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第27話 初デート?

ウキウキ、ルンルン、ウキウキ、ルンルン!


はっっっ!!そういえば、明日着る服どうしよう?


しまった、浮かれている場合じゃない。気づいたら、部屋の中で一人でスキップしてたよ、私!

只今の時刻、土曜の午後11時30分。そう、ひと眠りしたら、葵との待ち合わせの時刻になっていしまうのだ。


「せ、制服なんてダメだよね……。」


やっぱり初めて2人で出かけるわけだし、デートというわけではないけれど、それでもちゃんとおめかしして挑まねばいけない大事な約束だ。だって、相手はクラスメイトの女子とはいえ、私の片思いの相手なのだから。


失敗はしたくない。思いきり楽しみたい。こんな感情になったのは、いつ以来だろうか。子どもの頃はそこらへんの山に遠足に行く時でさえ、前の晩寝つきが悪くなるくらいドキドキしていたものだけど。今は、ほとんどそんな気持ちにはならない。どちらかというと、めんどくさいなーとか思っているたちだった。我ながら可愛くない子供だとは思う。でも、こればかりはしかたない。私は出不精なのだ。完全なるインドア派。だから、いつも家で漫画を描いている恭子と気が合うのかもしれない。


というか、そんな事考えている場合ではない、早く部屋中の服をひっぱりだして、吟味に移らなければならないのだ。



ふう、明日か……。



「ふわぁ~、ねむーい。」


目をこすりながら、待ち合わせの駅前を目指す。10時に待ち合わせているのだが、4時にやっと寝つけた私のまぶたはまだ少し重かった。


結局、服装といえば、いつものジーパンとTシャツに落ち着いた。というか、もともとあまり服をもっていなかったし、それでも明け方までかかったのは、すぐに思考が違う方に向かってしまったからだった。


だって、ちょーーー楽しみだったんだもん。


誰にというわけではなく、心の中でいい訳をする。そんな事をしても何の意味もないけれど、軽くハイテンションであるゆえに、独り言が多くなってしまうのだ。


歩いていると、駅がだんだんと見えてきた。すると、明らかに目立つ人影があった。


時計台の下。白いワンピース。たなびくスカート。


高校生とは思えない、雰囲気を醸し出している彼女がいた。きっと誰もが目を奪われてしまう、そんな風に私は思った。いつの間にか止まっていた足を彼女に向けて右、左と動かせる。ふと、葵が顔をあげてこちらを見た。そして、ゆっくりと微笑み、私に手を振ってくる。自分はここにいると知らせるために。


そんなの手を振らなくても分かるよ。例え、葵がどんな人ごみにいたって見つける自信が私にはある。瞳が彼女に惹かれてしまうから。


「ごめん、待った?」

「いいえ、私が早く来すぎたみたいです。」


ふふふとなぜか嬉しそうに葵が笑う。私もつられて笑ってしまう。気温はこんなにも暑いのに、私はこの時間がとても温かく、心地いいと感じてしまった。きっと、温度を感じる部分が狂ってしまったに違いない。


「何分からここにいたの?」

「ちょうど30分前ですよ。」


なんとなく、興味本位で聞いたが、まさかこの炎天下で30分も葵を待たせてしまったらしい。これはどう考えてものん気に笑っている場合ではなかった。


「ちょ、30分!?そ、それなら、ここじゃなくて、駅の中で待っててくれたらよかったのに。」

「そ、それは、その。ここにいた方が涼花さんに早く会えると思ったから……。」


それは、気温のせいなのか、それとも、照れているからなのか、少し頬を赤くさせ葵はそう答えた。


「そ、そっか。」


私は正真正銘、デレッデレに照れて、頬を赤くしたことはあまりツッコまないでほしい。

そんなことはともかく、これ以上葵を外に居させて、熱中症にでもなられたら困るので、私たちは足早に駅の中に移動した。


「電車くるまで、もう少し時間あるね。」

「はい、念のために待ち合わせ時間を早くしましたから。」

「それなのに、その時間より早く来たから、だよ。」

「ふふふ、そうですね。その通りです。」


私たちは電車が来るまでベンチで座って待つことにした。隣に座る葵をちらりと盗み見る。なんか不思議な気分だな。


「学校以外で初めて会うし、いつもの制服着てないとなんか変な感じだよね。」

「えっ、わ、私の格好どこか変ですか?。」

「い、いやいや、そうじゃなくて。そのいつもとなんか雰囲気が違うというか。」


そういつもより、大人っぽくて……


「やっぱり地味でしたか?」

「う、ううん、そんなことない、めっちゃかわいい!!」


「えっ。」「あっ。」


「ご、ごめん。急に大声出して。」

「いえ、あ、ありがとうございます。その、涼花さんもとても素敵です。」


ちょっとうつむきながら、私をみる葵にすごいドキドキする。私服の葵はとても綺麗で、私の隣にいるのが信じられないくらいお嬢様な雰囲気を醸し出していた。なのに、そんな恥ずかしそうな表情を見せられたら、私は一瞬のうちに葵に魅せられてしまう。


「いつも部室で二人でいるのに、なんか私たち緊張しすぎかも。」

「はい、私もそう思ってました。いつもの私たちじゃないですね。」

「じゃあ、はい、カット。」


私はパチンと両手をたたく。


「じゃあ、ここから仕切り直し。今日は楽しみたいから。」

「はい、私も楽しみたいです。」


少しだけ笑いあって、なんだか少しだけ変な緊張がとけていく気がした。



それから、私たちは自動販売機でジュースを買い、駅のホームに座りながらゆったりと電車を待った。

色々な話をした。部室にいるより、口は軽く動いてくれ、話は弾んだ。それは、二人のテンションが上がっているからだろうか。いつもと違う空間でしゃべるのは、なんだか不思議な感じがした。


そうしているうちに、電車がやってきた。私たちはそれに乗り込み、大きい本屋がある隣町へと向かう。

日曜日の町中はある程度の人で賑わっていた。私と葵は横に並んでいたが、気を抜くと人ごみの中に紛れてしまいそうだったので、私たちは自然と手をつないで歩いていた。


「ふうー、やっぱ混んでるね。」

「はい、日曜日ですからね。皆さん、買い物が溜っているんですよ、きっと。」

「そうだね、ただでさえ、日差しが暑いのに、こんなに人がいたらすでに蒸し風呂だよ。」

「ふふふ、でも、今は人ごみも結構いいなと思いますよ。」

「えっ?なんで?」


私がそう聞いても、葵はクスッと笑うだけで、何も答えてくれなかった。ただ、繋いだままの手をギュッと握った感覚がした。


私は人ごみ苦手だな、ただでさえ、暑いし。まあ、冬でもやだけど。でも、不思議と葵が隣にいるなら、人ごみも悪くないかもと、ちょっとだけそう思った。


ちょっとだけ歩いて、私たちは、目的地である大きい書店にやってきた。絵本、漫画、専門書、辞書、雑誌等々なんでもそろっているところだ。ここにないならもうその本は絶版だというくらいだと思う。

まあ、それはこの本屋に期待しすぎか。


「そういえば、聞いてなかったんだけど、葵は何の本を探しているの?」

「えーっと、野坂癒名(のざかゆめい)さんって方の小説なんです。最近新刊がでたらしいんですけど、地元の書店には置いてなくて。」

「へえー、そうなんだ。私は聞いたことないな。」

「もしよかったら、涼花さんも読んでみませんか?」

「え、いいの?」

「はい、その実は涼花さんにも読んでほしいなと思っていたので、今回お誘いしたんです。」

「あっ、そうなんだ。葵が好きな小説なら私も読んでみたいな。どういう本なの?」

「えっと、野坂さんは恋愛小説がほとんどなんですけど、どの小説もとっても素敵で、読んでると胸がドキドキしてくるんです。まるで、自分が主人公になって恋してるみたいに。時には、苦しくなったりするんですけど、でも、最後は必ず幸せで。読み終わると、いつもほっこりするんです。」

「へえ~、良いね。私も早く読みたくなってきたな。」

「はい、ぜひ読んでみてください。」


私たちはそのあと、書店を歩き回り、葵がほしかった本を見つけた。葵はまるで宝物をみつけた子供のように本当に大切そうにその本を抱きしめた。ああ、この子は本当に本が好きなんだ。ただ横顔みただけで、きっと誰もがそう思ってしまうくらい、幸せそうなほほ笑みだった。それをみて、私も自然と笑みがこぼれる。だって、そんな彼女か私にとっての大切な宝物なのだから。


「さて、用事も済んだし、この後どうする?」


せっかく来たのだし、すぐ帰るのはもったいないと思った私は、本を大事そうにしまっている葵に尋ねた。


「えっと、その、涼花さんに用事がないなら、近くのカフェでお茶したいなと思っていたのですが、いかかがですか?」


葵はちょっと緊張した声色で私にそう聞いた。


「うん、いいね。お茶しよ。」

「はい。」


葵が連れてきてくれたカフェはとてもおしゃれだった。シックな雰囲気で、落ち着くような音楽が流れている。人は多くも少なくもなくて私は一瞬で気に入ってしまった。


「このお店でよかったですか?」

「うん、とても素敵な店だね。葵はよく来るの?」

「はい、その、昔はよく来ていました。」


どこか懐かしそうに店内を見回す葵。どうしたのだろう、その横顔が少しだけ憂いを帯びているようにみえた。だから、私はそれ以上聞けず、話題を変えるため、メニューを手に取った。


「ほら、なにか飲もうよ。暑いから、冷たいものも食べたいな。」

「はい、そうですね。」


葵がやさしく微笑んでくれてとりあえず、ほっとする。初めてのふたりでのおでかけを暗い表情のまま終わらせたくない。そんなちっぽけな想いが胸の中にあった。


「そういえば、その野坂癒名さんって何冊くらいだしてる人なの?」

「これも含めて、3冊だったと思います。」

「へえー、割と少ないね。」

「はい、実は結構最近デビューした方なんですよ。」

「あぁ、だから、知らなかったのかな。」

「ええ、そうだと思います。でも、一冊でも読むときっと涼花さんも好きになってくれると思います。」

「葵がそこまで言うなんて、意外だね。」

「あっ、す、すいません。」

「? なんで謝るの?」

「わたし、うるさいですよね?」

「ううん、そんなことない。そーんなにその作家さんが好きなんだなと思ってさ。」

「………はい、大好きなんです。」

「うん、伝わったよ。私も早く読んでみたい。」


喫茶店で、二人で時間を忘れてのんびりと会話を楽しんだ。気が付いたら、もう午後3時を過ぎていた。

私たちは、そろそろ帰ろうとお会計をすませて、店をでた。


まだ暑い日差しの中を二人で歩く。たくさん会話したあとだったので、二人はほとんど話さず駅までの道を歩いた。ただ来た時と同じように手だけをつないで。


何も話さないでいると、葵の手を熱さを、葵の熱だけを感じた。すべての感覚を放棄して、ただお互いに対する感覚を研ぎ澄ませて、私たちは家路に着いた。


「………。」


………………。


「はぁーーーーーーーー。」


私は詰まっていた息を一気に吐き出した。

なんかもう胸がいっぱいって感じで、何も考えられない。息をすることさえ、忘れてしまいそうだ。

今日のことを考えることさえ、なんだかもったいなくてできない。


一日中、葵と二人っきりでいることがこんなにも幸せなんだ。


「楽しかったなー、今日。でも………。」


(もっと、もっと、一緒にいたい。一日中一緒にいてもまだ、足りない。)



空を見上げると、大きな月とキラキラと輝く星が綺麗で、こんな景色もいつか一緒に見れたらいいなと思った。




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