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第25話 相談

「えっ?あお……、じゃなくて、中村さんのこと?」

「ええ、あなたに相談するのが一番いいと思って。」

「なっ、ど、どうして?」

「だって、あなたと中村さんて同じ部活なのよね?」


戸川さんは、ただなんてことない事実を言うようにあっけなく言い放った。

その言葉がどれほど私にショックを与えるとも知らずに。


「……そのこと、知ってるんだ。」


そっか、そうだよね。戸川さんはきっと、葵の一番の友達だもんね。知っていて当然だ。


2人の秘密……、それがなんだか嬉しくて誰にも知られたくない、そんな風に思っていたのは私だけだったのかもしれない。まぁ、恭子にも知られているから、もう二人の秘密ではないけれど。


それでも葵が他の誰かに話していたのは、少しだけショックだった。


「高山さん?」


戸川さんが急に黙り込んだ私を心配して、声をかける。


「あっ、ごめん、何でもないよ。」


私がそう言っても、戸川さんは私を見つめながら、何か考え込むような表情をする。

私はなんか気まずくなり、すぐさま気分を切り替え、改めて聞く。


「そ、それで、相談って何?」

「えっ?あぁ、そうだったわね。」


戸川さんは、何かを訝しむような目つきをやめ、いつもの涼しい顔に戻り私を見つめ直した。


「あなたに相談というのはね、最近、中村さんの様子が変なのよ。」

「えっ?変?どんな風に?」


そう聞き返しながら、私は最近の葵の様子を思い浮かべたが、そういえばつい最近まで葵と距離を置いていたので、様子なんて知らないことに気がついた。

そして、何だかそのことに少し胸の痛みを覚える。もし、あの時、私が離れていかなければ、様子が変だということに一番に気づけたのは自分じゃないのかと。


……なんだか最低だな私。そんなの自業自得じゃないか……。


私の思考は、再びどんどん自己嫌悪の渦の中へと落ちていく。それを戸川さんの私を呼ぶ、涼やかな声が遮った。


「――さん、高―さん、高山さん。」

「あっ、ご、ごめん。」


しまった、戸川さんが前にいるのに、また、自分の殻に閉じこもるところだった。


「高山さん、大丈夫?もしかして、具合が悪いとか?なら、この話は後で構わないのだけど。」

「いや、えっと、大丈夫だから。なんともないよ。ちょっと考え事してて。」

「そう?それならいいんだけど。」


戸川さんの私を見る眼鏡の奥の瞳は、なんとなく私をいたわるようなものに思えた。その瞳を恐いなんて思っていた自分が恥ずかしくなるくらい。


少しの罪悪感を抱きながら、私は戸川さんに話の続きをお願いする。


「うん、ごめんね。それで、中村さんの様子って?」

「あぁ、えっと、それが近頃、落ち着きがないというか、情緒不安定というか。」


戸川さんにしては珍しく歯切れの悪い答えだ、そして、そう答える時もどう言えばいいのか迷っているような顔だった。


「まぁ、情緒不安定は言い過ぎかもしれないけれど。とにかくなんか様子が変なの。」

「うーん、具体的には?」

「そうね……、例えば、この間まで何か悩んでいるような様子で、時々すごく泣きそうな顔していた時があったんだけど、どんなに聞いてもその理由を答えてくれなかった。かと思えば、今はなんだか機嫌がいいというか、何もないのに嬉しそうに笑ったりしてるのよ。」

「はぁ……?」


それって、まさか……?


「それがここ数日間で起こっていることだから、その少し中村さんが心配で。どうしたのって聞いても、何もって答えるだけだし。だから、高山さん、何か知ってる?」

「えっ、あっ、えっと……。」


何と言ったらいいのか。「あっ、それ、たぶん、私のせいです。」なんて言えない。

というか、葵ってそんなに顔に出るタイプだったのか。きっと思い出し笑いしていたんだろうな……。


そのことは、ちょっと私もニヤニヤしちゃうくらい嬉しいけど。でも、結果的には私が窮地に立たされている。これを因果応報というのかもしれない。


「何か心当たりあるの?」


私のしどろもどろな様子をみて、戸川さんがそう聞いて来た。


「いや、えっと、あるようなないような。ないようなあるような。」

「それ、どっちか、分からないのだけど。」

「あると言えば、あるし、でも、ないような気もしているみたいな?」

「つまり?」

「…………あります。」


どう言っても戸川さんをごまかすことは無理だと感じ、私はしょぼんと肩を下げそう告げる。


すると、しばし無言の時間が流れ、えっ、もしかして、すごく怒ってる?と思ってチラッと戸川さんの表情を伺うと、


「ぷっ。」

「えっ?」


なぜか、私を眺めながら、戸川さんはもう堪えきれないという風に笑いを漏らしていた。


「えっ、えっ?」


なんで、どうして?怒っているなら理解できるけど、この状況は何?どうして戸川さんは笑っていらっしゃるのか?


私が困惑して、顔を右往左往させていると、さらに戸川さんのツボを刺激したらしく、その顔に笑みを深く刻んだ。私は、もう困惑していることも忘れ、見たこともない戸川さんの笑顔を呆然と見つめることしかできなかった。


戸川さんは、クラスの誰よりも大人っぽく(担任も含む)、いつも冷静に行動できる人だ。大笑いしている所なんて、あまり仲よくない私はそうそう拝むことはない。葵とも日下部先輩ともベクトルが違う美人だと思う。そういえば、美人な人ってあんまり爆笑していることってないのかもしれない。


私は身近な二人の整った顔を思い浮かべながらそんなことを思っていた。


戸川さんは、ひとしきり笑って満足したのか、呼吸を落ち着かせようと胸に手を置き、深呼吸を繰り返していた。


「ふぅー、ごめんなさい。高山さん、気を悪くしないで。」

「ううん、別に悪くなんてしてないよ。でも、どうしたの?そんなに可笑しなこと言ったつもりはなかったんだけど。」

「いいえ、十分可笑しかった。」

「ええ!?そ、そう?」

「だって、あなたったら悪戯を叱られている子供のような顔しているんだもん。」

「はっ?」


戸川さんの顔が柔らかく緩む。とても、とても、優しい表情だった。それはきっと誰もが見惚れるような。私はこの時、なぜ先輩が戸川さんを好きなのか、少し理解できた気がした。


「そんなに私って恐い?」


その優しげな顔を崩さないまま、私にそう問いかける。


「い、いや、そ、そんなこと、思ってないよ。」


私は慌てて首を横にブンブンと振る。そんな私の様子を見て、戸川さんはまた少し笑うのだった。


「高山さんって、案外面白い人なのね。」

「うっ、それって誉め言葉じゃないよね……。」

「いいえ、立派な誉め言葉よ。私にとってはね。」

「ううぅぅぅ~。」

「ふふふっ」

「……というか、戸川さん、怒ってないの?」


私がそう呟くようにポツリと聞くと、戸川さんは笑みを消して、不思議そうな顔をした。


「私が怒る?どうして?」

「いや、だって、あお、じゃなくて、中村さんの様子が変なのって私のせいかもしれないんだよ?」

「あぁ、そのこと。」


そう言って、戸川さんは真剣な瞳で私を直視する。


「私は、怒っていないわ。」

「で、でも……、」


何か言おうとした私の言葉を遮り、戸川さんが続ける。


「なぜなら、それは二人の問題だからよ。私が口を出せることじゃない。」

「でも、戸川さんは中村さんのこと心配していたんだよね?」

「ええ、心配していたわ。あの子もわけを話してくれなかったしね。でも、私が心配していたのは何か大変な事が起きているのかもしれないと思ったから。だから、あなたと中村さんの間で起きたことが関係しているなら、きっとそれは私が心配しているような大変なことじゃないと思う。だから、私は怒らないし、口も出さない。」


戸川さんは私の瞳をじっと見つめたまま、言った。


「これで分かってくれた?」

「う、うん。」

「よし。」


そう言って、頷き、戸川さんはまた微笑んだ。


私はとても不思議な気持ちだった。でも、今日分かったことが一つだけある。こういう人だからこそ、あれだけ皆に慕われて、クラスの中心に立っていられるのだろうということだ。私はなんだか戸川さんが眩しく見えた。それは目を細めてしまうほどに。


「それじゃあ、そろそろ昼休みも終わる頃だし、授業が始まるから教室に戻りましょう。」

「そうだね。」


そう言った途端、予鈴のチャイムが学校中に鳴り響いたので、私たちは慌てて教室に戻ったのだった。



新年明けましておめでとうございます。今年も「転校生な彼女」をよろしくお願いします。さてさて、本編でしたが今回は戸川さんとのターンでした。そろそろ戸川さんとの絡みもほしいなと考え、ちょっとこのようになりました。今後、どんどん出番が増えてくる予定なので。


そして、次回はやっと、今度こそ、番外編の最終回がやってまいります。どれくらいで投稿できるかは分からないのですが、気長にお待ちください。


あっ、それと、今度おまけ程度に人物紹介を入れると思います。いまさらだと言われそうですが、思いついたので今作成中です。それもぜひ読んでみてください。

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