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第20話 一週間前

今、私たちは昼休みの屋上にいて、二人で屋上の隅に座りお弁当を食べている。全くの不可抗力だが、もしかしてこれは初めての二人っきりの昼食ということだろうか。

葵をちらりと見ると、お弁当を膝の上に広げているところだった。そのお弁当はカラフルで、アスパラのベーコン巻やトマトやコーン、レタスのサラダ、卵焼きなどなど、とても美味しそうだった。


それに比べ、私のお弁当は…………。煮物とか夕飯の残り物ばかりで、なんか茶色っぽい。


「あの、私のお弁当がどうかしましたか?」


私があまりにも葵の弁当を凝視していたので、不安に感じたのか声をかけてきた。


「ううん、特に何もないけど。葵のお弁当、美味しそうだな~って思って。」

「えっ?そ、そんなことないですよ。朝はあまり時間がないので凝ったものは作れませんし。」


葵は少し頬を染めながら、お弁当を隠すように手で包み込んだ。


「そのお弁当、葵が作ったの?」

「はい、そうですよ。毎朝、父と私の分を作っているんです。」


あっ……、そうだった。私としたことが迂闊だった。葵は今、お父さんと二人で暮らしているのだ。

だから、葵の弁当を作ってくれる人は誰もいないことを知っていたはずなのに、下手なこと聞いちゃったな。


「や、やっぱりすごいね、葵は。私なんて料理、全然できないよ。」

「私も簡単なものしか作れませんよ。今は、まだ勉強中って感じなんです。」

「そっか。いつか、私にも葵の手料理を食べさせてね。」

「えっ!いや、その、大したものはできませんけど……、それでもいいですか?」

「うん、きっと葵が作ったものなら何でもおいしいから。」

「あ、あの、だから、そんなに期待されると、困っちゃいますよ。」

「あははは。そっか。」


こうやって葵と話しているとなんだか楽しい。今はただ、葵のそばにいることがこんなにも幸せに感じるのだ。これ以上、何も望む必要なんてない。私は、普通に葵と友達でいられればいい。


だから、………………今のままで、このままで、いいんだ。


んっ?というか、こんなのんびりしゃべっている場合ではなかった。今日は先輩のことをどうするか話すためにわざわざ昼休みに二人になっているんだった。ヤバかった、葵と二人で昼食を食べれることがうれしくて、忘れかけていた。


「あのさ、葵、先輩のことだけどさ……、テスト期間中どうする?」


私がそう言うと、葵は箸を持ち上げかけていた手をおろして、遠くの空を見ながら考えるように目を少し細めた。


「そう、ですね……。部室で待つと約束したんですけど、立ち入り禁止となれば、……無理そうですよね。」

「うん、そうだね。でも、先輩も分かってると思うから。たぶん、来るならテストの後になると思う。…………だけどさ、あれから全然、先輩が来る気配ないよね。」

「はい。でも、きっと日下部先輩はたくさん、考えていると思います。私が言ったことは、先輩の今まで積み上げてきたものを壊すようなこと言ってしまったのですから、そう簡単に答えはでないでしょうし。それに、もしかしたら、私のせいで来ないのかもしれません。」

「えっ?葵のせいって?」

「私はたぶん、嫌われたと思いますから。」

「そ、そんなことないよ。あの時私、言ったよね?先輩は全部分かってるって。だから、葵を嫌うことなんて絶対ないよ。そんな人じゃない。」

「あっ……、そう、ですよね。ごめんなさい。また、先輩に失礼なことを言ってしまいました。」

「いや、謝ることじゃないよ。えっと、私もごめん。なんだか、熱くなっちゃって。」

「いいえ、涼花さんはすごく先輩のこと大好きなんだって伝わってきます。」

「えっ?いや、そ、そんなじゃないから。私は、葵のことが…………。」

「私が?」

「うっ、えっと、な、なんでもない。そ、それよりもそろそろお弁当食べよ。昼休み、終わっちゃう。」

「? はい、そうですね。」


葵は私の様子に少し首をかしげるが、お弁当に視線を戻し、ゆっくりと食べ始めた。


私は、さっきなんて言おうとしたのだろう。葵のことが、なんだ。自分で言おうとしたことが分からない。葵に先輩が大好きなんでしょなんて言われ、なんだか少し焦ってしまって、違うって言おうとしたのになんで葵のことがなんて言ったのだろう。葵のことが、葵の方が……。


ダメだ、また、思考が深みにはまってしまいそうで恐い。これ以上考えるのが恐い。


私は、葵がお弁当をつまんで、口に箸を運ぶ姿をじっと見ていた。どんな動作も葵は綺麗にこなしてしまう。女としては、きっと羨ましいのだろう。だって、どこから見ても完璧なやまとなでしこなのだから。

なのに、どうしてだろう。私は葵を羨ましいとは思わない。


でも、彼女のそばでずっと見ていたい。彼女のその微笑みを、色々な表情を、そして、もっと沢山話がしたい。ずっと一緒にいたい。


この気持が何なのか言葉には表わせないけれど。だけど、彼女の特別になりたい。それは、親友という意味なのか、それとも…………。



「涼花さん、お弁当食べないのですか?」

「んっ?……あっ、食べる、食べる。」


そういえば、私もお昼を食べなければいけなかった。色々考えている場合ではない。午後の授業に体育があるし。私たちは二人でお弁当を食べ進める。時々、なんてことない雑談を交えながら、とても楽しく昼食をとることができた。


そして、昼休みが終わる頃、お弁当を片づけながら、葵が今後どうするかという話を振ってきた。


「んー、そうだね。とりあえず、今日は部室に荷物を取りに行かなきゃだけど。それから、どうしようか?」

「どこかで、テスト勉強しませんか?もう来週ですから。」

「ええと、私はすごくありがたいんだけど。でも、……葵は一人で勉強した方がはかどるんじゃないかな?私、足手まといになるし。」

「いいえ、そんなことないです。涼花さんと勉強するのはすごくはかどります。それに、この前少し勉強を見させてもらいましたが、涼花さんって頭いいと思いますよ。」

「えぇ!?そんなわけないよ。というか、葵と比べると天と地の差、それか月とスッポンの差ぐらいあるから!。」

「そ、そこまで言うほどのものではないと思いますけど。涼花さんはちょっと自分を低く見過ぎですよ。確かに謙虚こそ日本人の美徳とは言いますが。」

「いいや、葵こそ、自分を分かってないよ。一緒に勉強した私が言うんだから。もう、レベルが、いや、次元が違うから。」


私がそう言うと、葵の動きが止まり、私をじっと見つめてきた。その表情はなんとなく拗ねているようにみえる。


「涼花さんは、私と一緒にテスト勉強するの嫌、なんですか?」


ウルウルとした切なげな瞳でじっと葵は、私を見つめてくる。普段、あまり見ることのない表情は、本当にドキドキするくらい可愛かった。


「うっ、い、嫌じゃ、ないけど。……葵は迷惑じゃないの?いつも、私ばかり葵に教えてもらってるし。」

「全然、迷惑じゃないです。むしろ、お礼をいうべきことですよ。人に教えるとさらに自分が理解できて、勉強になるって、言うじゃないですか。」


葵は私の言葉に、ちょっと苦笑しながら、優しく包み込むような微笑みを浮かべる。


「だから、私からお願いしているんです。私と一緒に勉強してくれますか?」


そう言って、私に白くて、細くて、綺麗な手をそっと差し伸べた。私はそれでもまだちょっと迷ったが、葵の柔らかいまなざしを向けられて、その手を拒否できる意志をあいにく持ち合わせてはいなかった。


だから、その手を私は握った。その手は、とても柔らかくて、冷たくみえるのにじんわりと温かかった。


「うん、じゃあ、私の方こそ、よろしくお願いします。」


彼女の瞳を見つめたまま、私も微笑んだ。


活動報告ですぐに投稿できると言っておきながら、少し遅れてしまいました。

申し訳ありません。言い訳になりますが、ネットがつながらないというトラブルがありまして、投稿が今日になりました。


さてさて、今回、というか、次回もですが、多分涼花と葵がずっと話しているような状況になると思います。もしかしたら、他の人物も絡んでくるかもしれませんが。とりあえず、先輩は本編ではまだまだ出できません。


そして、次回の投稿は本編か番外編か、さて、どっち?みたいな状態です。来週中には投稿したいと思います。(あくまで予定です。)

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