表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/39

第4話 部室

私の部室は教室がある校舎の隣、廊下でつながっている旧校舎にある。 


もちろん、めんどくさがりの私が運動部なわけがない。文化部だ。この学校には校則で絶対部活に入らないといけない決まりがある。なので、なんとなくこの部活に入部したが、先輩は一人しかいなくて、部室にはほとんど来ない。


だから、実際には一人で部室を使えるのでかなり気にっている。自分だけの隠れ家みたいなそんな感じだ。 まぁ、ただ静かに本を読んだり、宿題したりするだけなのだけれど。


ちなみに、なぜ二人しかいないこの部が廃部にならないのかというと、さっきの校則のせいで全校生徒が部活に入らなければいけないので、入りたくない部に入部し、やる気のある人を邪魔するのを防ぐために、少しでも自分がやりたい部に入れるように部の選択肢を多くしているのだ。


だから、どんなに人数が少なくても廃部になることはない。例え人数がゼロでもその部は残っている。

そのおかげで私は部室を一人で自由に使えるので文句は全然ない。むしろ、ありがたい。



そんな事を考えながら、いつものとおり、2階のはじっこにある部室に向かい、ドアを開いた。


そこには、予想外の人物がいた。


「な、中村さん?」


まるでここがいつもの部室じゃないような異質な感じ。私が素っ頓狂な声を出すと、その人物が私に気づき、驚いたような安心したような表情をして、控え目に声をかけてきた。


「あっ、よかった。・・・・えっと、あの、ここ文芸部ですよね?」


一瞬なんのことだか分らなかったが、すぐにこの部のことを聞かれたのだと気づく。


「う、うん。一応そうだけど。扉の上に書いてあったよね?」

「あっ、それは見たのですが、誰もいないみたいだったので。」


確かに誰もいなければ不安になるのも無理はない。


「あぁ、えっと、ここね、私と2年の先輩しかいなくて、先輩は幽霊部員だから。ここに来るのは私だけなんだ。」

「そうなんですか、どおりで。あの、私、文芸部に入ろうと思ってきたのですけど、部長はその先輩さんですか?」

「ううん、違うよ。部長は私だけど。・・・・中村さん、文芸部に入りたいの?」

「えっと、はい。そうです。こちらに入部させていただきたいんです。」


私はちょっと困った。だってこの部は部活動というものを全くしていない。部室はただ私個人が好きに使っているだけで、私物でいっぱいだった。(ちなみに、文庫本やハリーとか棚に置いてある。あと、教科書も。)


「えっとさ、この部に入りたい理由とか聞いていいかな?」

「理由ですか?えっと、私、昔から本が好きで、ずっと文芸部に憧れていたんです。なのに、中学にも前の学校にもなくて。ここの学校の部の一覧をみたとき、すごく嬉しくなりました。」


目を少しキラキラさせている転校生にちょっと罪悪感を覚えた。しかし、事実は告げねばならないと思い切って口を開いた。


「あ、あのさ、悪いこと言わないから、期待しない方がいいよ。この部、部員が二人しかいなくてほとんど活動してないんだ。顧問も適当で、全然部活に来ないし、部費だってあんまりない。中村さん、なんでもできそうだから、他の部活にした方がいいと思うよ。」


そう私が言うと、中村さんは少し傷ついたようにうつむいた。


その表情の変化にすこし驚いた。彼女のイメージにはあまりに似合わなかった。いつも優しくほほ笑んでいる彼女が悲しそうな顔をしているのだ。普通だったら、それは当り前の表情だが、私の頭の中では完璧超人なので、感情は顔に出さないと勝手に思っていた。



中村さんは少し目線を上げ、私の目を見た。



「私は、別になんでもできるわけじゃないですよ。それに、私はどうしても文芸部に入りたいんです。」


最初は呟きのような言葉だったが、最後にはっきりとした彼女の意志を感じた。だが、そう私に告げた後、何かを言おうか言わないか迷っているかのように口を少し開け、また閉じた。


しかし、私が彼女の言葉を待っているのを感じたのか、思い切ったように口を開いた。


「あの、えっと、もしかして高山さんにとって迷惑ですか?」


そう彼女は言った。


「えっ?」


私は質問の内容ではなく、彼女が私の名前を知っていることに驚いた。というか、意外だった、注目の転校生がまさか私の名前を覚えているとは思わなかった。隣の席なので当たり前なのかもしれないが、本当に一言も話したことがないのだ。

私になんてどうせ興味なんてないだろうと思っていたから。


「あっ、その、ごめんなさい。私、失礼なことを。私のために言ってくれたのに。その、忘れてください。」


私の表情をどうとらえたのか、いきなり謝ってきた。


「いや、いいよ。こっちこそ、ちょっと失礼だったかも。・・・色々と。」

「色々?」


小さく言ったつもりだったが、聞こえたらしい。


「えっと、大したことじゃないから。」


そういうと、中村さんは目を伏せ、悲しそうな顔をして言った。


「あ、あの、前々から思っていたのですけど、やっぱり高山さん私のこと嫌いですか?だから、他の部活にしろって言うなら・・・・そう、します。」


あぁ、そんなつもりじゃないのに。そんな顔しないでよ。なんだか胸が痛い。

早く誤解を解かないと、嫌ってるなんて全然そんなことないのに。

確かに興味がないとは思っていたけど、中村さんもないとそう思っていたから、気にしていなかったんだ。


それに、私はあまり人付き合いが得意な方じゃない。どちらかというと苦手だ。友達も多い方ではないし、そもそも、自分から積極的に人にかかわっていく人間じゃないのだ。


だけど、だからといって、人が嫌いなわけじゃない。そう簡単に人を嫌いにはならない。中村さんのことだって、ただどう接すればいいか分からなくて、逃げていただけなんだ。


本当は恭子が少しうらやましかった。あんな風に話しかけたかったけど、私にはできなかった。でも、こんな風に誤解されるくらいなら、少ししかない勇気を振り絞って話しかけるべきだった。


今更、後悔しても遅いけど。


とりあえず、誤解を解こう。


「違う、違うよ。嫌ってなんかない。・・・たださ、ちょっと驚いたんだ。」

「? 驚いた?」


中村さんは首をかしげ、分からないという表情をした。


「えっとね、中村さん、私の名前知ってるんだと思って。」

「えっ、そんな事当たり前です。隣の席の方ですから。高山涼花さんですよね。高い山に涼しい花という漢字で。」


中村さんは当然だという顔をして、私の本名を漢字まで全部言った。私は言い終わった後の彼女の得意げな顔がなんだかおかしくてちょっと笑ってしまった。


「えっ、なにか間違ってましたか?」

「う、ううん、合ってる、合ってる。」

「じ、じゃあ、なんで笑ったんですか?」

「いやいや、なんでもないよ。ねぇ、一つ聞いてもいい?」

「はい、何ですか?」

「どうしてさっき私が中村さんのこと前から嫌ってるって思ったの?」


理由はなんとなくわかるけど、それでも彼女の口から聞きたいと思った。


「そ、それは。その・・・。」


彼女は少し目を泳がせて、ちょっと頬を染めてた。


「言いにくいことなら、言わなくてもいいけど。何か不快な思いさせていたなら謝るよ。」


私は今までのあまり友好的ではなかった態度を反省してそう言った。


「いえ、違います。そうじゃなくて、えっと、前々からずっと話してみたいって思ってたんです。でも、高山さんはいつも窓の外ばかり見ていて、私の方を全然見てくれないから、勝手に嫌われているのかなって思っていただけなんです。」


中村さんがちょっと遠慮がちにそう答えた。


そうか、やっぱり。恭子の言うとおりかまうなオーラがでていたってことか。でも、まさか彼女が私と話したいと思っていてくれていたことにかなりびっくりだ。そんなこと、これっぽっちも考えたことがなかった。だって、中村さんはクラスの人気者で、私はクラスの隅っこにいるような、そんな誰も気にとめない存在なのだ。いなくてもきっと誰も困らないし、気にしないだろう。

もしかしたら、恭子くらいは気にしてくれるかもしれないけど。


そして、そんな風に思っていてくれたなら、私の態度は本当に失礼だった。

悪いことしたと思う。ちゃんと謝るべきだよね。


「ご、ごめんね。私、人見知りなんだ。だから、中村さんとうまく話せなくて。でも、嫌ってなんかないよ、それは誤解だから。」

「そ、そうなんですか。はぁ~、ホントによかった。・・・嫌われてなくて。」


本当に安心したかのように彼女は呟き、微笑んだ。


その微笑みは本当に可愛くて、少し見惚れてしまった。


「高山さん?どうかしましたか?」

「えっ、ううん、なんでもない。」


残念、彼女の微笑みは一瞬で終わってしまった。また見たいなと何となくそう思った。


彼女はだいぶ最初のイメージとは違う印象あたえてくる。もっと大人っぽいイメージだったが、意外に子供っぽい人だと少し分かった。


この人は素直で嘘がつけない人なんだろうと思った。私はなぜ中村さんがみんなから慕われているのか分かった気がした。やっぱり私とは違うのだ。

眩しいくらいの純粋さ。  

それはどんなに羨ましいと思ってももう絶対手に入らないもの。

彼女はそれを持っていた。


彼女のことをもう少し知りたい。びっくりするほど自然に私の頭の中にその言葉が浮かび上がってきた。こんな風に人に興味を持ったことはないかもしれない。


でも、彼女の気持ちは変わってしまったかもしれない。私は、ちょっとためらったが、思い切って彼女に問いかけた。


「中村さん、本当にこの部に入りたい? 部員も全然いなし、活動だってほとんど何にもしてない部活なんだよ。それでもいいの?」


中村さんは驚いたような顔をした。そして、少し考えるように視線を部室に彷徨わせたが、すぐに私に視線を戻した。


「はい、それでもいいんです。ずっと、本当にずっと憧れていましたし。何をするかは私次第です。

それに・・・・話したいと思っていた高山さんもいますから。」

「えっ?」


私はその言葉に少し顔が赤くなるのを感じた。


は、恥ずかしい。そんなこと面と向かって言われたことないよ。


彼女も心なしか少し頬が赤い。


うぅ、自分で言ったくせに。


私が中村さんをまっすぐ見ると、彼女もまっすぐ見返してきた。


そして、きれいな笑みを浮かべ、こう言った。


「きっと楽しい部活になりますよ。そんな予感がします。」


無邪気な笑みで笑う彼女は可愛くて、その笑顔をみていると、不思議なことに私も本当に楽しくなる気がした。


「そうだね。・・・楽しくなるかもね。私も一人で部活するのは飽きてきたし。」

「それでは、私は本当にここに入部してもいいんですか?」

「もちろん、歓迎します、中村さん。」


私も自然に笑顔を返していた。


やっとヒロインの転校生中村葵さんとの会話です。というか、主人公と中村さんしか出てきてません。


未熟な文章で読みにくいこともあるかもしれませんが、これから精進していきたいと思いますので、どうか温かく見守ってください。


生温かくてもかまいません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ