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46.リバース出待ち

 沙璃耶は戸惑いが隠せなかった。

 試験休み中のソフトボール部の練習の合間に、彼女は1年D組の鬼堂徹郎なる生徒について色々と聞いて廻っていたのだが、彼と同じクラスの1年生達は皆口を揃えて、図体がデカいだけの陰キャぼっちだという人物像をまず第一に挙げてくるのである。

 料理が超絶に上手いとか、成績が抜群に良いなどのプラス面もちらほら聞こえてくるのだが、兎に角誰も彼もが開口一番に陰キャだぼっちだと答える為、沙璃耶も少し心配になってきた。


(え……嘘でしょ。ニーナ・ニーナに居る時は、あんなにイケメンなのに……)


 そのギャップが余りに激し過ぎる為、自分は幻でも見ているのではないかと変な疑いを抱く有様だった。

 しかし別の証言によれば、ファミリーレストラン『キャスト』や、1年D組の遠足に現れた謎イケメンの正体が徹郎だという説もある。

 沙璃耶は、その噂こそきっと真実だと変な固定観念を抱き始めていた。

 だが、それでは何故彼は、校内ではそんなに偏った印象を与え続けているのだろうか。


(そうだわ……きっと間違い無い! 彼はギャップ萌えの伝道師になろうとしてるんだわ!)


 完全に己の好みの路線に都合の良過ぎる結論だった。

 これまでに掻き集めた情報を総合すると、徹郎は教室内では一度、クラスメイトの大半を敵に廻す暴言を吐いて孤立を深めた。

 しかしその後、様々な高スペックを垣間見せ、少しずつ教室内の彼に対する視線が変化しつつあるという。

 それでも尚、徹郎本人は飽くまでもぼっちを貫こうとしており、一部の陽キャ連中が彼に接近を試みようとしても大体逃げられるとの由。


(能ある鷹は爪隠すを地でいってるようなひとなんだね)


 沙璃耶は物凄く好意的に、徹郎の日常に於ける言動をその様に評価した。

 彼が孤独を好むのも、きっと何か理由があるに違いない。

 でなければ、ニーナ・ニーナであれだけ堂々とイケメン姿を披露し、ライトノベルを読み漁る様な真似はしないだろう。

 となると、次にやるべきことはひとつ。

 徹郎と仲良くなってお話する、だ。

 これが簡単に見えて、実は中々難しい。

 ニーナ・ニーナではリーアとしてしか接することが出来ず、かといって校内では敢えて孤高を貫く彼に接触を試みるのは迷惑になるかも知れない。

 ではどこで、どの様に声をかけるか。


(そうだ……ニーナ・ニーナで、出待ちだわ!)


 沙璃耶は極論に辿り着いた。

 普通、コンカフェで出待ちといえば、人気の女性スタッフを狙って客の方が仕掛けるものである。

 しかし彼女の場合、女性スタッフの方からひとりの客に出待ちを仕掛けようというのだから、完全に攻守が逆転している。

 しかもそれが沙璃耶の頭の中では、普通に成立してしまっていた。


(これ以外に無いわね……流石、私!)


 ソフトボール部の練習中であるにも関わらず、そんなことばかり考えていた沙璃耶。

 挙句に集中力を欠いて、守備練習でエラーばかりを繰り返してしまったものだから、監督に滾々と説教されてしまった。


◆ ◇ ◆


 終業式二日前の暑い午後。

 その日も徹郎がニーナ・ニーナに通っているという情報をキャッチした雪奈は、今回はソロでの来店に挑戦した。

 ところが、店の入り口付近で見覚えのある女子がうろうろしている。

 確かソフトボール部の二年生で、エースの結城沙璃耶だった筈だ。

 雪奈は徹郎が沙璃耶を自転車事故の寸前で救ったという経緯を知っているから、遂にこの日が来たかと内心で身構える思いだった。

 が、まずは本人にどう対処するのかを確認するのが先だろう。

 雪奈は白いオフショルダーのトップスに美脚をアピールするミニスカートを合わせた姿で、何食わぬ顔で店内に足を踏み入れた。

 出迎えた女性スタッフはにこやかに対応してくれてはいるが、余りに場違い感が半端無い雪奈に対し、笑顔が引きつっているのが傍目から見てもよく分かった。

 店内に居た常連と思しき男性客達も、雪奈のルックスにすっかり見惚れてしまっている。

 このままでは本当に徹郎が出禁を喰らってしまうかも知れなかったが、雪奈としてはこんなところに態々通わなくとも自分の家にでも呼んであげようかと思っているぐらいだから、然程気にはならなかった。

 そして徹郎は今日も居た。ほとんどそこが指定席になっているのではないかと思える程に、毎回同じテーブルに陣取っている。

 雪奈としてもいちいち店内を探し回る必要が省けるから、有り難いといえば有り難いのだが。


「……また来たんかいな」


 当たり前の様に許可も無く相席する雪奈に対し、露骨な程に嫌そうな顔を向けてくる徹郎。

 しかし雪奈は全くビクともせず、にやにやと笑うばかりである。


「あ、そういえば徹っちゃん。そろそろヤバいよ」

「何が?」


 徹郎は何のことだと眉間に皺を寄せる。

 既に雪奈がニーナ・ニーナに足繁く通っている時点でかなりヤバいのだがという意味の台詞が返ってきたものの、雪奈は黙殺した。


「えぇっとね……徹っちゃんストーカーのニューカマー現る、だよ」

「それどういうことやねんな」


 流石に徹郎も不安になったらしく、ライトノベルを読む手を止めて雪奈に顔を向けた。

 雪奈は、過日徹郎が自転車事故から救ってやった二年生の女子が、店の外で徹郎を出待ちしているっぽいことを説明してやった。

 徹郎は全く訳が分からず、腕を組んで真剣に考え込んでしまった。


「徹っちゃん、あたしが居て良かったねぇ。今日はあたしとデートしてるってことにしたら、向こうも諦めるんじゃないかな」

「何? 自分もラノベに目覚めたんか?」


 全く話が噛み合っていない。

 それでも雪奈は、めげなかった。どんな口実であれ、徹郎と一緒に堂々とデートが出来るのだから。

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