第一話 魔王と勇者
「貴様が、魔王だな……。我が名は勇者、アルペジオ・ガルラーナ!
貴様の命貰い受ける!!」
俺は勇者。
今、俺は魔王城に潜入し魔王を殺そうとしている。
剣を持つ手に力を入れる。
人間と魔族との百年にも及ぶ長い戦争の末今こそ俺がこの戦争に終止符を打つのだ。
魔王の首を持って……。
俺はゆっくりと歩む。
魔王は玉座の横で俺に背中を向け立っていた。
俺の顔すら見ようともしない。
「行くぞ!魔王!!」
全力で走り出す。
狙うは魔王の首筋。
玉座ごと一閃に斬る。
魔王を俺の間合いの中に入れた。
思い切り剣を振りかざし全力で狙った所へ振り下ろす。
今まで何万回とやってきた型である、こんな所で失敗などする筈もない。
しかし、俺は首を斬る前に彼女の頸筋に着目してしまった。
絹のようなきめ細かく長い髪は赤く染まっていて、魔王の白いうなじに目を奪われた。
魔王は女だった。
ずっと凶悪な化け物をイメージしていただけにその驚きが、俺の剣に迷いを生じさせた。
剣が魔王の首筋に触れる一歩手前で魔王の姿がゆらりと消え去た。
突風が辺りに巻き起こりながら俺の剣は空を斬る。
「な、どういうことだ!? どこに行った。出てこい!!」
あの消え方は瞬時に移動した訳ではない。
幻覚魔法の類である。
俺は最初から騙されていたのだ。
「クソッ……」
俺は身を屈め次に来る迎撃に備える態勢をとる。
これならば四方八方から来ても瞬時に対応できる。
「落ち着きたまえ勇者殿」
凛とした女の声が聞こえて俺は動きを止める。
部屋の奥の光の届かない場所から魔王はゆっくりと出てきた。
「なっ……」
その美しさに目を奪われる。
赤髪の女はゆっくりと此方へ向かってきた。
俺は剣を握るのも忘れその姿に見惚れてしまった。
魔王が此方を見る。
開かれた大きな瞳は透き通る紅玉のようだった。
「ふふっ」
魔王が俺の隣へ来たかと思うと我慢していたのが解けたかのように優しく吹き出した。
「な、何が可笑しいんだ!」
俺は忘れかけていた警戒を強め剣を魔王の前に構えた。
魔王は特に焦りもせずこちらを見る。
「勇者殿、見過ぎだよ?」
イタズラ心満載のような目は完全に俺の癇に障った。
「何を笑っているんだ! 俺はお前を殺しに来たんだぞ!」
そう言って俺は剣を魔王へ突きつける。
だが、それでも魔王は未だその余裕そうな表情を曇らせない。
「そうだな、まずは挨拶からだな」
「あ、挨拶?」
そう言って魔王は装飾があしらわれた綺麗なドレスの裾を指先でそっと持ち上げ、優雅にカーテシーをしてみせた。
俺は王との謁見の為に王宮でも恥無い程の礼儀作法は習っている。
そんな俺からするとそれは、何とも美しい所作だった。
「我が名は魔王、リーサ・メルメロス・ヴィザーラ。
二つ名を『紅玉の姫』と呼ばれている」
「リーサか……。
なるほど、では魔王リーサ! お前を討って永きに渡った魔族と人間の戦争を終わらそう!」
俺はそう言って剣を振りかざす。
「待て待て、まだ話は終わってないだろ?」
そう言って魔王はより一層俺の方へ近づいてくる。
何だか調子の狂う奴だ。
俺の英雄譚が書かれれば、ここが一番の盛り上がりのところなのに締まらない。
「まずは、勇者よ。よく来たな。ゆっくりしていきたまえ」
魔王は俺の視界に入るように上半身を傾ける。
その振動でたわわに実った胸がぷるんと揺れた事を俺は決して見てはいない。
そう、決して……。
「な、なんなんだお前はぁ!!」
「なんだその反応は?挨拶は返すのが礼儀だろ?」
「お前は俺が想像していた魔王のイメージとはかけ離れているんだ!
なんで魔王が女なんだ!」
「むむ、失礼な勇者だな。
私は先代魔王の父上からこの位を譲り受けた正真正銘の魔王だぞ?
あ、そんなに信じられないのなら魔王の紋章を見してやっても良いぞ?
ほら、ちょうど胸の真ん中にあるのだ」
そう言って魔王はドレスに締め付けられた豊満な胸を開き紋章を見せてきた。
まあ、思わずじっくりと目を見開いて見てしまうのも仕方がないだろう。男なんだし……。
紫色の綺麗な紋章が微弱な光を出しながら胸元に描かれていた。
「や、やめろぉ!そんな手には乗らないぞ魔王!
貴様、俺が油断した所を殺そうとしているのだろう!」
「むー、そんな事するはずがないであろう。それに嬉しそうにさっき見てただろ?」
「べ、別に見てなどいない……」
「ふーん……ほんとかなぁ〜?
勇者くん、君はあまり女性に慣れていないように見えるね」
「な、なんだと……?」
「童貞勇者くん、君は私を殺しに来たんだろう?」
その言葉が鼓膜に伝わった瞬間、俺の中の何かがブチ切れた。
「舐めやがって……!
お前の首を獲れば戦争は終わる。魔王さえ殺せば俺は自由だ」
「本当に、私を殺したら平和が訪れると思うのか? 勇者殿」
「急に何を言ってる。どういうことだ」
すると魔王はフフッと小さく笑いながら続ける。
「いや、今の世界の現状を知っているのかと思ってね」
「今の世界だと?
お前ら魔王軍との戦争の所為で各国の戦線は今も酷い状態だ。
戦争をけしかけてくる魔王さえ殺せば全て終わる」
「ふふ、ふはははは!」
「何を笑っている!!」
魔王の高らかな笑いに苛立ちが募る。
俺の間合いにいるのだが何故か躊躇してしまうのだ。
それが恐れなのか萎縮してしまっているのかわからないが動けないでいた。
「いや、なに勇者殿は何も知らずに戦場まで来たのかと思ってね」
「何も知らないだと?」
「それが単に馬鹿だから知らないのか、意図的に情報遮断されているのかは分からんがな」
「俺は、馬鹿じゃない……」
「ふふ、それじゃあそういう事にしておこう。
それでは勇者殿にまず、この永きに渡る戦争の真意を伝えておくか。
私を殺そうとするのはその後にしてくれたまえ」
「まあ……いいだろう……」
俺は大人しく剣を鞘に収めた。
今の俺は感覚が鋭敏になっているため、いきなり何が来ても対処できる自信があった。
「まずは百年前の戦争の始まりを話そう。
あれは私の父が未だ魔王として健在でこの国を統一していた時だ」
「魔族と人間との国境の境目でのいざこざが原因なんだろ?」
「残念ながらそうではない。
元々我々魔族は人間に一切干渉せず国境付近ではひっそりと村々を山奥に隠しながら生活していたと聞く」
どういう事だ?
俺が幼い頃から聞かされていた話と違うが……。
「そして戦争は突然起こった」
「何があったんだ?」
「人間達が攻めて来たのだよ。我々の国に」
「じゃあ、国境付近での魔族の攻撃が戦争の火種になったって話は嘘だというのか?」
「十中八九それは国が手を組んで噂話を民に流し込んだな。
他にも噂は様々あるぞ。魔族が人攫いをしているとかこの世に魔獣を生み出しているのは魔族だ、とかね」
俺は言葉に出来なかった。
今、この女の言うことを信じる事などしたく無いが何故か嘘だと断言できない思いがあった。
「まあ、簡単に言えば不景気により人間の国で増えに増えた失業者達の口減らしを狙いとした行動だな。
ついでに我が魔王国の恵まれた領土も増やせれば良しと奴らも思ったのだろう。
それに語り継がれてきた魔族を卑下する伝承も口実となっているだろうな」
この世界には一つの有名な童話がある。
それは『勇者ユギルの冒険譚』
ユギル・バルドは歴史上初の勇者である。
今から何百年も前のことだろう。
子供なら誰もが読んだことがあり童話にもなっている。
そんな彼の冒険譚は、面白おかしくそして魔族への恐ろしさも交えた内容になっているのだ。
魔王は両手を広げ魔力を集中させた。
俺はそれをぼんやりと見続けるしかなかった。
魔王が器用に作り出した魔素の粒達が操られ空中に綺麗な絵が映し出される。
この世界には魔素という存在がある。
土、草、風、水他にも色々なこの世界の物質に魔素は宿っている。
通常、視認出来ないほど微粒子で空気のような存在である。
そんな魔素は勿論、俺らの体の中にも当然存在している。
そして自らの魔素を魔力と呼びそれを操り魔法に昇華させて戦うのが魔導士である。
彼女は簡単そうにやっているが魔素を視認できるほど集めるほどの魔力量を持っている者は珍しい。
ましてやそれを操り空中に鮮明な絵を描いているのだ。
とんでもない実力者であることは間違い無いだろう。
その絵は魔王が話し続けるたびにコロコロと変わっていった。
「今から五十年ほど前に攻めて来たのは隣国である『ヘルダード公国』と『フェレス帝国』と大国『エルダリー皇国』だ。
今でも何かと向こうの国から攻め込まれてるがこの戦はそれを凌駕するほどの兵数が動員されていた」
魔王が作り出した絵には凄惨な戦場の景色が描かれた。
ちなみにここ魔王国に面している国は公国、王国、帝国、法国の四カ国であり皇国と神樹国はこれらの国の後ろに位置する。
「我が父は国の中でも優秀な兵士達を総動員しこの三ヶ国との対処に当たった。」
「三ヶ国での同時攻撃なんて今までの歴史上類を見ない物だったはずだ」
俺はまだその時この世界に生まれていない。
勇者になったのもその後の事だ。
「三ヶ国で同盟を結んだのだろう。
まあ、要するに我が国はリンチ状態。
それでも我が国は甚大な被害に遭い広い領土を奪われたが三国の大軍を退けた」
そう言って魔王が作り出す魔素の粒子達は形を崩し展開する。
「互いに甚大な被害を出しながらも人間達からの攻めは目を増すばかりに酷くなっていった。
父も戦場に赴き剣を振るう程にこちらも国を守る為に必死だったのだ。
この時代にいた勇者も殺したぐらい強かったんだぞ」
リーサは自慢げに語る。
俺からすれば勇者が魔王に殺されたのは少し笑えない話だがどちらも生きるか死ぬかの瀬戸際だ。
世界を救うという大層な大義名分を背負って死ねたのだ。
その勇者も本望だろう。
そして魔王が次に描いた絵は禍々しい姿をした一人の大男であった。
その胸には深く矢が刺さっていた。
周りの兵達の様子を見ると恐らくこの男が……。
「父だ」
魔王はそう言って続ける。
「父は偉大であった。
民を愛し家族のように接していた。
言わずもがな誰からも尊敬される王であった」
魔王の声は美しくも今にも消えそうに掠れていた。
「我らは偉大な王を無くしながらもそれでも強く生きようとした。
足掻いた。
何度打ち砕かれようともその度に剣を振るい懸命に戦った。父が愛したこの国を守るが為に……」
そして魔王の虚ろな目はゆっくりと俺の顔を見た。
紅色の大きな瞳に俺が映る。
「勇者よ、君は言ったねこの戦争を終わらせる為に私を殺すと……」
その瞳は気高く純粋で俺の今の姿を鮮明に写している。
その瞳は鏡のように俺を映す。
疲れている。
自分でもわかるほど、疲弊して心身共にボロボロである。
ここに来るまで考えないようにしていた。
魔王を殺して俺はさっさと勇者という責任から解放されるのだと夢見ていた。
彼女の美しい姿と自分を見比べて嫌になった。
誰かの為にと言われ戦い続けても戦争は終わらない。
自分を傷つけて疲弊させても世界は何も変わっていない。
そしてそんな彼女の矢のような言葉は俺の心に突き刺さる。
「そんな事しても戦争は終わらん。
憎しみが移るだけだ。そんな事ではこれは終わらんぞ」
俺は声高らかに反論する。
「違う!魔王の首を取れば終わると戦争はしないと国の王たちは俺にそう言った」
魔王はゆっくりと首を横に振った。
「終わらないよ。争いはまた次の争いを生み出す。
それは子に受け継がれていく。
そうなればこの戦争は百年、二百年……もっと続いて行くだろう」
魔王は続ける。
「私が君に殺されれば私の国の者は黙ってはいない。
君を狙い報復する、それは国民総動員の大規模な戦争に発展する。
そして大きな火種は伝染して行く。
こんな事を続ければ平和なんて来ないのはわかるだろ?」
憐むような嘆くような顔で魔王は言っていた。
その言葉は俺の中にストンと入ってくる。
「じゃあ、どうすればいいんだ……」
俺はもう嫌だった。
勇者になってから戦場にしかいない。
戦争の中で殺すことしかしてこなかった。
耐えきれない。
「やっと、やっと終わりに出来ると思ってたのに……」
暫くの沈黙が流れた。
俺は膝から崩れる。
心が限界だった。
魔王の言ったことが起こるとすれば、俺はまたあの生活に戻ることになる。
目的は無い。
ただ国から殺せと言われたから殺す。
それは俺が勇者だから。
勇者という称号を持つ者はその力を人間の為に使わなければならない。
条約でそう締結されているのだ。
その代わり人間の国家間での争いには参加しない取り決めだ。
そう、俺はただ魔族だけを殺し続けていた。
魔王はそっと両手を閉じる。
魔素は散り散りになり消えていく。
「我ら魔族と人間が共存する国を作るのだ」
「……は?」
俺は思わず声を上げる。
困惑の混じる言葉。
魔王が何を言っているのかすぐには理解できなかった。
「どういうことだ?」
「このままでは、この世から一生、戦争など無くならん。
我らは父を失った憎しみを仲間が殺されていった辛さを怒りを、苦渋を飲みながらこの恨みを終わらせる。
そして人間と共存できる国を作ろう。
さすればこれからも続くであろう戦争に終止符を打ち次の百年を争いなく過ごせる」
俺は魔王が何を言ってるのか分からなかった。
いや、わかってはいたがそれは戯言と呼んでも間違いでは無いような虚言であった。
「お前は自分が言っている意味がわかるのか?」
「確かに壮絶な道であろう。だが、それで平和が訪れるのならば安い代償だ」
「そういう事じゃないだろ!お前は!本当に魔族と人間が分かり合えると思ってんのか!?」
俺は声を張り上げた。
建物の壁に跳ね返り残響が残る。
「私は全てを背負う覚悟は出来ている。」
その言葉が俺の口を噤む。
本気である。その眼を見れば誰だって分かるだろう。
ただの夢見心地な事を言っているのではないと本気で俺らとわかり合おうとしているのだ。
「問おう。
君が戦争を心の底から思えているのならば我らと共に来い。君の力が必要だ」
「俺は……今更裏切る事なんて……」
出来るわけない。
俺は勇者だ。国のために戦わなければ存在意義が無くなる。
「別に敵国に寝返るのも珍しく無いことだと思うがな」
何も言わない俺に魔王は察したのだろう。
「別に無理強いはしない。
ここであったのも何かの縁だ。また戦場で会えるのも嬉しく思うが……」
魔王の先程の言葉に確証はない。
無いがそれでもその言葉に縋っていたかった。
俺は殺し合いの日々を終わらせたかった……。
「本当に戦争は終わらせられるのか?」
「上手くいけばそうなるやもしれぬ」
「まだ運頼みの段階かよ……」
沈黙が流れる。
けど、俺の心は決心はついていた。
正直、人間の国は腐っている。
金や名誉などを求めた意地汚い人間が蔓延している。
そいつらは戦争によって儲かっている。
変えなきゃ終わらない。
この世界を変えようとするなら自らを変えなきゃならない。
「わかったよ。
俺もやる、お前と共に戦ってやる。そしてこの戦争を終わらせたら、俺は勇者を引退してやる!!」
高らかに宣言する。
魔王は俺の眼をじっと見つめる。
逸らさない。俺の意思を思いを彼女に託すしか無い。
「うむ、よく言った勇者よ!
貴殿を歓迎するぞ!我が夫として!!」
リーサは思い切り両腕を広げる。
「……」
沈黙。
魔王が言った言葉が俺の頭の中で再度流される。
「へ?」
それでも魔王の言葉が理解不能であった。
今、主人って言ったか?誰を?え?俺が魔王の夫になるのか?
「はあああああ!?」
「どうした?旦那殿」
魔王は満面の笑みで話しかけてくる。
まるで何もかもが計算だおりだと言わんばかりの顔だ。
「お前、本気で言ってるのか?」
「ふむ、その反応だと嫌そうだな」
魔王は意外と言ったような顔をする。
「そりゃそうだろ!
そんな事急に言われたら罠にしか思えん!」
俺がそう言うと魔王はまた難しい顔をする。
「私は純粋な恋心で告白したつもりだったのだが……」
「純粋な、だと!? 俺はお前とここで初めて出会ったぞ!」
「勇者殿は目の前の戦いに必死でわからなかったのだろうが私は君を見つけていたぞ。
君が鬼の如く剣を振るい戦っているのをね」
まるで少女のような輝く瞳は恐らく恋をしていた。
それは童貞である俺でも分かる。
そしてその瞳には俺が映っていた。
「お前と結婚したとしてこの国の民は許すのか?」
「この国の国民は寛容だぞ?
私の決定ならば許してはくれるだろう。
まあ、勇者殿が拒否しなければな。
それに嫌ではないだろう?
この体を毎晩思い通りにできるのだぞぉ〜?」
そう言って魔王は胸チラを仕掛けてくる。
くそッ、これが童貞の性なのだろうか見たくは無いのに見なければいけないという使命感に駆られてしまう……。
けど、まあ確かに彼女いない歴=年齢の俺には勿体ないような話だ。
こんな人とお付き合いできるのだから……
「いやいやいや!魔族だろ?俺、人間!種族も違うし色々とマズイ!!」
「む?そんな事どうでも良いだろう。
異種族同士の婚約が認められないのならばこの際我らが世界ではじめての異種族カップルとやらになれば良いだろう?」
「そんな不条理が通るとでも……」
「この気持ちが恋と呼べる物か私にはまだ分からんが私は君が好きだ」
人生初の告白に戸惑いが出る。
「勇者殿は私の事が嫌いか?」
コテンと首を曲げ上目遣いで見てくる魔王。
ズルすぎる、可愛すぎるそして美しすぎる。
こんな初対面で告白される事なんて今まで無かった。
それにこの胸の高鳴りも今まで無かった。
これは恋なのだろうか。
俺は知らない。
でも、これから何かが始まるという予感を感じて高揚した。
「別に……嫌いでは無い……」
「むふふ〜、そうかそうか。
大好きだぞ!勇者!」
魔王が飛び上がり抱きついてくる。
その豊満なお胸はきちんと俺の顔面にセットされた。
瞬く間に脳内に電流が走り回る。
それは全身へと広がりある一箇所に集中した。
「ま、ま、魔王……」
「どうした?勇者よ。
腰が引けておるが男ならばきちんと立ちたまえ!」
そう言って魔王が俺の腰を押し出せば必然的に彼女の体に俺の息子が押しつけられる形になる。
俺は一ヶ月間戦場にいて碌にしもの世話をしていない。
「ふぇ?」
魔王の顔が段々と赤面していくのが見て取れた。
「こ、興奮してくれているのだな?私の体に……」
「べ、別に……そんなんじゃ……」
「気持ちは嬉しいが今はあれをしている暇は無いのだ……。
すまん、勇者」
恥ずかしい。
恥ずかしくて脳天から爆発しそうだ。
「だが、これで我らは婚約という形で結ばれたとして良いのだな?」
そんな近くに顔を近づけられると間近で見れない。
それでも伝えなければいけない言葉があった。
一度、深く深呼吸をする。
「俺はお前のことが好きだ魔王。一緒に世界を変えよう」
「勿論だとも勇者よ」
こうして俺と魔王は婚約?した。
歪な形だしこれからどうなるかも予想出来ないがまあ、頑張ろう。
なんだか掌で転がされていた気分はしたがなんとかなるか。