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第九十三話 絆と力

「一度俺の意表を突いたからと言って、調子に乗るなよ?」


彼は愉快そうに笑うと、一瞬にして僕との距離を詰めた。そしてそれと同時に、腹部にちょっとした衝撃が走った。その姿勢とその殺意からして、先ほどと同程度の威力だと、僕はすぐに理解した。

 しかしそのこぶしを食らってもなお、僕はまるで何事もなかったかのようにしてたたずんでいた。


「こっからは、僕のターンだ」


直後、白髪のアドレに向かって思い切りこぶしをふるう。その威力は先ほどよりも格段に上がっているためか、彼は腹部を抑えてよだれを垂らした。

 すごい...。

 確かなパワーアップと、彼の強靭な肉体に僕は思わず心の中でそうつぶやいた。

 しかし、油断するのはまだ早い。彼だって、先ほどまで僕を蹂躙できるほどの実力を持っている。それに、さきほどから彼は本気を出しているといっているが、出しているようには見えない。それ故に、彼の実力はいまだ未知数な部分がある。

 警戒を怠れば死ぬ。僕は自分自身にそう言い聞かせ、戒めた。


「なかなかやるようになったじゃないか。それでこそ、エディタ・アドレだ!」


彼は再び手を天に掲げた。それは先ほど彼が放った魔法、ストームの準備態勢だった。再び風の吹く威力が強くなっていく。

 しかし、僕はストームが発生するであろう中心部に向かって手をかざした。すると、風の威力は徐々に弱まっていき、次第に元通りになっていった。


「グレイヴのスキルとお前のスキル。そして効力を高めるためにユイガの倍スキルの併用か。厄介なもんだな」


彼は少し悩んだような顔をした後、ありえないスピードで僕に接近した。が、そのスピード域など、すでに僕は超えていた。それ故に、彼の動きは先ほどよりも格段に見やすくなっていた。

 回避後に隙を生じさせないように、紙一重で回避していく。そして彼がナイフで突こうとした瞬間、僕はあえてその攻撃にあたりに行くようにして突っ込んでいった。

 その動きに、彼は驚きながらもそのナイフを僕に近づけていく。そしてそのナイフが僕の胸部に接触する瞬間、彼のナイフは僕の胸部をすり抜けるようにしていった。


「グレイヴの無スキルか...!?」


彼は一瞬にして僕のタネを明かしてくるが、すでに遅い。ナイフの突き攻撃に生じた隙を見逃すことはなく、僕は要の速スキルとユイガの倍スキル。そして僕の流速と時スキルにより、爆発的なスピード上昇を実現させた。

 あまりのスピードに彼は目を追うことはできなかったせいか、彼は僕の攻撃箇所を予測して、よける動作に入った。が、そこはまったくもって僕が攻撃しようとしている箇所ではなかった。


「これで、終わりだ...!」


確実に入る一撃。それを理解していた僕は、みんなの思いを乗せて、その剣をついに振るった。

 直後、剣が何かを切ったような音とともに、彼からは血が流れた。


「そう.......。それで...いいんだ.....」


彼は嬉しそうに笑みを浮かべ、地面に倒れこんだ。

 彼の左肩から右骨盤。そこに向かって線を引くようにして切ったため、彼が着ていた衣服かはすぐ血で染め上げられた。それも出血多量なため、意識ももうろうとしているようだった。

 しかし、彼は不満そうな顔をして、僕に話しかけた。


「せっかくここ.....まで追いつ.....めたんだ.........。とどめを.....ささなく....て、いいのか?」


そう言い終えると、彼は深くせき込み、血反吐を吐いた。

 世界が恐れた敵。こいつを殺せば、僕は英雄になることができるし、世界を救えることができる。僕にとっては、いいこと尽くしだ。だがしかし、僕は彼が何を企んでいるのか、戦っているときに気が付いてしまった。

 僕は抜いていた剣を捨てた。


「なにを...している?」彼は不思議そうに僕を見つめていた。

「君はさ、この世界が素晴らしいと思う?」

「ああ。ユイガが生きて、お前も生きている。俺の世界では想像もできやしないことだ。だから、素晴らしいと思う」

「うん.....。やっぱ、殺せないよ」


やはり彼の言葉を聞いていると、胸が苦しくなった。それはきっと、僕と彼は同じエディタ・アドレだから。僕が彼のような境遇に立ったら、きっとこういうことをするはずだ。

 それをわかっているから、とても殺す気にはなれなかった。


「君は、ユイガを守りたかったんだ。レイナにユイガを殺されたあの時、君はひどく後悔した。だから、君はもしユイガとエディタ・アドレがともに生きれる世界があったのなら...。そんなもしもを願ったんだ。そしてその願いはかなって、君はユイガとエディタ・アドレがともに生きている世界にたどり着いたんだ。だから....君は最後の敵として僕に立ちはだかり、もう誰も失わせないように僕を鍛えたんだ」


彼はずっと黙り込んでいた。静かに僕の話を聞き、そして最後には、はぁ。とため息をついて、あきらめた。


「やっぱり、一番の敵は自分自身というわけだな」


そして、彼は語り始めた。

最後まで読んでくださりありがとうございます!執筆速度は遅いですが、これからもこのシリーズを続けていこうともいますのでブックマークをして待っていただけると嬉しいです。

 これからもこのシリーズをよろしくお願いします!

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