71.気が重い男
ギャルっぽい美女は尚もしつこく絡んでくる。
オトコなんぞ他に幾らでも居るだろうに、何故こうまでして徹郎に付き纏うのか。
「あんたも大概やな。俺は遊ばへんし、飯喰うたら帰る」
「あんたじゃなくて、うちは遠藤紗季っていうの。紗季ちゃんって呼んで良いから」
初対面でいきなり何をいっているのかと、徹郎は渋い表情。
しかし紗季はまるで臆した様子も無く、逆に徹郎の名を訊いてきた。相手が名乗った以上は答えてやるのが礼儀だが、それ以上の義理は無い。
「鬼堂徹郎です。ほな飯喰いに行くんで、遠藤さんは他の男捕まえて遊んでらっしゃい」
「つまんないなぁ……だったらさ、ほら、うちもご飯連れてってよ。何かおごってよ」
ほほう、そうくるか――徹郎はならばとばかりに、ひとつ妙案を思いついた。
この手のギャルは、大体どこも行く店は決まっている。ならば徹底的に場違いなところへ連れて行って辟易させれば、もう今後一切絡んでくることも無くなるだろう。
「あぁ、エエですよ。ほな、一緒に行きましょか」
そういって徹郎が紗季を連れて行ったのは、既に目星をつけてあった、とある店だった。
「え……マジ? マジで、ここ入んの……?」
紗季は、目が点になっている。
それもその筈で、徹郎が連れてきたのは超高級鉄板焼きグリル店だった。ランチだけでも一万円近くは取られそうな大人向けの店である。
今までこんな高級店には足を運んだことが無いのか、紗季は目に見えて狼狽していた。
「あぁ、嫌なら他の男捕まえて適当に喰ってきたら宜しい。俺はここで昼済ませて、さっさと帰ります」
「え、でもさ、うちら服とかこんなんだし……」
徹郎は心配無用と不敵に笑った。この店にはドレスコードが無いことは既に調べてある。
これで典型的なギャル娘の紗季も、完全にビビって逃げ出すだろう。
そんな期待を抱いていた徹郎だったが、しかし紗季は全く逆の反応を示した。
どういう訳か思い切りその美貌を輝かせ、早く入ろうと急かし始めたのである。
徹郎はどうせすぐにビビり倒して途中で逃げ出すだろうと高を括りながら、紗季とふたりで件の店舗内へと足を踏み入れていった。
ところが紗季は、徹郎の予想を悉く裏切り、出されてくる高級肉や食材を次々とスマートフォンで撮影してはSNS上にアップしつつ、その絶品な味わいに舌鼓を打ち続けた。
そのはしゃぎっぷりは徹郎ですらドン引きする程で、彼女はこれまでで最高のランチだと変に感動する始末だった。
「ほらほら見て見て。皆すっごい驚いてるし」
などといいながら、紗季は自身のスマートフォンの画面を隣の席から差し出してきた。
そのグループチャット上には、
「え? マジ? 遠藤イマどこ? 俺も食いてぇー!」
「紗季っち、誰といんの? もしかしてパパ活?」
などと驚きの声が連続している。
(誰がパパ活やねん……俺まだ15やっちゅうねん)
内心でぶつくさボヤきつつ、徹郎はもうすっかり諦めて鉄板焼きを堪能することにした。
それにしてもこの紗季という女性は、本当に肝が据わっている。このぐらいの年齢の娘で、いきなりこんな高級店に連れて来られたら、普通はビビッて委縮しそうなものなのだが。
ともあれ、彼女を撒くのは失敗した。かくなる上は、自分の朴念仁ぶりをアピールして追い払うしかないだろうか。
「はぁ、お腹一杯……満足満足ぅ……」
心底嬉しそうに、セクシーなへそ出しスタイルの腹回りをぽんぽんと叩く紗季。
それまで渋面だった徹郎も、同伴した相手が心ゆくまで食事を堪能してくれたことに対しては、素直に嬉しく思った。
しかし、だからといって今日初めて会った相手と必要以上にだらだらと一緒に居るつもりは無い。
「んで、この後どうすんの?」
「家帰って片付けせなあかん。俺まだ引っ越してきたばっかやし」
すると彼女は、どこに住んでいるのかと訊いてきた。流石にそこまで答えてやる義理は無いとして徹郎は突っ撥ねたが、紗季はならばとばかりに、SNSアカウントの交換を申し入れてきた。
(まぁ、それぐらいは聞いといてやるか……ここで変に騒がれても店に迷惑かけるし)
もっといえば、交換だけするだけしておいて、後でブロックしてしまえば良い。
どうせもう、二度と会うことは無いのだろうから。
「ふふ……も~らい! 徹郎、これからも宜しくね」
嬉しそうに美貌を輝かせる紗季。
対する徹郎は、
(いきなり呼び捨てかい)
などと毒づいていた。
ところが、自身のスマートフォンを眺めて紗季のSNSアカウント情報に記されているプロフィールに目を通した時、内心でぎょっとなってしまった。
そこには、私立湘慶高校の生徒であろうと思われる一文が記されてあったのだ。
(うわ……マジか、このお姉ちゃん)
徹郎は何となく、嫌な予感が込み上げてくるのを感じた。
帰宅後に速攻でブロックしてやろうと考えていたのだが、ここで下手なことをすると、後で面倒なことになりかねないと直感したのである。
まだ任務も始まっていないのに、いきなりトラブルを抱えるのは賢い選択ではない。
だが今は、下手なことはいわない方が良い。徹郎が二学期から同じ湘慶に通うなどと口走れば、更に色々とウザ絡みしてくるのは目に見えていた。
兎に角ここは、早急に離脱だ。徹郎はカードで支払いを済ませてからさっさと店舗を出た。
「それじゃね、徹郎。また連絡するから」
機嫌良さそうに去ってゆく紗季。ミニスカートから伸びる白い脚は、随分と機嫌良さそうにステップを踏んでゆく。
(変な奴に目ぇつけられてしもたな……)
逆に徹郎は、微妙に気が重かった。
これにて第二章『真夏の夜のヲタ』はおしまい。
お付き合い頂きまして、誠にありがとうございました。




