第六十三話 タイムリープ
直後、僕の体は謎の浮遊感に支配された。
空間は原形をとどめておらず、四方八方、あらゆるものがゆがんでいる。そのせいで、僕の平衡感覚はいともたやすく狂った。
しかしその中にあって、確かなことがあった。
そう。過去に戻っているという事実である。
その時、僕の脳内に記憶が流れる。
それはレイナがイヴとユイガを殺す瞬間。それに続いて、僕たちが分かれてレイナを捜索しよう。と言い出すまで、僕が感じ、見てきたものだった。
その最後に、僕は手を伸ばした。
すると目の前が次第に白くなってきて、やがて意識を完全に失った。
「おーい。アドレー」
ユイガの言葉で、僕ははっ。と我に返った。
みんなは?
その気持ちでいっぱいで、僕は周りを見渡した。
「急になんだよ。ぼーっとしちゃってさ。何かあったんなら、俺が話聞いてやるぜ?」
「そうよ。私だって、あなたが落ち込んでると悲しいんだから」
「大丈夫!僕がいるよ!」
しかしいくら見渡しても、あの光景はない。代わりにあるのは、僕の仲間。大切な3人の仲間の、元気な姿だけであった。
過去に、これたんだ。
そう実感すると、思わず涙が零れ落ちた。
「おい本当に大丈夫か!?なんなら、今日はいかなかくたっていいんだぞ!?」
「ううん。大丈夫だから。だから、行こう」
絶対に止めて見せる。みんなを死なせないためにも。
その強い思いを胸に、僕は拳を強く握りしめた。
「それで、みんなで分断して探したほうがいいんだよね?それなら、僕がテラスティア宮殿の反対側に行くよ」
「いや。そっちには僕一人で行く」
真剣な顔で自身の行く方向を指さす要に、僕は鬼気迫った顔で言った。
「わ、わかった。それじゃあイヴはどうしようか。アドレは一人で行くって言ってるし、イヴちゃんは僕と一緒に行こうか」
「....わかったわ」
むすっとしながら、彼女は答えた。
よし。まずはこれで様子を見よう。と、僕は決めていた。
レイナと一度対峙した身だからわかる。彼女は、僕とであった当初よりも格段に強くなっていた。それはなぜかはわからない。ただ、いちいち隠れて人を殺していたということに、何か意味があるように、僕は思った。
きっと、彼女はユイガとイヴを殺したあの日までは、姿を現さないだろう。
そんな自信が、僕にはあった。
だからこそ、彼女の犯行手口を逆手に取るのだ。
まず第一に、彼女は夜。そして人気のない細道に現れる。そして第二に、別人に化けていた。つまりは、夜、細道を歩いていれば、彼女は現れるということである。
それも、レイナではなく、別人として。
「それじゃあ、僕は先に行ってるよ」
そういって、返事を待たずして僕はその場を去った。
しかし彼女は一向に出る気配などない。故に僕は、近くにあった店に立ち寄ってみては、商品を眺めたりなど、そのような暇つぶしをしていた。
そして夜。ついに事の時が来たかと、僕は腰を上げて細道に入った。
細道というのは、やはり人が少ない。今現在まで僕が見渡していた限りでも、多くて4人。少なくて0人である。
つまり、ここは彼女にとって絶好の場所なのである。
「あのーすいません。テラスティア宮殿はどっちにありますかな?」
僕が細道を徘徊していた時だった。一人の老人が、僕に道を尋ねてきた。
老人は服も体もボロボロなようで、ろくに体が動かせそうにない。証拠に、古びた気の杖を支えに立っていた。
僕ははぁ。とため息をついて、テラスティア宮殿の方角を教えた。
「あっちに行くと、テラスティア宮殿に行けますよ」
「ありがとう。お礼に、これを上げます」
「え?お礼なんて、いらないですよ」
そういって拒んでみるが、老人はいえいえ。と言ってこちらに歩み寄ってくる。
なんども歩み寄ってくる老人にあきらめ、僕はそれじゃあ、お言葉に甘えて。といった。
「それじゃあ......」
明らかに近い。
僕と老人との距離は、目と鼻の先であった。
あまりの距離感覚に驚きながらも、僕は老人のほうをじっと見つめる。
「死んで頂戴....!!」
「っ....!!」
間一髪のところで、老人が振りかざしたナイフを回避することに成功した。
警戒しといてよかった。と、胸の奥底で安堵する。
「どうしてわかったの...?」
そういった老人の姿は、見る見るうちに見覚えのある姿へと変貌する。
そこに現れたのは、もちろんレイナであった。
彼女は驚きながらも、口角を上げていた。
「君が変装していた姿の老人は、足腰が不自由そうだった。それなのに、どうして杖に頼った歩き方をしないのだろうと疑問に思ってさ。もしかしたら、連続殺人を犯しているのは、変装している人間じゃないかなって。そう思っただけさ」
実際は、イヴとユイガが殺されたとき、レイナが変装していたことを知っていたからではあるが。
それっぽいことを言って、自分が過去から来たということを知られずに済んだ。
「せっかくここまで来たんだ。全力でかかってこい...!!」
静かに、僕は剣を構えたのであった。
最後まで読んでくださりありがとうございます!執筆速度は遅いですが、これからもこのシリーズを続けていこうともいますのでブックマークをして待っていただけると嬉しいです。
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