第七十三話 時間の瞬天ークロノス・スウィフトー
何度も、何度も、何度も。何度も攻撃しているはずなのに、レイナには攻撃が当たらない。それどころか、僕へ被弾する数が徐々に増えていき、気が付けば、僕の体は切り傷だらけになっていた。
つっよ。バッカみたい。
まるで暴君と戦っているような、いや、実際に暴君と戦っている。
間違いなく、僕は勝ち目のない勝負に両足を突っ込んでしまったのだ。
しかし、僕には作戦があった。絶対に勝つ作戦。レイナにしか通じない作戦を。
「ここからが、本気と本気の勝負さ」
瞬間、僕は極度の集中状態に入るのだった。
「やっぱり心配になってきた。私、アドレのほうへ行ってくる!!」
「やめとけ」
アドレのほうへと行こうとするイヴを、俺は静かに静止した。
俺と要とイヴはテラスティア宮殿から北側。オルトは西。リレイルさんは南側を担当している。
この後にイヴの単独行動があるのだが、いまではないことはわかっていた。
「あいつにはあの奥の手があるんだ。それに...」
「それに...?」
「あいつの奥の手にはまだ伸びしろがある。それも、あのグイドさんでさえ負ける可能性があるぐらいには成長できる」
俺は知っていた。オルトとたたっていたアドレを見ていると、まだまだ未完成であることを。
まだ、アドレが望んでいる極致には届いていないことを。
「だから大丈夫だ。きっとあいつならそのレベルにまで到達して、無事に作戦を終えることができる。あの技、クロノス・スウィフトを完成できれば...!」
どれだけ剣を振った?どれだけ回避した?どれだけダメージを負った...?
戦っているうちに、僕の脳内は雑念であふれかえっていた。それも仕方ない。考えて気を紛らわしたいと思うほど、目の前の圧倒的な強さに打ちのめされてしまったのだ。
いや、違うな。僕は自分が、この技の極致にまでたどり着けないことに、苛立ちを覚えているのだ。
攻撃をかわされるたびに苛立ちを覚え、そして攻撃がぶれる。苛立ちが原因だと分かっているのに、イライラが止まらない。
「もう限界ね」
レイナにそう言われ僕は、やっと自分の体に限界が来ていることに気が付いた。
ガクリ。
力が抜けたせいか、僕は崩れ落ちた。
いいのか?これで、いいのか?
僕の中の僕が、まだ戦おうと催促する。しかし、僕の体はすでに限界。動くものも動かなかった。
「いや....。動かないんじゃないんだ。動かさなきゃいけないんだ...!!」
そうだ。このタイムリープで終わらせるって、僕は何度決意した?何度立ち直った?何度あきらめた?
全部、同じことだ。いつものように諦めたら、また立ち直って決意を固めればいい。
より強固な決意で。
僕はスっ。と何事もなかったように起き上がり、ゆっくりと彼女のもとに歩み寄っていく。
まるで日常の国民と同じよう、まるでそこに彼女がいないかのように、身震い一つせずに、軽いステップを確かに踏んでいく。
そして彼女の目の前に来た瞬間、僕は一瞬にして彼女の背後に回った。
「なに、それっ...!?」
爆発的なスピードの上昇により、レイナはその変化にはついていけず、僕を見失った。
あたりをきょろきょとしているレイナの背後から、僕は彼女の肩に手を置いて、スキルを発動した。
「さあ、第二ラウンドと行こうか」
「っ...!!」
僕の態度が気に入らなかった彼女は、怒りをあらわにし、ぶんっ...!と腕を振った。しかし腕を空を切ってしまう。
次に僕が現れたのは彼女の目の前。またもや僕は彼女の肩に手を置き、諭すように挑発する。
「さっきまで調子に乗っていたくせに、僕が本気を出せばこんなもんか」
「あんたこそ、さっきまでひぃひぃ言ってたくせにっ......!!」
ついに頭に来た彼女は、数々の攻撃を繰り出してきた。火球。氷塊。雷鳴。そして透明化。彼女はありとあらゆるものを出してきたが、それすらもことごとくよけ、そして彼女の肩に触れては時スキルを使用した。
それにしても、遅いなぁ....。
彼女が攻撃に転じて発動するまでの間は、本来なら1秒にも満たないほど早い。しかし、僕の場合は違う。
極限の集中と時スキル。そして流速の使用により、その間約1分ほどにまで遅れて見えていた。
「くそっ...!!これなら、どうよ........!!」
ついに息を荒げ疲れを見せた彼女は、掌を空へ上げ、何かを発動しようとした。
しかし、それが発動することはなかった。彼女は驚き、そして焦りだした。
「なんで、どうしてっ!?」
「教えてあげるよ」
慌てふためく彼女に、僕はにやりと笑って答えを言った。
「君は僕のスキルを、無効化だと信じていた。それが敗因さ。僕のスキルは『時』スキル。触れた対象の状態を巻き戻すことなんて、難しいことじゃあない」
「まさか....あなた.......」
「そう」
僕は一瞬にして彼女の元へ接近していき、剣で彼女を攻撃した。
僕のスピードに彼女はついていけず、まんまと攻撃を食らった彼女。僕が攻撃した方向には、壁に埋もれる彼女の姿があった。
「僕は君の状態を、僕たちと出会った瞬間にまで戻したのさ」
最後まで読んでくださりありがとうございます!執筆速度は遅いですが、これからもこのシリーズを続けていこうともいますのでブックマークをして待っていただけると嬉しいです。
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