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第10話 嵐の前

次の日、私は中村さんに昨日のことをどう話したらいいのか悩んでいた。


だって、部の先輩があなたの友達のことが好きだから、恋が実るように手伝って、なんて言えない。


しかも、それが部活動でその話を部誌として書き残すかもしれないなんて。


それに加え、日下部先輩ははっきり言って誠実とは程遠い存在ときたもんだ。


そんな不誠実な人と戸川さんをくっつけようとしているなんて、私でさえまだ迷っている状態だ。

でも、先輩は一度言ったら、何が何でも突き通す人だから、絶対巻き込まれることになると思う。


入学してから、数週間たった後にあったゴールデンウィーク、その連休中私はずっと先輩に振り回されぱなしだった苦い記憶がある。


あの記憶はまだ生々しく私の脳みそに刻み込まれている。


そんなこんなで、はっきり言って今の先輩は危険だ。まるで、嵐のように周りを巻き込んで壊していく。


だが、嵐と違うのはそれに喜んで飛び込もうとする人間がいること。もちろん、私はそんな人間ではないが。


私にとって、先輩は避けられない自然災害、それも、大災害に違いない。


それに、中村さんを巻き込むのは気が引けるが、文芸部になったからには避けられるとは思えない。


まぁ、もちろん、もしそうなってしまった時は、私が頑張るつもりでいるけれど。


うーん、でも、とりあえず、中村さんに先輩を会わせることが必要だ。話はそれからじゃないと進まない。


まぁ、戸川さんのことが好きだといった先輩が中村さんに手を出すとは考えられないし、そこは一先ず安心することができるから、会わせても何の問題もないだろう。


よしっ、そう決まったら、先輩に今日部室に来るようにメールしておこう。


そんなこんなを考えながら、今日の授業を過ごしていた。





放課後、私は中村さんに先輩が部室に来ることを伝えた。


「そうですか、なんだか緊張しますね。」

「はは、そんな立派な先輩じゃないから、気楽にね。それにね、もしかしたら、変なことをいいだすかもしれないけど、迷惑はかけないようにするから。」

「えっ?は、はい。わかりました。」


そんな事を話しながら、部室に向かう。


「あっ、そういえば、高山さん。私のお勧めの本はどうでしたか?高山さんが好きそうなのを選んだつもりなんですけど。」


と、恥ずかしそうに聞いてきた。


「えっ?本?・・・・・あっ!!」

「ど、どうしたんですか?」


先輩と話しただけで、精神が疲労していたので、すっかり忘れていた。


「え、えっと、ごめん。まだ読んでないんだ。」

「あっ、そうなんですか。」


ちょっと残念そうな顔をする中村さん。


「本当にごめんね、昨日先輩とちょっと話しこんじゃってて。」

「い、いえ、あのそんなに謝らなくても。ゆっくり読んでくれればいいですから。」

「う、うん。ありがとう。今度私の本も持ってくるから読んでね。」

「はい、楽しみにしてます。」


彼女がほほ笑んだのをみて、ちょっと罪悪感は薄れた。


そんな話をして、部室の前まで来た。


・・・・・・・もしかして、昨日のように先輩がいるかもしれない。そんなところ中村さんに見せるわけにはいかない。


彼女のことだからきっと卒倒するくらいはあると思う。


どうしようか、まず私が中を確かめないと。


「あっ、中村さんの後ろになんか飛んでる!・・・・・・・・・・かも」


私は彼女の後ろを指差し、精一杯驚いている表情を作り、声を出した。


「えっ?なんですか?」


そう言って、中村さんが後ろを振り返っている間に、ドアノブを回し部室の中をうかがった。


全体を見渡してみるが、誰もいないようだ。ついでに、中村さんが貸してくれた本の位置も確認する。


よしっ、そう思っていると。


「高山さん、私の後ろに何が飛んでいたんですか?何もいないようなのですけど?」

「えっ、あ、ご、ごめん。なんか見間違いだったみたい。」


私は急いで扉を閉め、まだ後ろを見て、きょろきょろしている中村さんにそう言った。


「それより、早く部室に入ろう。」

「は、はい。」


まだ、気にしてはいるみたいだが、すぐに同意してくれた。


私は、勢いよく部室を開けた。


「あっれ~、先輩はまだ来てないみたいだね~。」


大げさにそう言いながら、部室の真ん中にある机まですばやく移動し、隅に置いてあった中村さんの本をかばんの中に入れた。


中村さんも入ってくる。


「私たちの方が早かったみたいですね。」

「うん、二年生はそれなりに忙しいのかもね。」

「そうかもしれませんね。」


中村さんは微笑みながら、机に自分のカバンを置いた。


「それじゃあ、先輩が来るまで中村さんの貸してくれた本でも読もうかな。」

「はい、読んでみてください。それほど有名な本ではないんですけど、胸が温かくなるような恋愛小説なんです。」


へぇ~、純愛ものか。確かにそんなに嫌いなジャンルではないが、あまり読まないかもしれない。


ベストセラーとかは、何冊かは読んでいるけど。


中村さんはなんだかうっとりとした表情でお勧めの恋愛小説の良さを語っていた。


私はそんな彼女を見て、ちょっと可愛い、なんて考えていた。




のちにくる嵐の前の静けさ・・・・そんな言葉が私の頭をよぎっていった。



次話は連休の後と言いましたが、やっぱりもう一話だけ投稿します。


次は本当に連休の後だと思います。


皆様、良い連休をお過ごしください。

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