目覚め。覚醒。そして回る歯車。
この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。
僕が目を覚ましたのは、繁華街の裏路地だった。冷たいコンクリートに体を預け、ぼんやりとした視界で周囲を見渡すと、そこには誰もいない。狭い路地は静まり返り、耳の奥で鳴り響く音が不気味に響いていた。
「……ここは……?」
自分がどこにいるのか、何をしていたのか、全く思い出せない。記憶は白紙で、名前すらも浮かばない。ただ、目の前に広がる現実があまりにも不安で、胸の奥で冷たい恐怖が渦巻く。
僕は立ち上がろうとしたが、体がまるで言うことを聞かなかった。震える手を地面につけ、ようやく膝を伸ばして体を起こす。どこかに行こうとするも、体が重く、動きが鈍い。
その時、背後から声が聞こえた。
「おい、何だコイツ……?」
振り返ると、目の前に三人の男が立っていた。酒に酔ったような顔つきで、無遠慮にこちらを見ている。
「動けねえのか? それとも気でも失ってんのか?」
そのうちの一人がニヤリと笑うと、もう一人が僕に近づいてきた。無理に押し倒され、体が地面に叩きつけられる。
「ふざけんな!」
僕はそのまま押さえ込まれ、頭がぐらぐらした。誰かに助けを求めたくても、声が出ない。僕には何もできない。それだけは分かっていた。
その時、突如として何かが体の中で反応した。体が熱くなり、手のひらから突如として熱を感じる。まるで何かが目覚めるような感覚が全身を走る。
「な……?」
何かが弾けるように、僕の手から炎が勢いよく飛び出した。男たちは驚き、後ずさりする。しかしその炎は止まらない。手から次々と火花が飛び散り、周囲のゴミや空き缶が焦げ、燃え始める。
「うわっ!」
男たちは焦り、必死に後ろに下がる。しかし、炎はどんどん広がり、すべてを焼き尽くしていった。あっという間に、辺り一帯が火に包まれる。炎の力は止まらず、僕はただその異常な力が暴れ続けるのを見ていた。
周囲が静まり返り、炎が収まると、僕は立ち尽くしていた。手から煙が立ち上り、何もかも焼き尽くしたその光景をぼんやりと眺めている自分がいた。
「な……何が……」
呆然としたまま立ち尽くす僕に、冷たい声が響いた。
「君、いい力を持っているようだな。」
声の主に振り向くと、そこに立っていたのは一人の男だった。赤いジャケットに黒いシャツを着た男。彼の眼差しは冷徹で、どこか遠くを見ているような印象を与える。
「君、覚醒したばかりだな?」
男の言葉に、僕は何も言えなかった。頭が混乱していて、理解が追いつかない。ただ、何かこの男が僕に関わることは分かっていた。
「俺の名前は三鷹。君みたいな存在を探していた。」
その言葉に、僕は少し驚いた。存在を探していた? それって、どういうことだろう。僕は何も覚えていない、名前も何も。記憶は空白で、ただ目の前に広がる現実だけがリアルだった。
「君、名前を知っているか?」
「……名前?」
僕は言葉を詰まらせる。何も浮かばない。自分が誰なのか、何も思い出せない。そのことが恐ろしいほど不安だった。
「君の名前は……ジョン・ドゥだ。」
三鷹の言葉が響いた。その瞬間、僕はその名前に強く反応した。なぜか胸が痛む。痛みを感じると同時に、心の中で何かが押し寄せてくる感覚があったが、それが何なのか分からなかった。
「ジョン・ドゥ……。君はこれから、どうすべきか分かるか?」
「……分からない。」
僕は正直に答えた。自分がどうしてこんなことになったのか、何も分からない。ただ、この男、三鷹という人物の言葉には、なぜか信じる力があった。
三鷹は少しだけ肩をすくめて、そして静かに言った。
「君が覚醒した理由は分からない。でも、君は今から俺と一緒に生きるべきだ。今すぐに。」
その言葉には迷いがなかった。彼は何か確信を持っているようだった。
「俺が君を守る。君には俺が必要だし、俺にも君が必要だ。」
三鷹の言葉に僕は、無意識に頷いていた。自分が誰か、何者であるか分からない。でも、彼と一緒にいることで、何かが変わる気がした。
「ついて来い、ジョン・ドゥ。」
三鷹が歩き出す。その背中を見送りながら、僕も何の疑問もなくその後に続いた。自分がどこへ向かっているのか、何も分からない。でも、今はただこの男の後ろを歩くしかなかった。