激闘。火焔。そして過去。
戦闘が激化する中、三鷹、マユリ、ジョン・ドゥの三人は次々と追跡者たちを打破していった。
だが、追撃の手は緩むことなく、圧倒的な数と巧妙な戦術で迫ってくる。
街中の暗がりに隠れた追跡者たちは、まるで忍者のように一瞬の隙を突いて攻撃を仕掛けてきた。
その巧妙さは、三人の戦闘能力を試すようだった。
「くっ、隠れたまま近づいてきやがる……!」
三鷹はその鋭い眼差しで、周囲を見渡す。
影を駆使して数人の動きを追い続けるが、彼らは目に見えないような速度で動くため、その位置を特定するのは容易ではなかった。
だが、それでも三鷹は影を自在に操り、わずかな動きからその位置を見つけ出す。
「分かった、全員だ……」
そう言い、三鷹は一気に影を伸ばし、近くの壁や地面に潜む追跡者を一斉に串刺しにする。
鋭い刃のように変化した影が、一瞬で複数の敵を捕らえ、戦闘を優位に進めていった。
「よし、あと少しだ!」
マユリは、冷静に周囲を警戒しながらナイフを手に戦う。
その細やかな動きで相手の急所を一撃で突き、次々と敵を倒していく。
彼女の強さは、その小柄な体からは想像できないほどの精密さと速さを持っていた。
だが、戦闘の疲労が彼女の体力に少しずつ影響を与えてきているのを、マユリ自身も感じ取っていた。精神的な疲れが彼女を苛んでいた。
「……まだ、終わってない。」
マユリはつぶやき、再びナイフを振りかざして敵に突撃する。
彼女の動きには、少しの迷いもなかった。
その頃、ジョン・ドゥは戦闘の中で徐々に覚醒しつつある自分を感じ取っていた。
肉体的な疲労はほとんど感じていないが、心の中で感じる不安や葛藤が、彼を少しだけ苛んでいた。
過去の記憶が断片的に浮かぶたびに、彼の胸に重い痛みが走る。
だが、それと同時に、何かが彼を変えようとしているのを感じていた。
「……これは、どういうことだ?」
ジョンは一瞬立ち止まり、自分の手を見つめる。
その掌には炎がほんのりと灯り、暖かさを感じさせる。
だが、それだけではない。
自分が今、何かを超えようとしているのか、何かが目覚めようとしているのか、その感覚が確かなものに感じられた。
その時、前方から一人の追跡者が現れ、鋭いナイフをジョンに向けて振りかざしてきた。
ジョンはその刃を避けることなく、じっとその動きを見つめる。
そして、瞬時に心の中で覚醒した力が彼を突き動かした。
「やめろ……!来るな……!」
ジョンの声が響き、瞬間的に周囲の空気が熱を帯びる。
彼の手から炎が一気に放たれ、追跡者を包み込む。
炎の壁が敵を囲い込むように広がり、追跡者はその熱に耐えられず、急いで後退した。
しかし、ジョンはその炎を制御し、相手が逃げられないように、さらに圧力をかける。
「――な、何だ、こいつは!?」
追跡者は炎に包まれながら必死に防御するが、その力の前には無力だった。
ジョンの炎は次第に強く、そして広がりを見せる。
その迫力に、マユリと三鷹も驚愕の表情を浮かべる。
「ジョン……!」
マユリが叫ぶが、ジョンはすでに炎を使いこなしていた。
彼の表情には、以前の迷いはなく、今やその力を完全に掌握しているように見えた。
炎を操り、周囲の敵を一掃する彼の姿には、ただの戦士の姿を超えた何かがあった。
「これが……俺の力。」
ジョンはその言葉を呟きながら、さらに力を解放する。
炎の壁がさらに高く、広く広がり、敵を制圧する。
追跡者たちはその圧倒的な熱に耐えきれず、次々と後退を余儀なくされる。
その瞬間、ジョンの中で何かが弾けた。
彼の過去の記憶の断片が再び鮮明に浮かび上がり、彼の胸を締め付ける。
母親の怒声が、そして家が炎に包まれる光景が、まるで目の前に現れるかのようだった。
彼の心は一瞬で過去の痛みに引き戻され、炎を操る手に微かに震えが走った。
――「お前がこんなことをしてどうするつもりだ!」
――「家を燃やすんじゃない! 何をしている!」
母親の声が耳の奥で響く。
過去に彼が家族と一緒に過ごしていた頃、暴力と虐待の連鎖が続いていたその頃。
ジョンの家は、何度も虐待が繰り返され、次第に家族は崩壊していった。
そして、ある夜――家族の誰かが家にやってきて、彼を追い詰める。
記憶の中で映像が流れ、ジョンは気づく。
彼の力が覚醒し、無意識のうちに家が燃え上がったのだ。
「俺が……!」
ジョンは叫ぶようにその場から離れた。
火災の記憶が彼を打ち砕き、その痛みが彼の内面に深く刻まれる。
だが、その記憶は同時に彼にとっての解放でもあった。
「あぁ……、母さん。」
ジョンは呟き、その炎をさらに強くした。
彼の中で覚醒した炎の力は、もはや単なる攻撃ではない。
それは彼自身の過去と対峙するための力、そしてその力を制御することで、過去を乗り越えようとする意志を示していた。
戦闘が終わり静寂が戻る中、ジョン・ドゥは燃える亡骸の前で立ち尽くしながら、しばらくその炎の力を感じていた。
彼を呼ぶ声の中で、何かが大きく変わったのを確かに感じていた。
そして、三人はその先に待ち受ける未来に向けて、再び歩き始めるのだった。