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47.お父さんと子供

 ニーナ・ニーナの向かいには、通りを挟んでチェーンの古本屋が店を構えている。

 その入り口付近に、沙璃耶らしき人物がうろうろしている姿が見えた。


「ね、徹っちゃん。マジっしょ?」

「ホンマやな……まぁ行くだけ行ってみるか」


 徹郎は、あのスポーティな外観の美少女――沙璃耶が本当に自分の出待ちをしているのかを確かめるべく、敢えて雪奈と一緒にニーナ・ニーナを出ることにした。

 その際雪奈が腕を組ませろなどと、やたらに徹郎とべたべたしたがっていたが、流石にここでそれをやるのは色んな意味で拙いということで、全力で却下した。

 じゃあせめて手を繋がせろと要望してきた雪奈。それぐらいなら別に構わないと応じた徹郎だが、実際にお互いの手を取った時、雪奈は物凄く微妙な顔を返してきた。


「え……恋人繋ぎじゃないんだ……ってか、これじゃあまるで、お父さんと子供……」

「しゃあないやろ。俺と自分の身長差、考えてみぃや」


 雪奈は160cm。それに対し徹郎は187cm。確かに、大人と子供程の差はあるかも知れない。

 そして徹郎が雪奈の手を取っている形も、父親が子供の手を引いている時のスタイルだった。

 徹郎としては雪奈の要望を聞いてやったのだから文句いうなという心境だったのだが、今重要なのは雪奈のむくれた顔ではなく、書店でこちらの出方を伺っている沙璃耶の方だ。


「ほんなら、行くで、お嬢ちゃん」

「はぁい、お父さん……」


 そういえば以前雪奈は徹郎をおじいちゃん認定していたから、幾らか若返ったといえるかも知れない。

 ともあれ、ふたりは通りに出た。

 すると呼応するかの如く、沙璃耶も書店を飛び出してきて、まっすぐこちらに向かって歩いてきた。雪奈情報に誤りは無かったか――徹郎は内心で身構えた。

 一方、沙璃耶は徹郎の前で立ち止まると、ぺこりと一礼。こういうところは流石体育会系だけあって、しっかりしている。


「こんにちは! そして、お久しぶりです! 私のこと、覚えておいでですか?」

「えぇと……」


 徹郎は一瞬言葉を濁しかけたが、相手はこちらの素性を知っているのだろう。ここで今更とぼけるのも、時間の無駄だった。


「あの自転車のひと、でしたかね」

「そう! そうです! 私、結城沙璃耶っていいます! あの時は本当にありがとうございました!」


 再び沙璃耶は背筋を伸ばして、深々と一礼。

 まるで試合後、相手チームと礼を交わす時の様な空気感だ。見ていて実に清々しいのだが、異性相手の挨拶としては、ちょっと世界が異なる様な気がしないでもない。

 この時、徹郎は雪奈を一瞥した。

 ゆるふわ系ギャルの彼女には、沙璃耶の体育会系のノリはどうにも不得手らしく、ただ乾いた笑みを浮かべるのみである。


「まぁ、あの、こんなクソ暑い中で立ち話も何ですし、どっか入りましょか」


 そんな訳で、三人は駅前のカフェチェーン店に足を運ぶことにした。


◆ ◇ ◆


 四人掛けのテーブルに席を取った三人。

 雪奈はアイスティー、沙璃耶はアイスコーヒーといったチョイスの中で、徹郎は相変わらずのアイスココアだった。


「ああ~、駄目……頭バグりそう」


 ここで雪奈が大きくかぶりを振った。

 曰く、徹郎は見た目は大人な雰囲気のイケメンマッチョ、しかし言動はおじいちゃん、そして飲み物の好みはまるでお子様と、ひとり時間差ならぬひとり年齢差を見事に体現しているとして、どう捉えて良いのか分からないのだという。


「自分、いちいち大袈裟やねん……」

「えー、んなことないよ。結城パイセンも、そう思うよねー?」


 雪奈から半ば奇襲の様な形で水を向けられた沙璃耶だが、彼女は決して動じることなく、


「それが鬼堂さんのアイデンティティだと思います」


 と、きりっとした顔で応じてきた。

 この反応は雪奈も想定外だったらしく、え、そうなの、などと困惑の表情。

 そんなふたりを横目に見ながら、徹郎は涼しい顔でアイスココアを楽しんでいた。

 そしてここで改めて、沙璃耶は自転車事故を未然に防いでくれた徹郎に礼を述べると同時に、つまらないものですがと、熨斗付きの菓子箱をそっと差し出してきた。


「重ね重ね、ありがとうございました」

「いやー、こんなん態々宜しいのに」


 背筋を伸ばしてお互いに頭を下げ合うふたり。後で雪奈が、この時の光景をまるで保護者同士の挨拶の様だったと礼司や裕太に語っていたらしいが、案外いい得て妙かも知れない。


「それにしても鬼堂さんは、非常によく鍛えられたお体をお持ちですね。部活は何を?」

「いやぁ、俺、帰宅部ですわ」


 隣で聞いていた雪奈がお見合いかよ、などとぼそっと呟いたが、徹郎は聞こえぬ振りで黙殺した。


「せやけど、その鬼堂さんってのはやめて貰って良いですか? 俺の方が後輩ですし、そんな敬語も無しにして貰った方が喋り易いんで」

「あ……そ、そうだったかな。じゃあ遠慮無く、普通に喋らせて貰うね、鬼堂君」


 沙璃耶は頭の切り替えというべきか、態度の使い分けに慣れている様に思われた。

 体育会系だから先輩や後輩への態度の使い分けは勿論、ニーナ・ニーナでの女性スタッフという部分でもオフィシャルとプライベートの切り替えに慣れているのだろう。

 そういう意味では、徹郎も似た様なものだ。諜報員は様々な場面で、その時々に合った立場を使い分けなければならない。今でこそ普通の高校一年生として生活しているが、変装さえ施せば、徹郎は中年男性として振る舞うことも可能だった。


(中年か……やっぱ俺、お父さんなんかも知れん)


 同じ年頃の男子が雪奈や沙璃耶の様な美人と午後のひと時を過ごすことが出来たなら、もっと興奮しても良さそうなものだろう。

 そういう意味では、矢張り徹郎はどこかズレているのかも知れない。

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