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26.ニコイチ出現

 夕刻。

 自宅マンション近くのスーパーに立ち寄った徹郎は、カフェチェーン店での京子と愛理との遭遇を経て、漸く自分の本音を理解した様な気がしていた。


(年少諜報部は純粋に実力主義やったもんな。見た目や声の大きさでは何も決まらん)


 これに対し、陽キャという存在はどうか。

 何らかの方面でそこそこの実力があれば尚良しだが、それ以上に重要なのは外見の良さであり、更に加えて性格の明るさや外面の良さが大きな比重を占めてくる。

 逆にどれ程の実力があろうとも、根暗であったり不細工であれば、もうその時点で(ふるい)にかけられて脱落してしまうのが現実だ。それはCIA――少なくとも年少諜報部では絶対にあり得ない話だった。

 飽くまでも実力至上主義、それが徹郎が育ってきた環境だ。

 だからこそ、美醜や性格などを重要視する陽キャという在り方が馬鹿馬鹿しく、そんな連中とは交わる気にもなれなかった。

 勿論、中には例外も居る。灯香梨や雪奈、或いは礼司、裕太といった面々は陽キャというカテゴリーに属しながらも陰キャぼっちを貫こうとしていた徹郎に自ら接しようとする意思が感じられた。

 だがそれは飽くまでも個別の案件に過ぎない。

 矢張り全体を通してみれば、陽キャなんてものは徹郎の人生観とは相反する存在だった。

 CIAは組織として動くが、諜報員は個人として動く。誰からの助けも得られない状況の中で、ひとりでもがき苦しまなければならない。その生き様はまさに、陰キャでありぼっちであり根暗な底辺そのものだ。

 三年間を平穏無事に過ごすだけなら別に陽キャでも構わなかった筈だが、それでも徹郎が敢えて陰キャぼっちを選んだのは、諜報員としての資質と、ひとりで行動する為の訓練に明け暮れた十年間の積み重ねがあってのことだろう。

 そんな徹郎に対し、京子と愛理は陽キャの側に来いという。


(今更この生き方は変えられへんて……)


 徹郎は総菜コーナーで鯵の南蛮漬けを買い物かごに放り込みながら、小さな溜息を漏らした。

 と、その時、尻ポケットで軽やかなメロディーが流れた。SNSの着信音だった。

 買ったばかりのスマートフォンを手に取ると、灯香梨からのメッセージとデコレーションスタンプが躍っていた。


『鬼堂君、登録してくれたんだね! ありがとう!』


 そのメッセージのすぐ下で、デフォルメの可愛らしい猫がお辞儀を繰り返している。

 これに対して徹郎は、


『まあ今後も宜しゅう』


 とだけ返し、既読マークが付くかどうかも確認せずに画面を閉じた。

 ところがその時、スマートフォンを尻ポケットに戻そうとした徹郎の腕を掴む者が現れた。


「わぁ~! 徹っちゃんもしかして機種変したのぉ?」


 雪奈だった。何故彼女がここに居るのか。裕太らとカラオケにいった筈ではなかったのか。それが何故、スーパーの総菜コーナー前で徘徊していたのか。

 全く以て理解不能だった。


「カラオケ行ったんちゃうんかいな」

「あ、もうお開きしちゃったんだぁ」


 答えながら雪奈は尚もまじまじと、徹郎が手にしているスマートフォンを見つめ続けた。


「んでさぁ徹っちゃん。それってアプリ入れてんの? さっき誰かからコメ届いてた?」

「自分、よう見とんなぁ……」


 徹郎のそのひと言を待っていたのかどうか。雪奈は変な笑みを浮かべつつ、鞄から自身のスマートフォンを取り出した。


「はい、徹っちゃん」

「はいって、何よ」


 スマートフォンの先端を差し出してくる雪奈に、徹郎は渋い表情を返した。何がしたいのか分からない。

 すると雪奈は頬をぷっと膨らませた。


「ほぉらぁ、アカ交換に決まってんじゃん。ほら早く早く」

「いやちょい待てって。何をどうすんねんな」


 雪奈にせがまれるまま、徹郎は画面ロックを解除し、SNSアプリを起動した。が、それ以上は何をどうすれば良いのかさっぱりだ。店頭で色々使い方を教えて貰ったが、後でまた説明書を読めば良いと考え、然程真剣には聞いていなかった。


「んもぅ~……おじいちゃんみたいなこと、いわないでよ。ほら、教えてあげるから」


 総菜コーナーでアカウント交換する高校生男女。中々奇異な光景かも知れない。

 そうこうするうちに、雪奈のアカウント名が徹郎のSNSアプリ上に現れた。


「んへへへ~……徹っちゃんのアカゲット~」

「こんなん、何がおもろいねんなん」


 極上の笑みを湛える雪奈とは対照的に、徹郎はただ首を傾げるばかりだ。こんなものはただの通信手段に過ぎない筈だが、一体どこにそこまで大喜びする要素があるというのだろう。


「徹っちゃんって、やっぱりおじいちゃん……」

「要らんこといわんでエエねん」


 徹郎は用事は済んだとばかりにスマートフォンを尻ポケットに押し込んだ。さっさと雪奈を撒いて、帰宅してしまおう。

 そんなことを考えていると、今度は背後から別の声が。


「おや鬼堂君。もしかして君もここの常連さん?」


 奏恵が制服姿のまま、買い物かごをぶら下げている。徹郎は思わず雪奈と奏恵の双方の美貌を見比べた。


「もしかせんでも、自分ら二戸一(ニコイチ)なん?」

「漫才コンビみたいにいうのはやめてくれたまえ、隠れイケメン君」


 などと応じながら、何故か奏恵もスマートフォンを取り出して、先程の雪奈と全く同じ所作を見せた。


「ほら、ぼーっとしてないで、アカ交換」

「いやちょっと待ってぇな。じじぃにはハードル高いねん」


 徹郎はぶつぶつ文句をいいながら再度、スマートフォンを取り出した。

 その隣で雪奈は、徹郎のじじぃ宣言が余程に受けたのか、その場で腹を抱えて笑い転げていた。

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