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第17話 漫画

恭子が出て行った後、私たちは暇なので宿題をしようということになった。


だが、私は今、部室を出て、一人で私たちの教室に向かっている。なぜかというと、宿題が出ていた英語の教科書を机の中に忘れてしまったのだ。明日の授業で提出なので、今日家に持って帰らないと大変まずい。なんといっても、あの怖い山田先生授業だ。


だから、私は葵に教室に取りに行ってくるよと告げて、部室を出てきた。


「はぁ~、めんどくさい。でも、宿題を忘れるわけにはいかないしな。」


私はため息をつきながら、歩く。部室がある棟から教室がある校舎は渡り廊下をはさんでいたりして、少し遠い。おまけに一年生の教室は3階にあるから、階段をのぼらなければならないし。


数分後、やっと教室に着いた。私はさっさと部室に戻ろうと早足で自分の机まで行き、席に座って机の中をのぞく。


「えーっと、どれだっけ?」


机の中にはぎっしりと教科書やノートが詰まっていて、どれが英語の教科書かわからない。仕方がないので、机の中身を全部上に出すことにする。


「よいしょっと。…………あれっ?」


机の上に出たのは色々な教科書とその上に見覚えのある紙の束が入っていた。


「これって、……恭子の漫画?」


さっきまで、恭子が持っていたやつに違いない。だって、その表紙には私と葵だろう絵が描かれていたのだから。


でも、なぜこれが私の机の中に?


私は漫画を軽くパラパラとめくる。すると、中に挟まっていたのか、ひらりと一枚の紙が机の上に落ちた。その紙にはなにやら文字が書いてある。


この癖のある筆跡からすると、恭子が書いたものだとわかる。それを読むと、こう書いてあった。



《自信作なんだから、ちゃんと読んで感想聞かせてね。 よろしく~(^v^)》



たく、恭子のやつ。そんなに私にこれを読ませたいのか。


私はちらりとマンガの表紙を見る。その表紙には「彼女の恋」と書かれていた。それがタイトルなのだろう。さっきも見たが、表紙には私が葵を後ろから軽く抱きしめている絵が描かれている。


やっぱり恭子は絵がうまい。将来、本当にマンガ家になれるのではないかと思う。

私は表紙の幸せそうに微笑んでいる葵の顔を指先で撫でる。


なんだか緊張してきた。ゆっくりと深呼吸して、なぜだか震える指で表紙をめくった。


じっくりと、ドキドキしながら読み進める。その話の内容を簡単に説明するとこうだ。



〈夏の蒸し暑いある日の放課後、誰もいない教室で泣いている葵と出会い、ひょんなことから彼女の過去を知ることになる。そして、だんだんと私は葵に惹かれていく。許されない恋していると気づき、苦悩するが、私はすべての想いを葵にぶつけ、無理やりその唇にキスをする。最初は戸惑い、拒否していた葵だか、少しずつ私を受け入れてくれるようになる。私たちは気持ちが通じ合い、抱き合う。私は葵と強く、愛を誓い合った。〉



その漫画を読み進めながら、私の頭の中では、葵の柔らかそうな唇が、しなやかな体が、その温かそうなぬくもりが、ぐるぐると渦巻いていた。


私の顔はりんごみたいに真っ赤になっていただろう。そして、心臓はさっきから痛いくらいに脈打っている。


なんだこれ、おかしい。私、どうしちゃたんだろう。恭子の描くマンガでこういうシーンは何度も見たことあるのに。こんな、こんな風に身体が熱くなったことない。


もしこれが現実だったら、私はどうなってしまうだろうか……。


いや、これ以上考えちゃ駄目だ。


私は得体のしれない感情に飲み込まれる感覚がして、必死に思考を止める。

怖い。まるで底なし沼に落ちたみたいに、深みにはまってしまいそうだった。


私は漫画を閉じて机の上に置く。目を閉じて、頭の中を空っぽにしようとした。何も考えないように。何も感じないように、心を閉じた。



…………何分そうしていたのだろうか、いきなりガラッと教室の扉が開いた。


「涼花さん?」


どこか不安げな葵の声が聞こえた。


「えっ?」


やっと落ち着いてきたのに、胸がドキンと高鳴る。


「あ、葵?どうしたの?」


私は慌てて、椅子から立ち上がって聞いた。


「涼花さんが何十分も戻ってこなかったので、どうしたのかなと思って様子を見に来たんですど……。なにかあったんですか?」


そう心配そうに葵が聞いてきた。


「えっと、べ、別に何もないよ。」


そう言いながら、教科書の下に素早く漫画を隠した。やはりこれは葵に見せるわけにはいかないと、何となくそう思ったからだ。


「でも、なんだか顔が赤いですよ。もしかして体調が悪いのですか?」


葵がゆっくりと私に近づいてくる。心臓が少しずつドクドクと早くなっているのが自分でもわかった。


ダメだ、どんな顔して話せばいいのか分からない。こんなにドキドキしていることを知られたくない。気づかれるわけにはいかない。


葵とまっすぐ目が合った時、私は思ってしまった。葵にキスしたいと、抱きしめてそのぬくもりを感じてみたいと、あの漫画の私のように。そんなことできるわけないのに。

なのに、思ってしまったんだ。どうしようもないそんな考えが浮かんでしまった。


こんな気持は、可笑しい。だって、私たちはクラスメイトで、友達で、女同士で。

そんな事を思うなんて、普通じゃない。


それなのに、どうして、なんで私は思ってしまうのだろう?考えてしまうのだろう?


こんなこと思うなんて、まるで、葵に恋しているみたいじゃないか。あの恭子の漫画のように。

そんな、そんなわけない。確かに、葵のことは好きだけど、それは恋愛感情ではないはずだ。


この胸の奥が熱くなるような気持は恋なんかじゃない。


絶対、恋なんかじゃない。



「本当に何でもないから。」


気づいた時には、私は冷たく突き放すような言葉を言ってしまっていた。


葵を見ると、傷ついたように眉毛を少し下げていた。


「あの、ごめんなさい、しつこく聞いてしまって。」

「あっ、いや、えっと……。」


そう言いながら、葵は頭を軽く下げる。私は謝ろうと口を開くが、その言葉を言う前に葵は、


「わ、私、部室に戻っていますね。」


そう言い残して、身を翻し、足早に教室を出て行った。



「また、悲しませたのかな…………。」


彼女が出て行って、数秒呆然とした後、私はそう呟いた。


誰でもない自分に向けた、自己嫌悪の言葉。


あとで、ちゃんと謝らないと。でも、今すぐは無理だ。まともに顔を合わせることができない。

たぶん、今は少し動揺しているだけだから、もう少し時間が経てば、また、いつもの私に戻るよね…………。


きっと、戻れる、よね。



更新が遅くなって大変申し訳ありません。この頃は忙しく、少しずつ執筆していたら、少し間があいてしまいました。


次回も少し遅くなりそうですが、ご了承ください。


そして、今回はやっと涼花が葵を意識し始める話です。ある意味、恭子のおかげで、やっと話が進みだすことができます。今後、どうなるか……、まだ全然考えておりません。ですが、少しずつ書いていきたいと思います。できれば、6月中旬までには。



それでは、今回も読んでくださってありがとうございました。

また、次回で。

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