園の隅には井戸が掘られていて、電動ポンプで水を汲み出している。

 今洗車に使っている蛇口から出ているのはその井戸水なので、水道代の心配はない。

 今日は埃を流したいだけなので、水をかけて軽く擦るだけだ。

 そうやってバシャバシャしていると、いつの間にカッパくんが車の隣にいて、気持ち良さそうに水を浴びていてびっくりした。

 飲料水には適さない井戸水なので一瞬ためらったが、カッパくんなら大丈夫かと思い直し、期待で大きな目をキラキラさせているカッパくんに遠慮なく水を浴びせかける。

 傍から見たらいじめのようだが、カッパくんは楽しそうに笑い声上げているので疑われる事もないだろう。

 しばらく我が愛車と共に水浴びを楽しんだカッパくんは、キュウリとトマトを手に帰っていった。



「明日天気が良ければコンビニにでも行こうか」



 びしょ濡れになって気持ち良さそうに見える気がする愛車へ声をかけ、私は明日の天気を窺うように空を見上げるのだった。



●7月△日



 今日も朝から良い天気。


 とても暑い以外は絶好のドライブ日和だ。


 予定通り久しぶりに出かける準備をしていると、つけっぱなしにしているテレビからアナウンサーが天気予報を読み上げているのが途切れ途切れに聞こえてくる。



『〇〇地方の……今日の天気……晴れ。とこ……より、ハ……ピ……にご注……くだ……い』



「うん?」



 ボーッと聞き流していたら、妙な聞き間違いをしてしまい、首を傾げながらテレビ画面を確認したのだが、私が視線をやった時には『本日のお犬様』のコーナーに変わっていた。

 本日のお犬様は、猫又と仲良しな柴犬系コボルトらしい。

 世界が変わってももふもふは可愛い。

 新聞の天気予報も一応確認したが、お日様マークとゆるキャラみたいな女の子の顔という組み合わせだから、とてもいい天気だという事だろう。

 新聞の名前は変わっていなかったが、イメージキャラクターは変わったんだなと思いながら肩掛けの鞄を斜めに掛け、車の鍵を手に外へと出る。

 車の鍵には、ゲン担ぎのカエルと深い意味はない鈴付きの鯛焼きキーホルダーがついているので、その鈴がちりんちりんと涼やかな音を立てる。

 シャッターを開けて車へと乗り込み、エンジンをかける。

「さぁ、初の異世界旅行といこうか、相棒」

 颯爽とエンジン音を轟かせて出発──とはいかない腕前なので、ゆっくりとバックしていき、左右を確認しながら道路へとバックのまま出て、行きたい方向へ車の頭を向けて、今度こそ出発だ。

 少し走ると道路工事をしていて片側交互通行になっていたのだが、こちらではそんな工事は行われておらず、すいすいと車を走らせる。

 道路の路面状況などの違いはあるが、道の形は不思議な程に一緒なので迷う心配はなさそうだ。

 ただし町並みは変わってしまっているので、今まで頼りにしていた目印は全滅だろう。

 幸いにも遠出する予定はないから問題ないが。

 目指すコンビニは、山を二つ越えた所にあるので、道中はほとんど山の中の道行きだ。とはいっても、ポツンとしてる一戸建ての番組で見るような険しいものではなく、舗装された普通の道だ。

 両側が深い森になっていて、そこを突き抜けていくような道なだけで。

 これは別に異世界転移したからではなく、普段からこんな道のりだから戸惑いはない。


 ──夜に通るとマジ怖いけど。


 対向車も歩行者もいないからと油断していると、突然野生動物が横切ったり、道路の真ん中でうずくまったりしているので、気は抜けない。



「夜にフクロウがフロントへ向けて飛んで来た時はギョッとしたなぁ」



 そんな呟きを洩らしたのが良くなかったのか、思い出した光景を再現するかのように真上から車へ向かって何かが落ちてくるのが視界に入る。

 茶色っぽくかなりの大きさだが、下手にハンドルを切ると森の中へ突っ込んでしまうため、ブレーキを思い切り踏んだが間に合いそうもない。



 目は閉じるな! と必死に言い聞かせてハンドルを握る私の耳に、ヒュンッと何かが風を切って飛来する音が聞こえた。

 それが何か理解する前に、私の車へ向かって落ちて来ていた茶色っぽい物が、あり得ない動きで横方向へ吹っ飛ぶのを何とか視認する。

 急ブレーキでガクンとなりながら停まった車の中、後続車もいないのでハザードを点けて先ほどの物体が飛んでいった方向を恐る恐る見やる。



「ぎゃあああ!」



 というか、さっきから声が聞こえている。

 どう考えてもこの声の主が、さっき私の車へ向かって落ちてきた物の正体だろう。

 私は木の枝か何かだと思っていたが、正解は生物だったらしい。

 それは飛来する音の原因らしきぶっとい矢によって羽を木に縫い付けられ、抗議なのか痛みなのかわからないが喚き続けている。

 喚く顔はギャルめいた女性のもの、それと上半身も女性。なら下半身は違うのかと問われると、違うと答えるしかない。

 私の目に見えているのは茶色い羽毛に覆われ、まるで猛禽類のような雰囲気の下半身。足も鋭い爪で獲物を捕る、巨大な猛禽類そのものだ。

 下半身はガン見したが、肌色多めな上半身はあまり見ておらず見逃していたが、よく見ると腕にあたる部分が大きな羽だ。羽は背中から生えているのかと思っていたので、ちょっとびっくりした。

 羽を縫い付けた矢は、彼女を傷つけてはいないようでギャルな顔には痛みは浮かんでいない。


 何だか少しホッとした。


「うぎゃあ!」


 縫い付けられている本人(?)はたまったものじゃないみたいだけど。

 ここまでしっかり観察すれば、私の乏しいモンスター知識でも彼女の名前はわかる。

 ハーピーだ。

 それぐらい結構メジャーなモンスターだと思う。

 うんうんと頷いていた私は、はたと冷静になってスマホを取り出す。


 これは通報しなくてはいけない案件ではないのかと。


 通報すべきは警察なのか、消防なのか。

 それとも──。


「天気予報見なかったのぉ?」


 スマホを握り締めて車の中で悩んでいたら、車の外から呆れたような声をかけられて、ハッとして声のした方へ顔を向ける。

 そこにいたのはカーキ色の軍服ぽい服を着た見覚えのあるお兄さんだ。

 本日は背中には大剣ではなく、大きな弓が背負われている。

 察しの悪い私でも、車に衝突しかけたハーピーを矢で射って助けてくれたのがお兄さんだとわかる。

「ありがとう、ございます、お手数をおかけして……」

 お兄さんのイケメンなのに緩い顔を見たら、急にとてつもないピンチだったのではと気付いて、スマホを持つ手をプルプルさせながらお兄さんへお礼を言おうとした。

 だが、それを遮ったのは開けていた窓から入って来たお兄さんの手で。

 こぉら、と優しい声と共にコツンと軽く頭を小突かれる。


「天気予報がところによりハーピーの日はぁ、運転に自信がある人しか出ちゃ駄目でしょ?」


「……なんか、ごめんなさい」



 天気予報よく見てなかったですし、見てたとしても冗談だと思ってたかもです。


 ところによりハーピーって、どんな天気ですか? って、今さっきみたいな天気ですねー。


 運転に自信がある人なら出かけていいって事は、あれを避けるか何かするのか。


 そんな事を内心でつらつらと考えながら謝ると、お兄さんによしよしと頭を撫でられる。


「またジュース買いに行くのぉ?」


「今日はコンビニに行こうかと……」


 さすがにコンビニまではお兄さんが代わりに買い物へ行く訳にはいかないからか、お兄さんは少し悩む様子を見せるが、すぐに緩い笑顔を浮かべて一人で大きく頷く。


「そっか。うん、行っておいでぇ。──今なら大丈夫だろうから」


 緩かったお兄さんが一瞬ゾワッとするような目をしてハーピーを見ていて、それを見てしまった私は、何だか安心して、頷き返してゆっくり車を発進させる。


 安心した理由は、自分でもよくわからない。


 たどり着いたコンビニで買い物を終わらせてもわからなかった。



 会計をしていると、ホットスナックコーナーが目に入る。


 今はキャンペーンをやっているらしい。



「これください」


「今なら二個買うとお安くなってますよー」


 よく使うコンビニだったのに、全く知らない店員さんの笑顔を見ながら、私は「なら二つください」と返しておく。


 袋代を払ってレジ袋に買った物を入れてもらい、私は再び車へ乗って来た道を引き返していく。

 しばらく走ると道の脇のガードレールの所に、森の木々の緑の中に紛れてカーキ色が見えてくる。

 速度を緩めて近づいて行くと、お兄さんが小首を傾げてこちらを見ている。

「ぎゃぁ……」

 ハーピーは木に縫いつけられたまま、叫び疲れたのか疲れたような声で弱々しく鳴いているのが聞こえている。

 先ほど停めたのとは反対側の位置辺りに車を停めると、お兄さんがゆらゆらとした足取りで近寄ってきた。

「どしたのぉ? 帰り道の心配なら、こうやって一羽捕まえて鳴かせておけば、この辺には落ちて来ないから大丈夫だよぉ?」

 今なら大丈夫の意味がここで判明してしまったが、もともと気にしてなかったのでスルーして、お兄さんへ買ってきた麦茶のペットボトルとホットスナックを差し出す。

「んー、俺達ってこういうの受け取っちゃ駄目なのぉ」

 色々緩そうなお兄さんだが、規則は守るタイプらしい。

「そうなんですね、じゃあ食べて証拠隠滅しちゃってください」

 しかし、私も差し出した手前、引っ込めるのは恥ずかしいので笑顔で押し切る事にする。

「そっかぁ、その手があったねぇ。ごちそうさまぁ」

 押し切られてくれたお兄さんは、緩い笑顔でペットボトルとホットスナックの包みを受け取ってくれる。

 こっそりホッとしていた私だったが、ふと視線を感じた気がして囚われているハーピーの方へと視線を向ける。

 恨めしげにでも見てるのかと思ったら、ハーピーがキラキラした眼差しで見ているのは、私がお兄さんへあげたホットスナックの包みのようだ。



 中身は揚げた鶏なのだが、共食いにならないのだろうか?



「あの、ハーピーって鳥肉食べたら共食いに……」

 あまりの熱視線に、ホットスナックを食べているお兄さんへ恐る恐る訊ねてみるが、楽しそうにあははと笑いながら答えてくれる。

「んぅ? ならないならない。ハーピーはハーピー食べない限り、共食いじゃないよぉ」

「では、あのハーピーはこれからどうなるので?」

「君がここから離れたら、矢を抜いてあげるよぉ。俺に喧嘩挑むような馬鹿じゃないから、ビュンッて逃げちゃうと思うけどぉ?」

「……なら、矢を抜く時に、これあげてもらえます? 私の運転技術が足りなかったせいで、あぁなっちゃったお詫びに」

 私がそう言ってもう一つのホットスナックの紙包みを差し出すと、お兄さんの顔が一瞬真顔になり、え? と思う間もなく緩い笑顔へ変わる。

 見間違いかとパチパチと瞬きを繰り返していると、お兄さんは紙包みを受け取ってくれて、任せといてと自らの胸を叩いてみせる。



 見間違いではないのだろうけど、私が気にする事でもないので、私はもう一度お兄さんに助けてくれた事への感謝を告げ、目が合ったハーピーへは小声で「ごめんね」と囁いて、車を出発させる。

 背後から、お兄さんかハーピーかはわからないが視線を感じたが、車の運転に自信がない私はよそ見をせず、車を走らせ続ける。




 その後、無事に帰宅は出来たのだが、ちょうど隣のおじさまに車で帰宅したのを目撃され、ハーピー予報を知らずに出かけた事がバレてしまい、お説教される事に……。



 それをカッパくんにも隠れ見られていたようで、夕方キュウリを食べに来たカッパくんからお叱りらしきものを受けてしまった。



 迫力が皆無で可愛らしくて癒されると思ったのは内緒だ。

いつもありがとうございますm(_ _)m


扇風機の風を受けながら書きました(*´∀`)


皆様、熱中症にはご注意ください。

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