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41.新ライバルの予感

 珍しく奏恵は疲れ果てていた。

 一学期の期末試験最終日。

 全ての試験が終了してやっと解放されたと思ったら、今度は告白タイムのオンパレードだった。

 折角徹郎を捕まえて、ファミリーレストラン『キャスト』で昼食を取りながら期末試験の答え合わせをしようと思っていた矢先に、いきなり他クラスの男子から裏庭に呼び出され、交際を申し込まれた。

 しかし奏恵は、たったひと言で断った。今の彼女には、見も知らぬ赤の他人を彼氏にしたいなどという気持ちは微塵にも無かったのである。

 問題は、その後だった。

 教室に引き返し、先に帰宅した徹郎の後を追いかけようとしたところで、更に別の男子からも裏庭に呼び出されては告白されるということが、合計五回に亘って続いた。 

 後で聞いた話によると雪奈は七回、灯香梨に至っては十回という告白タイムが立て続けに発生し、三人共精神的にかなりしんどい目に遭わされた。

 告白する側はダメ元で挑んできているのかも知れないが、断る方は相手に申し訳無いという気持ちも多少は芽生える為、どうしても心理的にかなりの負担となってしまう。

 そんなストレスフルな状況がこうも連続すると、正直やっていられないというのが偽らざる本音だった。


「いやはや、参った……もう態々裏庭とか屋上に呼び出しての告白なんて文化、無くしてしまっても良いんじゃないかな?」


 教室に引き返してきた時、半ばグロッキー状態で自席にへたり込んでいた雪奈と灯香梨に、半ば冗談めかしてそんなことをいってみた奏恵。

 だが雪奈も灯香梨も、是非そうなって欲しいと深刻な面持ちで頷き返してきた。

 如何に奏恵、雪奈、灯香梨の三人が一年D組の美少女トップ3だと持て囃されていても、三人はそれぞれ体はひとつしか無い。こう何人からも交際を申し込まれるのは、そろそろ迷惑な気がしてきた。


「何でもっと、他の女子に目を向けようとしないんだろうね……素敵な子はまだまだたくさん、居るっていうのに……」

「結局さぁ、相手のこととか内面とか、ちゃんと見てないんじゃない……?」


 雪奈が不機嫌そうに頬を膨らませている。

 恐らく彼女にしても灯香梨にしても、容姿が整っていることは自覚しているだろう。世間一般的な美醜の基準に照らし合わせれば、自分達の顔立ちの良さは決して自慢でも何でも無く、客観的に判断出来る。

 ただこの三人の場合、その己の美貌や顔の良さについては然程、気に留めていないというのが共通点である様に思える。

 人間の本質は美醜だけではないということを、理解出来ているのだろう。

 それは奏恵自身も、常々そう思っていることだった。

 中間試験直前に知った徹郎の優秀な頭脳に心惹かれたことを、奏恵は自覚している。彼がイケメンだと知ったのは中間試験が終わった後の話だから、その想いには何のブレも無い。

 それはきっと、雪奈も同じであろう。

 以前彼女から聞いた話では、雪奈が最初に興味を惹かれ、徹郎の友人として振る舞う様になったのは、彼の料理の腕にすっかり惚れ込んだからだという。

 そして雪奈もまた、徹郎が涼やかな顔立ちの主であることを知ったのはその後のことだったらしい。

 灯香梨については順序が逆だったとのことだが、結局彼女も徹郎にバイト中の危機を救われたことから、彼の存在感に魅力を感じる様になったと考えて良いだろう。

 そもそも以前から、灯香梨が顔よりも性格と男前な振る舞いを重要視しているという話はちらほらと耳にしていた。徹郎のこれまでの振る舞いは、灯香梨のそんな好みにぴったりであるのに違いない。

 だから余計に、今日交際を申し入れてきた男子達の薄っぺらさが際立ってしまった。しかも下手な断り方をすると逆切れしたり、ぐずぐずといつまでもしつこい野郎ばかりだった。

 綺麗な顔立ちに生んでくれた両親には心から感謝しているものの、流石に少し疲れてきた。


「今日はもう、帰ろうか……」

「うん、そうだね……」


 奏恵の提案に、灯香梨が乾いた笑いを浮かべながら首肯した。三人揃って、色恋に狂った男子とは当分接触したくないという思いがその面に滲んでいた。

 ところがそこに、サッカー部の練習に行っていた筈の礼司が、ジャージ姿のまま教室に戻ってきた。その顔には何ともいえぬ奇妙な表情が張り付いている。


「なぁ、鬼堂の奴、知らないか?」

「え? 徹っちゃん? もう帰ったみたいだけど、また何かやらかした?」


 雪奈が疲れ切った美貌に幾らかの疑念を乗せて訊き返した。

 しかし礼司は、そういう訳じゃないんだがと断った上で、正門から続く通学路の下り坂で大きな事故が未然に防がれたらしいことを口にした。

 曰く、ソフトボール部の2年生エースで、その美貌と実績に多くのファンが居る結城沙璃耶という上級生が、ブレーキワイヤーが切れた自転車で事故を起こしかけたのだという。

 その沙璃耶はすんでのところで救出されたのだが、彼女を救った人物が名前を告げずに去った為、沙璃耶は必死になってその命の恩人を探しまくろうとしているらしい。

 今日は偶々ソフトボール部の練習が無かった沙璃耶だが、彼女の命を救った正体不明のヒーローを探し出す為にと、沙璃耶を慕う後輩やチームメイト達が一斉に捜索網を張り巡らせようとしているとの由。

 そして礼司の話を聞いているうちに、奏恵はだんだん徹郎の顔を思い浮かべる様になっていた。

 灯香梨や雪奈も同様らしい。ふたりは揃って、やっぱり彼なのかも、という意味の言葉を交わしながら顔を見合わせていた。


「聞いた話じゃ、自転車は結構なスピードが出てたらしいんだけど、その命の恩人は結城さんに怪我させることなく、一瞬で救い出したって話だ」

「あぁ……ますます徹っちゃんっぽい」


 雪奈が乾いた笑いを漏らした。

 ところがこの時、奏恵は新たなライバル出現か、などと思ってしまった。

 否、その思考は恐らく彼女だけではない。灯香梨と雪奈の顔にも、妙な危機感の様な色が張り付いているのが見え隠れしていた。


「徹っちゃん……同学年だけじゃなくて、年上のおねーさまからも逃げ廻らんといかん様になっちゃったね」


 雪奈が自分のことをすっかり棚に上げて、可笑しそうに笑った。


「鬼堂君……女難の相でも出てるのかな」


 灯香梨のその疑問には、誰も答えられない。

 そもそも、彼の場合は女難なのか。

 自転車絡みの相は出ているのかも知れないが。

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