番外編 先輩の春⑦
短めなお話です。
結子さんは、厳しい表情を少し緩め、呆れたような溜息をふぅーとはいた。
「それで?」
「えっ?」
結子さんの声に一瞬ビクッと身体を震わせ、ゆっくりと顔をあげる。
「な、なに、かしら?」
「だから、それで言い訳はないの?」
「あ…………。」
言い訳なんて、あるわけない。すべてあたしが悪いのだから。
あたしはうなだれ、また視線を床に戻した。
「そう。」
結子さんはそんなあたしの様子を見て、少し同情的な声を出す。
「どうして自分があんなこと言ったのか分かってる?」
「えっ…………?」
あたしは、すぐに答えることができない。どうして?どうしてなのだろうか?なんで、高山さんにあんなことを言ったのか、自分でも分からない。衝動的なものだったとしか言えない。
結子さんがゆっくりと近づいてきて、あたしの真正面に立ち、じっとあたしを見詰める。その表情はまるで何も分かっていない子供に教えるような表情だった。
「うちが教えてあげようか?」
「結子さんが知っているというの?」
「まぁ、大体は分かってるつもり。これでもずっと亜季を見てきたからね。友達として。」
「お、教えてほしいわ……。」
あたしがそう言うと、結子さんがなんとなく寂しそうに目を細めた。
「嫉妬してるんだよ。」
「し、っと?嫉妬なんていったい誰に?。」
「うちに。」
「え……?」
「だって、さっきの亜季は、涼花ちゃんにただ自分だけの側にいてほしいっていう気持ちを伝えてたようにしか見えなかったけど?」
「た、確かにそのようなことは言ったかもしれないわ。けれど、嫉妬なんて……。今まで、そんな事思ったこともないわ。」
「そう、だから、自分の気持ちが分からなかった。それで、余計にイライラしちゃったんだよ。それで、ちょっとのきっかけで爆発したんだと思う。亜季はさ、実は誰にも、何にも執着ってしないじゃない?離れていくなら、しょうがないって思ってる。」
「…………。」
結子さんが全てを見通しているかのように、話しだす。いいえ、実際に全てを分かっているのだろう。あたしよりあたしのことを知っている人だから。いつでもあたしを助けてくれる人なのだから。
「でも、それは恋人とか友達とかの話。亜季にとって後輩っていうのは初めてなんでしょ?今まで、ずっと恋人や友達という関係だけだった亜季にできたったひとりの後輩。きっと心を許していたんだと思う。自分だけを慕ってほしいって思うのは当たり前だよ。あれだけ可愛い後輩ならなおさら、ね。」
「そ、そんな、あたしはいつの間に心を許していたのかしら……。」
「亜季にとって、気を張らなくていい相手なんだもん。きっと気付かないくらい自然だったんだと思うよ。」
あたしは、結子さんの言葉をゆっくりと心の中で整理する。
あたしはいつの間にか、あの子を好きになっていたということ……?
でも、それは恋ではないことだけは分かる。高山さんへの気持ちは、結子さんに対するものに近い。
そう友達みたいな。
高山さんといると、とても楽しい。あたしにあれほど言ってくれる人ってそうそういない。あの子に怒られると逆に楽しい気持ちが強くなる。面白いって思う。
だから、ついつい、冗談を言いたくなる。あの子はきっと呆れた顔しながら、あたしを怒るだろうから。
それがお互いのコミュニケーションの仕方だった。
あたしは、高山さんを失いたくない。きっと、あたしにとって大切な存在なのだ。
だから、今、しなければならないことは、たった一つ。
「……あたし、謝ってくるわ。」
ぽつりとあたしは、呟いた。
「うん、いってらっしゃい。」
結子さんはとても満足したように微笑んでいた。
もしかしたら、今回から投稿する話が短めになるかもしれません。そうした方がもっと投稿できると思うので、ご了承ください。
次回は本編です。