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第九十二話 もう一つの魔法

おかしい。

 何度もレベルアップし、ついに僕はレベル9にまで到達した。確かに彼との差も埋まってきていた。その証拠に、攻撃はほとんど躱せるようになったし、おまけに攻撃に転ずることができるようになってきていた。なのに、僕が少し彼を追い込んだ瞬間、その差は一気に広がり始めた。

 まるですべてを倍にしているかのように.....。

 そこまで考えたところで、僕は一つの可能性にたどり着いた。夢の内容。そして、僕のステータス表示にどうして三つのスキルが表示されていたのか。そのいみを僕はようやく理解した。


「君は、倍スキルをもってるのか?」


僕がそう尋ねると、彼は攻撃の手をやめ、素直にその質問に答えた。


「ああ。あの世界ではユイガは死んだ。だがその時、あいつが巻いていた赤のハチマキ。あいつはそこに自身の記憶と魔法。あいつのすべてを流し込んだ。それを手に問った俺は、この力を手にしたというわけだ」


彼は一瞬何かを悔やんだような表情をしたが、すぐに獲物を見つめるハンターのような目つきに様変わりした。

 しかし厄介だ。ユイガのばいすきるのやっかいさは、僕が一番知っている。それ故に、彼が持っていることがこの上なくやりづらい。ならいったいどうしたらよいのか。僕にはさっぱり見当もつかず、不安に駆られたまま剣を構えた。


「来い!」


僕がそう叫ぶと、彼は一瞬にして僕の目の前に現れたかと思えば、胸部に強い痛みが走った。今まで感じたことのない激痛。それは胸部にあるあばら骨の骨折によるものだった。

 攻撃の重さに息を荒げるが、それがかえって激痛の要因になっていた。だがかといって呼吸を元に戻そうとしても苦しくなるだけ。結局、僕はこの痛みから逃れることはできなかった。

 あまりの痛みに、僕はついに倒れてしまった。


「よく頑張ったと誉めてやろう」そういうと、彼は胸部を深々と踏みつけた。

「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ああぁぁ!!」


先ほどよりもずっと痛い。その痛みで、余計に呼吸がしづらくなる。苦しいし、痛い。なんならいっそ死んでしまいたいとさえ思った。しかし彼は殺しはせず、じわじわと僕といたぶっていく。

 再び僕は悲鳴を上げた。すると、我慢ならなくなったユイガが飛び出し、彼に攻撃を仕掛けた。


「食らいやがれっ...!」

「遅い」


ユイガが拳を振るよりも早く、彼はユイガの腹部に深々と一撃を入れた。それは先ほどの僕と同程度の威力らしく、ユイガは遠くにまで吹っ飛ばされると同時に痛みに苦しみ、悶えていた。


「ユイガ..!!」

「他人の心配をしている暇か?」


にやりと彼は悪い笑みを浮かべると、今度は思い切り僕のあばらを踏みつけた。そのあまりの激痛に、僕は意識を手放しかけた。

 パワーが欲しい....。あいつを倒せる力を、パワーがほしい。パワーを僕に...!

 そんな切実な願いは届かず、僕は彼にあたを鷲掴みにされると、彼は思い切り僕を放り投げた。その衝撃で僕は軽いダメージを負い、まともに動くことができなくなった。


「ぱ。パワー.......。パワーを.....。僕に...!」


しかし叫ぼうとも、力は手に入らない。僕はしばらくの間、彼に蹂躙され続けるのだった。





アドレがいたぶられている間、ハイム国王はずっと悩んでいた。今いる全員のスキルをアドレに譲渡し、いち早くのアドレを討伐するか。それとも、全員で戦って白髪のアドレを討伐するか。しかしどちらにもデメリットがある。

 スキルの譲渡をした場合、譲渡する側の命は保証できない。しかし団体戦となっても、即興でする団体戦故に個々の力をすべて発揮できずに敗北するという可能性もあった。


「こんな時に、聖女がいさえすれば...」


聖女がいるのなら、スキルを譲渡する方針に移ることができる。が、あいにくとそんな都合の良いことはなかった。

 そう塾講師ている横で、イヴは正体を明かすべきか悩んでいた。しかしそんな時、アドレの姿が思い浮かんだ。彼女の初恋の人。彼女にいろいろなものを見せてくれた人。なによりも仲間のために命を懸けることができる人。

 そんな優しくて大好きな人と、彼女は死なせるわけにはいかなかった。


「ハイム国王!」


イヴは力強く彼を呼ぶと、つけていたフードをとった。

 その瞬間、全員の視点が彼女にくぎ付けになるが、彼女は構いもせずにハイム国王に宣言することにした。


「私は今から彼らのもとに向かいます!だから、アドレを死なせないで!」そう懇願するようにして、彼女は全力で走りながら出ていった。


「君がそうだったのか...」


なんで私は彼女にスキルを使わなかったのだろうと、彼女がいなくなった空間の中、少し後悔した。そしてそれと同時に、黒い少年に届くようにして心の中で叫んだ。


『今すぐエディタ・アドレにスキルを譲渡しろ!』


その心の叫びは見事に黒い少年に届き、彼はそのメッセージをここにいる全員に伝えた。


「国王の命令です。今すぐエディタ・アドレにスキルを譲渡しましょう」


全員が力強くうなずき、彼に向かって手を当て、スキルの譲渡を始めた。

 まず初めにユイガの倍スキルに要の速スキル。続いてオルトの軽スキルにリレイル所長の雷スキル。そして白黒の兄弟の心スキルと折スキル。最後にエナの回スキルと、グレイヴの無スキル。スキルが譲渡される際、全員の掌からそれぞれの性格の色にあった光体が、掌から放出され、すべてのスキルは無事にアドレの元へ届いた。その瞬間、全員は同時に倒れた。

 すべての光体がアドレの中に入って言った瞬間、白髪のアドレはアドレに殴りかかろうとした。


「これしまいにしてやる」


しかし、そのこぶしは地面をえぐるだけだった。すでにアドレは白髪のアドレから姿を消しており、彼はアドレの行方を失った。


「ここだ」


瞬間、白髪のアドレの肩を誰かが叩いた。恐る恐る振り返ると、輝くオーラのようなものをまとうアドレの姿を、彼は視認した。

 背後をとられたといういらだちから、投げやりの気持ちでぶんっ。と腕を振る。が、まるで瞬間移動でもしたかのように、アドレは一瞬にして遠くの場所にまで行ってしまっていた。


「みんな...ありがとう」


アドレは強くこぶしを握り締め、静かに剣を構えた。


「さあ、こっからはお互いに全力。本当の最終決戦と行こうじゃないか」


そしてついに、本当の最終決戦が幕を開けたのだった。

最後まで読んでくださりありがとうございます!執筆速度は遅いですが、これからもこのシリーズを続けていこうともいますのでブックマークをして待っていただけると嬉しいです。

 これからもこのシリーズをよろしくお願いします!

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