戦型のぶつかり合い
ある地方の郊外、国同士をつなぐ国道の森の中、響き渡るは金属同士のぶつかり合い。衝突するごとに火花は散り、木々を切り倒す。そこには二人の男性がそれぞれの武器を持ち、対立していた。一人は太刀を携え、正面に中段構えで戦闘を繰り広げる男性、もう一人は大型長剣を片手で扱う男性。明らかな戦型の違いがある二人は、それぞれの特徴を生かして戦っている。
「ようお前、大人しくやられてくれるってことはありえねえ感じかよ」
「……もちろん。素直に斬られる筋合いはない」
大型剣士は太刀剣士に軽口を話し、すっぱりと太刀剣士は言葉でも斬り伏せる。苦笑いを浮かべた大型剣士は、再びその大型長剣を構えて圧倒的な力で操り、その剣を振るう。太刀剣士もその攻撃に合わせて太刀を振るい、金属音と火花を散らす。しかし、太刀剣士の方は少し焦りの表情が見え始めた。
(太刀は守りの打ち合いに弱い……奴は意外と力で剣を振るうから攻撃の速さがある。少し戦型を変えるか)
太刀剣士はそう考え、少しづつ太刀で攻撃を防ぐ頻度を抑え、身体移動による回避を織り交ぜるようになった。その変化に、大型剣士はすぐに気づき、攻めようとしたが、その一瞬の隙を見られ、大きく距離を離された。
太刀剣士の構えが正面中段から、体を右に向けて左側面が相手の正面に来るようにし、太刀をより体の近くに引き寄せて中段の位置に設置した。
(おうおう構えを変えやがったな。何が変わったか見ねえと斬られるかもな)
大型剣士は気を引き締める。今度は太刀剣士から向かっていき、剣戟は開始した。
太刀剣士の素早い身体移動で一気に間合いを詰められる大型剣士。焦らず相手の出方を伺っていたため、太刀剣士の初撃を防ぐことが出来た。
(なるほどな。さっきよりも有効間合いを狭くした代わりに、さっきのなで斬るような薄い入りじゃなくて、バッサリと叩き斬るスタイルに変えたって感じか。さっきよりも太刀の重さが重くなった。おもしれえなこの野郎)
大型剣士が面白くなってきたまさにその瞬間、少しの剣の緩みを見逃さず、太刀剣士の一太刀は大型剣士の左手甲を捉え、手甲を叩き斬り、斬撃が入る。大型剣士もすかさず太刀剣士へと斬撃を加え、攻撃後の隙で防ぎきれなかった太刀剣士の肩に浅い切り傷を付けながら吹き飛ばした。
(こうなっちまった以上、このまま戦闘続けても意味はねえ)
大型剣士はそう考え、声を出した。
「やっぱり太刀剣士ってのは強いなおい! しょうがねえから今日は見逃しておいてやるよ。また会ったらよろしくな!」
そう言って大型剣士はポーチから煙幕玉を取り出し、地面に叩きつけ、空間移動の属性魔法が宿ったネックレスを発動し、その場から消えたのだった。
「……中々やる奴だったな。やっぱり打ち合いは弱いもんなのか?」
太刀剣士は誰もいないはずの空間に質問を投げる。すると、そこには彼にしか見えない太刀の魂が人の形となって出現し、質問に答える。
「太刀の魂による、としか言えないわ。私は苦手だけどね。だからあれ以上やられたら多分五日は折れてたと思う。そうなると刀身の回復も遅くなるわ。今は結構刃こぼれはしてるけど、すぐに治るんだけどね」
太刀剣士は太刀の魂と会話を続け、その場から歩いて消えた。こうして、とある森の戦闘は終わりを告げたのだった。