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第12話 中村さんと先輩①

それから、私たちは長い話になるだろうと三人でイスに座った。


部室の中にはイスが無駄に五つもある。日下部先輩が一年生の時にはもっといっぱいいたらしいが、全員三年生だったため、もう卒業してしまったらしい。


私の横には中村さん、そして、対面には先輩という並びで座った。

先輩が神妙な顔で話を切り出す。


「そうね、まず、何から話そうかしら。」


そう言いながら、机に肘をつき、顔の前で手を組む。


「あたしね、戸川さんが好きなの。」


ド直球だった。


ストライク、バッター、アウトーーーと叫びたくなった。

もちろん、中村さんはポカンとした顔をしている。


「え、えっと、戸川さんて、私たちのクラスの戸川桜さんのことですか?」

「えぇ、そうよ。」


と言ったきり、それを説明しようとしない。


「先輩、そのまま言いすぎです。中村さんが困惑するでしょうが。」

「もー、じゃあ、どう言えばいいのよ。」

「え?そうですね、女の子が好きなのとか女の子にしか興味が持てないのとか。」

「あたしが言ったこととあんまり変わらないじゃない。」


うっ、そうかもしれない。というか、確かにこの手の話はそのまま言うしかないということに考えてみて気づいた。


「あ、あの、日下部先輩は女の子が好きなんですか?」


私たちの話を聞いていた中村さんが遠慮がちにそう聞いてきた。


「そう、好きなの。男に興味ないわ。なんていうのかしら、女の子が照れた時にみせる、あの恥ずかしそうな表情がたまらないのよね。」

「そ、そうなんですか。」


なんだか中村さんは当惑しきっている顔をしている。


「はぁ、中村さん。ごめんね、こんな先輩で。もっとまともな先輩だったら、良かったんだけど。」

「ちょっと、それは失礼じゃないかしら。あたしはまともよ。」


ここで、私は声を落とし、先輩だけに聞こえるように机の上に身を乗り出した。


「まともな人間は何人もの女子生徒と付き合ったりしません。それに、もう一年生にまで手を出してるなんて。」

「あらあら、昨日の子の話かしら。」

「その他にも付き合っている子がいるっていう噂を聞きました。」


先輩は可笑しそうにちょっと笑った。


「その他って、たぶん涼花のことだと思うけど?」


「え、えぇ!?あ、あああ、あの、た、高山さんと、く、日下部先輩はつ、つつつ、付き合ってるんですか?」


私たちの会話から、その単語だけを聞き取り、誤解したらしい中村さんが、いきなり私の肩を掴んで強くゆする。


かなり混乱しているようだ。

手加減なく握られている肩がちょっと痛い。


「ち、違うよ。付き合ってなんかないから。だ、だから、落ち着いて!」


私が先輩と付き合っている一年生の中に入っているのは大変不服だが、一時期先輩と一緒に行動していた事があったから、そんな噂になってしまったんだと思う。


さっさと忘れてほしいが。


「ふふふ、ヤキモチかしら。可愛いわね。」


先輩はそんな私たちを見て、微笑んでいた。


「ヤ、ヤヤヤ、ヤキモチなんて、そんなことないです。」


私を解放した中村さんは耳まで真っ赤だった。

そして、私はあまりに揺すぶられ過ぎて、真っ青になっていた。


「あぁ、うぅ、ご、ごめんなさい。わ、私、高山さんになんてことを。大丈夫ですか?」

「う、うん。一応大丈夫。な、中村さんって意外に力あるんだね。」

「ほ、本当にごめんなさい。」


そう言って、しゅんとしおれる中村さん。


「いいから、いいから。気にしないで。」


私は中村さんの背をさすりながらなだめる。


「ねぇ、イチャイチャしているのを見ているのも楽しいんだけど、あたしの話はいつ聴いてくれるのかしら?」


どこをどうみたら、イチャイチャしているようにみえるのだ。


「は、はい!すいません。えっと、・・・・・・何のお話でしたっけ?」


どうやら、さっきの騒ぎで中村さんの頭から話の内容が飛んで行ってしまったらしい。

そんな中村さんを見て、先輩は


「はぁ~、こういう天然な子もいいわ~。」


恍惚とした表情で中村さんを見つめていた!!



「先輩、あなたは本っっ当に戸川さんのこと好きなんですよね?」

「ええ、もちろん。」

「その他に何人も女子生徒に手を出していると、いつか痛い目みることになりますよ。」

「そうね、かもしれないわね。」

「えっ?」


予想を裏切る先輩の答え。


「分かっているけれど、あたしって根本的にそういう人間なの。可愛い子をみると、胸がうずくのよ。」

「なんですか、それ?」

「ふふふ。もちろん、涼花にも胸がうずいたわよ。いじりまわしたいってね。」


可愛くウィンク・・・・・・そんないたずらっ子みたいな表情がとても似合っていた。


「ですから、本当に節操がなさすぎなんですよ。中村さんにまで、その、そ、そういうことしないでください。」

「あら、今度は涼花がヤキモチ?」

「ち、違いますから。べ、別に、そういうことをじゃないですから。」


私は両手を顔の前で振りながら言う。


「ねぇ、中村さんも迷惑だよね?」


私はニヤニヤ笑っている先輩から目をそらし、さっきから黙っている中村さんを見た。


何か深刻な表情で考え込んでいた。


「中村さん、どうかした?」



中村さんは顔をあげ、先輩をまっすぐな目で見つめた。


「日下部先輩・・・・・、先輩は何人もの女の子と付き合っているんですか?」

「そうね。」


先輩はなんでもないように軽く答える。


「戸川さんのことも好きなんですよね?」

「そうよ。」


軽くうなずく。


中村さんは少し躊躇うかのような顔をしたが、すぐに決意の表情に変わった。


「それは、・・・・・本気で好きなのですか?」

「どういう意味かしら?」


その質問で、蒸し暑い気温にもかかわらず、この部室の空気が一気に冷たくなった気がした。

先輩の目つきが少し鋭くなったように感じる。


それでも構わず、中村さんは問いかける。


「戸川さんをたくさんの女の子の一人として付き合おうとしているのですか?それとも、戸川さんだけと付き合おうとしているのですか?」


私は、彼女のこれほどまでに真剣な、そして、強い表情を見たことがなかった。先輩もそれを感じているのか、いつものように軽く答えようとはしない。もしかしたら、戸川さんのことに関して真剣に聞かれているからなのかもしれない。


私は何も言葉を発することができなかった。


その疑問は先輩を彼女よりよく知る私がするべき質問だったように思える。私には結局、先輩に甘いところがあるのだと思う。先輩の浮気性なところをしょうがないと、すでに諦めの気持ちになっていたのかもしれない。愚痴のように先輩にいうことはあったが、ここまで真剣に問い詰めたことはなかった。


私は横目で先輩を見た。その表情からは何の感情も読み取ることはできなかった。


「・・・・・・・・・。」

「答えてください、日下部先輩。」



実はいいタイトルが思いつかず、いつもとちょっと違うタイトルになりました。


①とついているように、②がもう少しだけあります。(当たり前ですね・・・。)


さて、今回の最後の方はちょっと真面目な中村さんです。中村さんは別に先輩が主人公とイチャイチャしていたのにキレているわけではありませんよ。


自分的にはもっと嫉妬もさせたいのですが、そうしちゃうと真面目な話なのか、そうじゃないのか分からなくなるのでやめました。


いつかそういう話にもしたいなと思います。 

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