第13話 中村さんと先輩②
それから、部室には重苦しい沈黙が流れた。
中村さんは俯き、どんな表情をしているのかわからない。
そして、先輩はそんな彼女を何の感情を浮かべずに見つめていた。
私はどうすればいいのか分からず、棚の本をなんとなく眺める。
数分間の沈黙の後、先輩が口を開いた。
「さっき言ったわよね。私は根本的にそういう性格なの。戸川さんだけを愛することができるのか自信がないわ。」
「自信がないということは、しようとすることはできるのですか?」
「そうね、どれくらいもつのかわからないけれど、しようとすることはできるわ。でも、あたしもよく分からないの。」
「分からないとは、何がですか?」
「戸川さんのことはとても好きよ。恋人になりたいと思っている。けれど、彼女一人だけにしたいのかは分からない。自分でもどうしたらいいか分からないのよ。」
そう言った先輩の表情は今まで見たことないくらい悩んでいるようにみえた。もしかしたら、今まで私にその顔をみせなかっただけで、心の中ではいつも悩んでいたのかもしれない
「なぜ先輩は多くの女の子と付き合っているのですか?」
「みんな可愛い子たちだから。・・・・・真っ赤になって、あたしに告白してくる子たちがどれほど勇気を振り絞っているのか分かる?それを裏切ることはあたしにはできない。あたしにできるのはその子たちを優しく受けとめてあげるだけ。」
「その女の子たちは、自分だけを見てほしいと言わないのですか?」
「そういう子もいたわ。何人もね。でも、あたしはその願いを叶えてあげることはできなかった。願いを叶えてしまったら、今度は他の子が悲しんでしまうから。・・・・・・・あたしはただ、彼女たちが選択するのを黙ってみているだけ。あたしかそれとも違う何かかを・・・・ね。そして、その答えを受け入れてきた。・・・・・・ただ、それだけなのよ。」
私と中村さんはただただ、悲しそうな先輩を見つめることしかできなかった。
先輩がこんな表情をするなんて、こんなことを考えていたなんて。全然知らなかった。
ただの女好きだとそう思っていた。でも、違った。さっきのかわいい子には胸がうずくというのはただのごまかしだったのかもしれない。
先輩は優しすぎるのだ、本当にそれだけだと。
中村さんはどうするつもりなのだろう。こんなことを聞いて一体どうするつもりなのだ。
中村さんが口を開く。
「先輩、どうしたいのか分からないというなら、今付き合っている女の子、全員と別れてみてください。・・・・・このままでは何も分からないままになります。・・・・・・先輩は考えることを拒否しているだけです。そんな人に本当の恋愛をすることなんてできないと思います。本当に幸せになることはできません。先輩がしているのは・・・・・・・・・・・・・ただのお遊びです。」
「・・・・・えっ?」
あまりの厳しい言葉に、驚いて声を出したのは私だった。でも、そう言った中村さんの顔は強く眉をよせていて、まるで辛さを表情に出さないように必死に我慢しているようだった。
「全員と別れて、本当に好きなのは誰か、一緒にいたいのは誰なのか、ちゃんと考えてください。それで、戸川さんを選ぶというのなら、その時は私の全力で協力します。」
中村さんの言葉はどこまでも真っ直ぐで、戸川さんのことも先輩のことも考えている言葉だった。
厳しく、そして、優しい言葉。
ある意味、先輩の優しさを否定しているのかもしれない。それでも、私は中村さんが正しいと思った。
「・・・・・・・・・・。」
先輩は迷っているようだった。軽そうにみえた先輩の姿はそこにはない。
「・・・・・・・・・少し考えさせて。」
とだけ、小さい声で呟いた。
そこには、部室に入って来た時のような元気さはかけらも見当たらない。
「わかりました、ゆっくり考えてください。私は毎日この部室に来ていますから、心が決まったら、部室に。」
「えぇ、それじゃあ、今日は失礼させてもらうわ。」
そういって、先輩は部室を出て行った。
最後まで私たちの方を見ることはなかった。
今回の主人公は「・・・・えっ?」としか喋ってません。
つまり、空気になってます。えぇ、それは見事に空気です。
タイトルのように、この回は中村さんと先輩メインですね。二人の会話ばかりです。
そして、次は涼花と中村さんメインになります。
ちなみに、最近気づいたんですけど、これR15になるのでしょうか?なんかそういうシーンがないですよね?
うーん、どうしたものか。