番外編 先輩の春⑤
さつきの家の中はまさに、想像以上だった。なんなのこの広さ、そして、豪華さ。
まず、あたし達が中に入って驚いたのは、十人くらいのメイドがいたこと。一斉に「おかえりなさいませ。」と言われ、あたし達の荷物をすばやくどこかに持っていってしまった。
その後、さつきに家の中を案内すると言われ、今に至る。
なんとこの家には、遊び専用の別館があり、そこには、プール、ビリヤード、ダーツ、ボーリング、カラオケ、などなどが完備されていた。実際に、この目でそれを見た時には、もうここはお金を払って使わなければみたいな気持ちにとらわれそうになった。
他にも外にはサッカー場や、テニス場、ゴルフ場なんかもあった。
そして、なんといっても、大浴場がある。それにサウナも。あたしは結構お風呂好きだから、これほど嬉しいことはないけれど。
あたし達がさつきの家というか敷地を一回りする頃にはかなり時間がたっていて、もうお昼になっていた。そういえば、あたしの恋人達が来るのは明日からになっている。なにしろ、昨日決めたことなのでさつきの準備が大変だというのを考慮し、明日からにしたのだ。
ちなみに、それでも、なぜあたし達が先に来ているのかというと、さつきのご両親がまだ日本にいるので一応泊まらせていただく挨拶をするため、一足早く集まったのだ。
「さつきお嬢様、そろそろお食事の用意ができましたので、本館へお戻りください。」
あたし達にそう言ったのは、20代くらいの結構綺麗なメイド服をきた女性だった。その姿勢も態度も家政婦とかそういう人とは次元が違うと思った。なんて洋風なのかこの家。
「うん、分かった。みんな、そろそろ戻ろうか?」
「ええ。」
「はい。」
「はーい。」
三人それぞれが返事をし、歩いて本館に戻った。(ちなみに、本館までは歩いて15分かかる)
本館に着くと、あたし達は大広間に通された。そこには、長いテーブルがあり、白い清潔そうな布がかけられていて、その上にはまっ白い皿とフォークやらが並べられている。
「ここ、レストランじゃないですよね?」
「ええ、そのはずだけど。」
「ほー、これまた、豪華だね。」
「それじゃあ、みんな適当に座って。あっ、だけど、そこの二つの席には座らないで。」
と、さつきがテーブルの一番奥の椅子とその横にある椅子を指差した。
「分かったわ。」
あたし達は、それぞれメイドさんに椅子を引かれていた場所へと座る。あたしの隣は、さつき。前には、高山さんと結子さんの二人が座った。
その時、執事さんらしき中年らしき男性がさつきに近づき、何かを耳打ちした。
「はい、分かりました。それなら、少しシェフに待ってもらってください。」
「かしこまりました。」
うやうやしく頭を下げ、執事さんは奥へと戻って行った。
「さつき、どうかしたの?」
「う~んとね、お父さんとお母さんが予定より早く家に帰って来れそうなんだって。だから、せっかくだし、昼食を待ってようと思って。みんな、まだお腹減ってないよね?」
「ええ、大丈夫よ。」
「私も大丈夫です」
「うちも。」
「じゃあ、少しだけこの後のことを話すね。このあとは、みんな疲れたと思うから少し休んでもらおうと思うだけど、部屋はね、とりあえず、二部屋用意しているんだけど、部屋割はどうする?」
「へ、部屋割ですか?」
「うん、三人のうち一人が一人部屋ということになるんだけど。」
さつきがそう言うと、結子さんと高山さんが一緒にあたしをみる。
なんとなく、二人の考えていることがわかる。
つまりは、あたしと一緒の部屋になるのはさつきに悪いとでも思っているのかしら。
結子さんも高山さんもたぶん、あたしとさつきの関係には気が付いていると思うし。
「それなら、あたしが一人部屋になるわ。」
「うん、じゃあ、うちと涼花ちゃんが一緒の部屋だね。」
「はい、よろしくお願いします。」
「うんうん、よろしく。」
2人は笑顔でなにやら握手を交わしていた。その時、あたしの服の袖がくいくいっと引っ張られる感覚がして、そちらを向くと。
「夜中とか、亜季の部屋に遊びに行ってもいい?」
「…………ええ、もちろんいいわ。」
あたしがそう言うと、さつきは幸せそうにはにかむ。あたしもほんわかした気持ちになり、少し微笑んだ。
それから、20分くらいしてから、さつきのご両親が到着した。あたし達は席を立ち、挨拶へと向かう。
玄関にいる二人を見ると、男性の方は、スーツを着ていていかにもダンディという言葉が似合う人だった。さつきの父親には若いように見えたが、顔に刻まれているしわがそれなりの年齢を感じさせた。女性の方は上品なドレスのような服を着ていて、どことなくさつきに似ている。さつきが大人になって、落ち着いたらこんな感じになるのかと不思議な気持ちになった。
「はじめまして、さつきの父親です。今回は連休中、娘の遊び相手になっていただけるらしいですが、娘をよろしくお願いします。」
「自分の家だと思って、ぜひくつろいでくださいね。何かご要望があれば、使用人にいいつけてください。」
お二人は、きさくな笑顔であたし達に話しかけてくれて、歓迎してくた。そうして、みなでまた広間に戻る。
席に皆が座り、シェフたちが料理を運んだり、手際よく準備をしていた。
運ばれてきた料理は、どれも洋風で、名前も分からないものだったが、見ただけでよだれが出るくらいおいしそうだった。
「それでは、みなさん、いただきましょう。」
さつきのお父さんに掛け声で、皆一斉に食べ始める。味は、まろやかだったり、こってりだったり、あっさりだったり、色々な料理が出てきて、あたし達のお腹をかなり満足させてくれた。
「みなさんのこれからの予定はどうされるつもりなのですか?」
今度はお母さんがあたし達に話しかけてきた。それに、さつきが答える。
「今日は、みんな疲れたと思うので、もう休もうと思っています。明日から、訪ねてきてくれる方もいるので、その方たちと一緒に遊びたいので。」
「そう、怪我のないように遊ぶのですよ。」
「はい、お母さん。」
さつきのご両親は昼食を食べた後、すぐに海外へと行くために、すぐに出かけて行った。仕事でヨーロッパに行くそうだ。
「じゃあ、みんなの部屋に案内するね。」
さつきを先頭にしてあたし達は歩きだす。この本館は三階まであるのだが、あたし達は二階の奥に案内された。部屋の前には、あたし達の荷物が置いてある。
「えっと、こっちが一人用で、こっちが二人用ね。」
最初に左の扉を指差し、次に右の扉を指差した。
「とりあえず、荷物を中に入れましょう。」
あたしとさつき、結子さんと高山さんに別れ、それぞれ荷物を持って部屋の中に入る。
「へぇー、やっぱり広いのね。」
「うん。お父さんがお客様は大事にしろっていう主義だから広いんだよ。」
「まるで、ホテルのスイートルームみたいだわ。」
あたしは、部屋をぐるっと一周見回しながら、そう言った。
「亜季、気に入った?」
さつきがあたしの顔を覗き込みながら、そう聞いてくる。
「ええ、とっても。」
「そっか。」
さつきはなんだか嬉しそうだ。あたしは、さつきの頭を柔らかくなでる。サラサラで温かい。
「ふふふ。亜季が私の家にいるってなんだか不思議だね。」
「そうね、初めてさつきの家に来たんだもの。」
「うん。」
さつきは、あたしの腰に軽く手を回して、抱きつく。あたし達は少しの間だけそのままでいたが、さつきがあたしの顔を見上げて、
「ねぇ、亜季。」
「何?」
「あのね、キス……してほしいな。」
あたしは、優しくさつきの頬に手を当てた。そして、ゆっくりと顔を上に向かせる。お互いの息がかかるほど顔を近づけると、そっとさつきは目を閉じた。それを合図に、あたしはさつきの唇に自分の唇を触れ合わせる。最初は、軽く、だんだんと強く自分の唇を押しつけた。
最後に、チュッという音を残して、あたし達は離れる。
「そろそろ、結子さんたちの様子を見に行かないといけないわ。」
「うん、そうだね。」
あたし達は手をつなぎ、部屋をでた。
その後は、四人で談笑して、夕食を食べ、あたし達は明日への期待を膨らませながら眠りについた。
次の日、朝から4人くらいのあたしの恋人達がさつきの家を訪れた。
「亜季ちゃん、おはよう。」
「先輩、おはようございます。」
「ここ、すごい所ですね。」
「広ーい。」
皆がさつきの家を物珍しそうに眺める。
「みんな、おはよう。今日から一緒に楽しく遊ばせてもらいましょう。」
「あ、あの、日下部先輩……?」
これから思いっきり遊ぼうという時に、高山さんがあたしの裾をひっぱりながら名前を呼ぶ。
「何かしら?」
「これ、どういうことですか?」
「これって?」
「……なんで、先輩の彼女たちがたくさんいるのかって話ですよ。」
高山さんはちょっと頬を引きつらせながら、そう問いただす。
「なんでもなにも、最初からそういう主旨だったのよ。」
「はっ?」
「だから、あたしがみんなと遊ぶための計画だったの。」
「なら、どうして私も呼んだんですか?」
「それは、楽しくなりそうだったから、かしら。結子さんも同じ理由で呼んだのよ。」
「ゆ、結子さんまで……。」
あたしは、高山さんの言葉に少しモヤっとした、というか、ムッとした。それがなぜなのかは分からない。
「そんなことより、早く遊びましょう。時間がもったいないわ。」
「はぁ~、分かりました。」
あたしの周りにとりあえず、みんなが集まる。結構、大人数だ。
さて、何から遊ぼうかしら?
「じゃあ、みんなで…………、トランプでもしましょうか?」
「そう、トランプ……って、はぁ~!?プールもコートもあるのに、トランプって?」
「あらっ?ウノの方がいいかしら?」
「そうそう、やっぱり私はウノ派だよね~って違う!!もっと違う遊びがあるでしょう?そんな庶民的な遊びじゃなくて。」
「もう、あなたはワガママね、まるで、子供のようだわ。」
「うわっ、なんかすっごいムカつくんですけど。」
「まぁまぁ、落ち着いてよ、涼花ちゃん。亜季も意地悪しないの。せっかく色々あるんだから、もっと違うことしよ?」
「まぁ、結子さんがそう言うなら、そうしましょう。」
「…………この人、本当にイラッとします。」
ひとしきり、高山さんとからかってさっきまでのムッとした気持ちをスッキリさせて、あたし達は別館に移った。
番外編でした。たぶん番外編は⑥で終わると思います。
そして、次回の投稿は本編で、その次がまた番外編という感じに交互に書いていきたいと思います。
あっ、それと、お金持ちのイメージが貧困ですいません(>_<)