第14話 涙
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
私たちの間には再び重い沈黙が流れている。
私は、沈黙が耐えられず、中村さんに話しかける。
「中村さん、もう遅いし、私たちもそろそろ帰ろうか?」
そう言って、私は椅子から立ち上がろうとしたが、その時、袖をひっぱる、よわよわしい力を感じた。
「・・・・・・中村さん?」
彼女は泣きそうな顔をしていた、さっきのことを後悔しているようだった。
「高山さん・・・・・・。私・・・・、先輩に、ひどい・・こと、言いました。」
その声は可哀想なくらい震えていて。
「中村さん・・・・・。」
きっと言いたくなかったのだろう。でも、友達のため、先輩のために言わなければならなかったのだ。
他人に対して、きついことを言うのに抵抗がある人間は少なくはないだろう。それは、相手に嫌われるかもしれない行為なのだから。
まぁ、躊躇わなずに言う人もいるが、彼女はそうではない。
だから、相手に厳しいことを言ってるとしても、言葉の刃は自分にも向いているのだ。
それでも、彼女は臆さなかった。先輩のためになることを信じて話したのだろう。
自分が傷つくことも恐れずに。
強い。本当に彼女は強い、そして、とても優しい。
優しさのせいで、こんなにも苦しんでいる。
そんな彼女を見て、私は、
衝動的に彼女を思い切り抱きしめていた。
「た、高山さん?」
驚いたような彼女の声。
「大丈夫、きっと大丈夫だよ。先輩は全部わかってる。中村さんが友達思いで、優しい子だって、ちゃんとわかってるから。だから・・・・・。」
「でもっ・・・でもっ・・・私は・・・きっと、先輩を・・・・・傷つけました。」
私の胸の中で彼女の身体は小さく震えていた。
私は腕に力を込めた。彼女の震えが治まるように。
強く・・・強く抱きしめた。
「・・・・・・・・じゃあ、謝ろうよ。先輩が答えを出した時に、またこの部室に来た時に、謝ろう。私も一緒にごめんなさいってするから。」
「な、なんで・・・・高山さんまで・・・悪いのは全部私なのに・・・。」
「違うよ。きっと私が真っ先に先輩に言うべき言葉だった。なのに・・・・・高山さんにまかせて、つらい思いさせて・・・・本当にごめん。」
私のせいだ。彼女が今泣いているのは私のせい。
私はなんて愚かなのだろうか。こんな自分が本当に情けない。
「た、高山さん・・・・・。い、今だけ泣かせてください。今だけですから・・・・。」
「いいよ、今だけでなくてもいつでも。泣きたいときは泣いていいから。私は全部受けとめるよ。」
(受けとめる)それは先輩と同じ言葉。
拒まれるということは本当に辛いことだ。同性同士なら、拒否される可能性は高いだろう。きっと先輩に告白してきた女子は泣いていたのかもしれない。
それを見た先輩が何を選択したのか。それはきっと包みこんであげることを選んだのだ。それが先輩の強さと優しさ。今、少しだけ先輩の気持ちが理解できた気がした。
私の胸の中にいる彼女をみる。
泣いている、震えている彼女を身体全部で感じる。
どうして、こんなにも愛おしいと思ってしまうのか。抱きしめている彼女のぬくもりが私の頭を支配する。
彼女の頭に優しく頬をこすりつけた。
「うぅ、うっく・・・・。」
思い切り泣くのではなくて、声を、そして、涙をころすような泣き方。まだ我慢させているのかもしれない。
私は今、彼女に何をしてあげられるのだろうか?
それはきっとこれしかない。
「中村さん、泣いて。目一杯。そうしないときっとすっきりしない。ここには私しかいないし、他には誰も見てないから。」
あやすように、私は彼女の耳元にそっと囁く。
「た、高山さん・・・・・高山さん・・・わ、私・・・・・えっく、うわぁぁん。」
中村さんは私に力強く抱きつき返し、私の胸で子供のように大粒の涙を流しながら泣き始めた。
なんで、優しい人間がこんなにも傷つかなければならないのだろう。先輩のこともそうだ。きっと傷つき、悩み続けているのだろう。誰かのためにこんなにも強い二人を私はまぶしく感じた。
何もかもうまくいかない。今日はただ彼女たちを合わせるだけだと、軽い気持ちだったのに。三人で楽しく話せるとそう思っていたのに。
なのに、先輩は悲しい顔で部室を出ていき、中村さんは泣いている。
こんなはずじゃなかったんだ。こんなはずじゃ・・・・。
私は彼女の背中や頭を優しく撫でる。
彼女が泣きやむまで、ずっと
次回も涼花と中村さんのターンです。
そして、今は先輩と戸川さんの出会いの話を考えていたりします。予定では、次の次の次くらいに、番外編として書くと思います。