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第5話 入部

中村さんが入部することに決まり、立ちながら長々話していたことに気づいた私たちは、部室の真ん中にある机をはさんで向かい合いながら、椅子に腰をおろした。


「それでさ、部活に入るのに部長って関係あったっけ?」

「あっ、なんか部長さんの名前が必要らしくって。この用紙に名前を書いてほしいんです。」


そう言いながら、中村さんは鞄から一枚用紙を取り出し、机の上に置いた。


「そうなんだ、初めて知ったよ。転校してくると色々めんどくさいんだね。」


私は用紙を自分の方に引き寄せて、眺めた。


「じゃあ、ここに名前かけばいいんだよね?私、部長だし。」


と、用紙の下の方に指をさして聞いた。


「はい、お願いします。  あの、さっきから気になってたんですけど、なんで高山さんが部長なんですか? 上級生の方がいるんですよね?」


私は、苦笑いを浮かべた。そりゃ、普通疑問に思うよね。二年生がいるのに一年生の私が部長だなんて。


「うん、いるにはいるんだけど。やる気が全くない人だから。私が部活に入った最初の日にさ、「部長よろしく。」とか言われて、押し付けられちゃったんだよ。」


あの日どれだけ自分がびっくりしたことか。思いっきりピカピカの新入生で右も左も分からない私にあの先輩は部長になれと言ったのだ。


ホントにめちゃくちゃというか、なんというか。


「まぁ、メールしとくから、数日のうちに先輩もくるだろうし。すぐに会えるよ。なんていうか色々驚くと思うけど、悪い人ではないから。」


私のあいまいな言い方に、中村さんは少し首をかしげたが、気にしないことに決めたらしく、うなずいた。


「えっと、はい、分かりました。会えるのが楽しみです。」


はは、ホントに素直な子。こういうタイプはあまり周りにはいない。


「あのさ、中村さん。同い年だし、これから同じ部の仲間になるわけだからさ、せめて敬語やめない?」

「えっ、あの敬語ではダメでしょうか?私はこれが一番話しやすいのですが。」


「えっ、そうなの?」


そういえば、彼女はクラスでだれに対しても敬語で話していたような気がする。まさか、ホントに金持ちのお嬢様なのかな、確かそんな噂もあった気がする。


「あの、やっぱり変ですよね?同い年なのに敬語って。」

「まぁ、あんまりいないかもね。」

「そ、そうですよね。」


彼女はちょっと沈んだ顔をする。なんか私、中村さんのことヘコましてばっかだよね。


そんな事実に気づき、少し焦りを覚えた。これから、仲間になるのに最初から嫌われたくはない。


「いいよ、いいよ。自分が喋りやすいのが一番だし。好きなように話して。」

「えっ、でもっ。」


なにかを言いかけた中村さんを手で制して、言葉を続ける。


「私はただ、中村さんが遠慮しているのかなって思っただけだから。そうじゃないなら、無理に敬語をやめろなんて言わないよ。気を遣わせているなら、悪いから。」

「いいえ、こちらこそ、気を遣わせてすいません。」


そう言って、少し頭を下げる中村さん。


あぁ、余計なこといったかな。私は急いで話題を変えることにした。


「あのさ、一つ聞いてもいい?」

「えっ、はい。どうぞ。」

「なんでさ、誰に対しても敬語なの?親の教育方針とか?」

「えっと、そんな感じですよ。私の両親はどっちも教師をしていますから。」

「そうなんだ。じゃあ、ここに転校してきたのは、もしかして?」

「はい、父がこっちの中学校に赴任することになったので、一緒に着いてきたんです。」

「この中途半端な時期に?」


そう聞くと、言いにくそうに視線をさまよわせる。


「あっ、ごめんね。無神経に家庭の事情聞いちゃって。」

「いえ、あのその話はまた今度でいいですか?私の中でもまだ整理がついてない事なので。」

「う、うん。本当にごめん。話したくないなら無理に話さなくてもいいから。」


中村さんは軽く首を振った。


「いいえ、整理がついたら、聞いてもらえますか?」


話すようになって数十分の私にそんな事を言ってくる。でも、その話を私が拒絶することはできない。というか、したくない。話したいというなら聞くしかないのだ。


それはきっと中村さんにとって必要なことなのだろうと感じたから。


「私でよかったら、いつでも聞くよ。」


と静かに答えた。


「はい、ぜひ。 高山さんはなんだか話しやすいです。」


中村さんは微笑みながらそう言った。


「そうかな、そんな事言われたことないよ。その逆っぽい事は言われたことあるけど。」

「えっ、そうなんですか。その人はきっと人を見る目がなかったんですね。」


彼女は打って変わって、いたずらっ子のような笑みを浮かべた。


だから、そう言うこと、サラッと言わないでよ。 ホント、照れる。彼女のまっすぐな瞳を見れなくなって、少し視線を下げた。



「あの、高山さん。私からも一ついいですか?」

「うん、何?」

「高山さんはいつもこの部室で何をしているんですか?さっき部活動はあまりしていないと言ってましたけど。」

「えっとね、大体は本を読んだり、宿題したりしてる。そこの棚に文庫とか入ってるでしょ?それほとんど私のなんだ。」

「この棚の本ですか?」


彼女は椅子から立ち上がり、後ろにあった棚を眺める。


「あっ、この本とこの本、私も読んだことありますよ。面白いですよね。」



そう言って、推理シリーズ「探偵街道」と恋愛の小説「桜の木の下で」を指差した。そして、他にも棚にある本を読んだことがあると言った。私は結構いろんなジャンルの本を読むが、彼女もそうらしい。まぁ、本が好きだと言っていたので、当り前えといえば当り前か。


一通り棚を眺めた彼女は、満足したのかまた椅子に座った。


「今度、高山さんのお勧めの本読ませてくださいね。」

「はは、もちろんいいよ。そのかわり、中村さんのお勧めも読ませてね。」

「はい、じゃあ、私も今度持ってきますね。」

「うん、その時は棚に置いていいよ。半分以上空いてるから。」


棚には、昔の文芸部の本も少しは入っているが、ほとんど空いている状態だ。今まで少し寂しかったので、本が増えるのはうれしいことだ。


それに、中村さんが読んでいる本は結構興味があった。本当に楽しみだ。



「あっ、そういえばまだ名前書いてなかった。えっと、シャーペン、シャーペン。」


と、鞄の中をガサガサ探し、筆箱からシャーペンを取り出したが、ツルっと手から滑って、床に落ちた。


「あっ!」


私がしゃがんで床に落ちたシャーペンを取ろうとしたとき。


ゴンッ!!


「イタッ!」

「っつ!!」


中村さんも取ろうとしてくれたらしく、私たちの頭はぶつかり、鈍い音を立てた。


二人して頭を押さえる。


「う~・・・・」

「あ~・・・・」


結構な勢いで頭をぶつけてしまった。


「ごめんなさい、大丈夫ですか?」

「うん、こっちこそ、ごめん。」


目線を上げると、中村さんが申し訳ないような顔をしていた。


私はなぜか今まで感じたことのないような胸を締め付けられる感じの罪悪感に襲われた。

なんだかこの子はよくこういう顔をするんだなと少し悲しくなる。笑った顔をしてほしい、そう思った。たったこれだけのことでそんな顔をしないでほしい。


もしかしたら、中村さんは私の隣の席でいつもこんな顔をしていたのかもしれない。嫌われているとおもっていたくらいだし。


涙目で頭をさすっている彼女を見る。すると、目が合った。


「中村さんこそ、大丈夫?」


そう言いながら、中村さんの頭に手を伸ばし、優しく、優しく頭をなでた。


笑ってほしい、そう思いながら。


彼女は少し驚いた顔をしたが、すぐに気持ちよさそうに目を細め、頭を少し傾けてくれた。


「あ、ありがとうございます。」

「ごめんね。」

「えっ?」

「なんかさ、色々。うまく説明できないけど、謝りたくて。」

「そうなんですか。・・・・では、許します。」

「何に対して謝っているのか分からないのに?」

「ええ、それでも。許しますよ。高山さんですから。」


そう彼女が顔を少し赤らめながら、私の瞳をみて言ってくれた。


その言葉は、私の心に優しく浸み込んだ。なんだか全てを受け入れてくれたような、そんな気がした。



それから私たちは、中村さんが持ってきた紙に名前を書き、担任に提出しに行き、とりあえず、今日はもう帰ろうということになった。




今回も二人の会話です。 そういえば、第4話まで主人公は恭子としか会話をしていなかったような気が・・・・。


今後はもっとほかの人との会話を書いていきたいと思います。でも、次話ではまだ中村さんとの会話がもうちょっと続く予定です。

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