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番外編 先輩の春③

目の前にいたのは、見間違えることなんてできない、あの桜の彼女だった。


いつからそこにいたのだろうか、あたしから二メートルくらい離れた位置に立っている。


「こんにちわ。」


そう彼女が少し微笑みながら、挨拶をしてきた。


「……こんにちわ。」


あたしの頭は、突然の出来事に真っ白になっていて、小さく挨拶を返すので精いっぱいだった。

会いたいとは思っていたけど、こんな急に会うとは思っていなかった。心の準備も何もできていない。

あたしがただ呆然と彼女を見つめることしかできない間、彼女はそっと木のそばまで歩いてくる。


彼女があたしの隣に並ぶ、そして、あの時と何も変わらない表情で木の幹に手を当てた。あたしは、その姿を見た時に少し曖昧になっていたあの時の記憶がだんだん蘇ってきた。あの時も木の幹に手を置き、彼女は寂しそうな顔をしていた気がする。


「また、この木の下で会いましたね。」


彼女は横目であたしを見ながらそう言った。


「……あたしのこと、覚えているのね。」


あたしは少し震える声で小さく呟く。

実は、もう忘れられているのだと思っていた。あれ以来、彼女はここに来なかったから。あたしは、毎日来ていたのに。彼女のことをいつも考えていたのに。


あたしは、なんだか自分がバカなことをしているように思えてきた。彼女はあたしのことなんてなんとも思っていないのだろう。なのに、あたしはずっとこの木に通って、彼女を待っていた。


そうだ、なんで、あたしは彼女を待っていたのだろか。別に用事があるわけでもないのに。なんで、会いたいなんて思っていたのだろうか。


そんな風にあたしの思考がぐるぐると回り始めたとき、彼女は木ではなくあたしの方に身体を向けた。真正面から、彼女の吸い込まれそうになるような瞳を見る。


「覚えていますよ。初めて話した先輩ですし。それに、いつもここにいるのを教室の窓から見ていましたから。」

「えっ……?」


あたしは彼女の言葉の意味がわからなかった。見ていた?いつも?

そんなわけが分からないという顔をしていたあたしに彼女が言葉を続ける。


「放課後、いつもここにいますよね?私の教室からいるのが見えるんです。」


そう言って、校舎の3階を指差す。そこが彼女のクラスなのだろう。


「見ていたのなら、来てくれればいいのに。」


あたしは、今まで見られていた恥ずかしさから、いつもなら言わない拗ねたような言葉を言ってしまっていた。


「すいません。なんか、会いずらくて。」

「会いずらい?あたし、なにかしたかしら?」


あたしはその言葉に内心のショックを隠せず、急かすように聞いた。


「いえ、そういうわけではなくて。実は、あの入学式の日、私、ちょっとおかしな気分になっていたので、いつもなら言わないような変なこと言った気がしていて。初めて会った、しかも、先輩に変な人だと思われたと考えたら、なんだか会いにくくなってしまいまして。」


彼女は少し言いにくそうに、気づかわしげな表情であたしを見ながらそう告げた。


「へ、変なことなんて、言っていたかしら?むしろ、あたしの方がおかしなことを言ったような気がするのだけれど。」

「えっ?そうでしたか?」


あたしたちはお互いに相手がなに言ってるの的な顔をしていた。彼女の瞳はとても真剣で、嘘や冗談を言っているような感じではない。


なら、何なの、彼女はあたしに変な印象を与えたと思って、会うのを避けていたということなのだろうか。


「そ、それなら、なんで今日は出てきたの?」


そう思っていたのなら、どうして、彼女はあたしに会いに来てくれたのだろう。ここは開けている場所なので、あたしがいることを分かっていて、訪れたはずだ。


あたしがそう聞いたら、彼女の瞳がかすかに揺れた気がした。


「えっと、こんなこと言うのは失礼かもしれないんですけど、あの時の先輩がなんだか辛そうで、どこか寂しそうにみえて。だから、ずっと、今もそうなのかなと思って。あの、本当に失礼ですよね。すいません。」

「……………………。」


あたしはすぐに言葉を返すことができなかった。何で謝るのか、そんな必要なんてないとそう言いたかったが、あたしの口はすぐに動いてはくれない。


そうなのか、彼女もあたしのことを少しは気にしていてくれたのか。そう思った途端、あたしの胸の中に温かいなにかが、通り抜けた気がした。


「あの、先輩?」

「えっ?」

「本当にごめんなさい。下級生なのに生意気ですよね。」

「いいえ、そんなことないわ……。」


いつものあたしなら、最後に「とても嬉しいわ」ぐらい言っていたと思う。だか、彼女の前にいると、軽い気持ちでそんなことを言えない自分が生まれる。うまく言葉を紡ぐことができない。


「じゃあ、あたしのためにここに来てくれたの?」

「えっと、はい。一人でいるより二人でいれば少しでも寂しくないかなと思いまして。」

「…………っ。」


彼女は、ほんの少し恥ずかしそうな顔をしたが、あたしの眼をまっすぐ見つめ、直球な言葉でそう言った。彼女はどうやら気持ちを隠すということをしないらしい。なのに、そんな彼女にあたしは、言葉を何も返すことができなかった。



何、この気持ち? 胸が苦しくて、息ができない。昔にも同じようになったことがある。だが、その時感じたような辛い、悲しい感情ではない。


これは、……喜び、なのかしら。嬉しいとあたしは思っているのだろうか。


「そう、あ、ありがとう。」


あたしがそう言うと、いいえと彼女はほっとした表情で答えた。彼女も不安だったのかもしれない、それでも、勇気をだしてここに、あたしのところへ来てくれたんだ。


あたしは視線を木の上へと向けている桜の彼女を横からじっと見つめた。


あたし、どうしちゃったんだろう。他の子には感じない何かを彼女から感じているのかもしれない。

その特別な何かが分からないけれど。でも、そばにいると気持ちが落ち着かなくなる。そして、嫌われたくないと強く願っている。


「先輩、私でも、少しは役に立ちましたか?」


彼女は木を見上げたまま、そんなことを聞いてきた。どんな表情をしているのかは分からない。

そんな彼女にあたしはただ、


「えぇ。」


とだけ、答えた。



数分後、彼女はそろそろ失礼しますと言って、校舎に戻って行ってしまった。あたしはただただ、ぼーっと彼女が見えなくなるまで、その背中を見つめていた。




数日後、あたしはまたまた部室にいる。だが、今はいつもと違い誰かと二人っきりというわけではない。


「亜季、ゴールデンウィークはどうするの?」

「亜季先輩、休みの日、あたしと過ごしてくれますか?」

「亜季ちゃん、わたしも亜季ちゃんと過ごしたいな。」

「私も私も。」

「亜季がいうなら、連休中はいつでも空けるから。」



現在、この部室にはあたしが付き合っている女の子達がひしめき合っている。ちなみに今は昼休み中、そして、明日は皆が口々に言っているゴールデンウィーク。

あたしはまだどうするのか決めておらず、それを聞きに恋人達が部室に詰め寄ってきたという状況。


さて、どうしようかしら。このまま、何も言わないなんてできなさそうだし、早くお弁当も食べたいわ。

でも……と。


あたしは、目の前にいるみんなの顔を眺める。一生懸命で、焦っているよう。まるで、ここで選ばれた子が一番だと言わんばかりの雰囲気だ。どんなことを言っても、ケンカになりそうね。


ふぅー、とため息をつき、隣に座っているさつきを見る。いつもなら、昼休みは二人で昼食をとっている時間だ。さつきの表情を伺うと、何か考え事をしているかのように顎に手を当てていた。


どうしたのか、あたしはさつきがもしかすると怒りだすかもと思っていたのだけれど。この状況に何も言わずにじっとしている。


「さつき、どうかしたの?具合でも悪い?」


あたしは、ちょっと心配になり、そう声をかける。


「ん?あっ、えっとね、大丈夫だよ。ちょっと休みのことを考えてただけなの。」

「ゴールデンウィークのこと?」


さつきまでもまた、あたしと一緒に過ごしたいと言うのだろうか。そう思っていたのだが、さつきの口から出たのは、まさに救いの言葉だった。


「あのね、ゴールデンウィークなんだけど、みんなで過ごしたらいいんじゃないかな?」

「皆でって、ここにいる皆ってこと?でも、そんなの無理だわ。第一、場所がないし。」

「えっと、場所ならあるよ。」

「どこかしら?」

「私の家。」

「えっ?」

「んっと、私の家って結構大きいからみんな来ても大丈夫なんだよ。それに、休みのときは親は海外旅行に行ってるし。」

「それって、さつきの家に泊まってもいいってこと?」

「うん。それに、みんなが亜季と過ごしたいと思っているんだから、いつまでたっても話し合いじゃあ決まらないだろうし。ここでずっと亜季を困らせるより、みんなで一緒に楽しく亜季と過ごせるのが一番いいと思うんだ。」


そうニコッと笑うさつきをあたしは天使かと思ったものだ。


こうして、あたしはゴールデンウィークをみんなと過ごすことに決まった。場所はさつきの家を借りる。あたしはずっとさつきの家にいて、休みの間、来れる子は家を訪れてもらうことにした。これなら、平等に誰でもあたしといつでも過ごせるということになる。まぁ、さつきが一番、一緒にいることになるが、それは家を貸してもらう特権だということだ。


そうだわ、このお泊り会にはあの二人も呼ぼう、きっともっと楽しくなるから。

あたしは憂鬱だったゴールデンウィークが一気に楽しみに変わるのをはっきりと感じた。



早く明日にならないかしら…………。


何週間か時間があいてしまいましたが、皆さま、お久しぶりでございます。

ここ数日で頭痛薬のありがたみがやっと分かってまいりました、水瀬瑞希です。


さてさて、今回は結局番外編になりました。だがしかし、まだお休み中の話を書けていません。本当になぜなのだろうか。戸川さんと先輩の会話を長くしすぎたかな?まぁ、でも、次の④ではやっとゴールデンウィークの話となります。


でも、とりあえず、次回の投稿は本編なので「先輩の春」はまた今度ということで。 


それでは、また次回もお付き合いお願いします。



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