第五十八話 治安がいい国
しばらく歩いて、僕たちはようやく街中へたどり着くことができた。
街はとても賑やかで、子供と手をつなぐ両親や武器を求めて武器屋で剣を拝借する冒険者など、様々な人たちであふれかえっていた。それも、まともに街道を歩けないほどに。
「ここ、人が多すぎやしねぇか?」
ユイガが苦しそうにしながら、人々をかき分けながら進んでいく。それに続いて僕らも進んでいく。なんども人にあたっては謝っての繰り返しであったが、そんな時、一人の少女が勢いよく僕らにぶつかった。
彼女はきゃっ!という小さい悲鳴を上げ、僕らにごめんなさい!といった。しかし謝る間もどこかへ行こうとしている。よほど急いでいるように見えた僕は、彼女に声をかけた。
「ねぇ君。そんなに急いでどうかしたの?」
そう言っても、彼女はその足を止めない。彼女は路地裏に向かて走っていき、次第に彼女の姿は小さくなっていく。必死に逃げている彼女をほうっておけなくなった僕は、彼女に追いつくと、がっしりと強く彼女の腕をつかんだ。
「何するんですか!」
「何があったのか教えてほしい。困っているなら、僕に助けさせてくれ」
僕が説得している間も、彼女は必死に腕を振りほどこうとする。しかし僕の握力の強さに抵抗できないと分かったからか、はぁとため息をついて力を抜いた。
「私...」
「見つけたぞ!」
彼女が何かを話そうとした時だった。大柄な大男三人のうちの一人が声を上げたかと思うと、僕らを取り囲んだ。狭い通路だということもあるが、ここから脱出する方法は一つしかなかった。
「そのガキを渡せ。さもなくば、お前たちも殺す」
そういう男の目は血眼であった。男は拳を強く握り、持っていた剣を僕らに突き立てた。
「どうして?この子が何かしたようには思えないけど」
「こいつはな、俺の息子を殺したんだ!だから殺す!当たり前のことだろ!?」
その男は迫真であり、うそはついていないように思える。しかし後ろを振り返って彼女を見てみれば、恐怖で震えている。それどころか、瞳を揺らしながら目を見開いていた。僕には、男のほうがよっぽど悪いように思えた。
「確かに殺されたら、僕だって怒る。だけど、復讐は何も生まないよ。そんなことをするくらいなら、僕だったら真面目に働いてるさ。君みたいな馬鹿とは違ってね!」
「てめぇ...!お前ら!ここにいる奴ら全員殺せ!!!」
そういった瞬間、二人の男が僕らに襲い掛かってきた。
「ユイガ、要。君たちはそっちを頼む。僕はこいつをやる」
僕は静かに剣をとり、構える。突進してくる男が持つ斧の形状を速やかに分析し、一瞬で間合いを詰めて一撃でノックアウトする。幸い持ち手で突いた程度だったので、軽い傷を負って気絶した程度だった。その時にはユイガたちも終わっていたようで、次の瞬間にはもう、立っていたのは先ほどの男たちを使役していた男のみであった。
「お、覚えてろよっ...!!」
僕たちの動きを見て恐怖を覚えたのか、男は走って人ごみに紛れて、そして消えた。
一つの戦いが終わり、僕らは肩の力を抜いた。
「それで、どうしてあの男たちに追われてたんだ?」
僕がそういうと、彼女はひどく後悔したような顔で、言った。
「私......人を殺したんです。それも、さっきの男の息子さんを」
「それはどうして?」
「私の家族は貧しくて、だから私も働かなくちゃいけなかったんです。働いていた職場のトップが、その息子さんです。部下にも優しい職場だと周りからは言われていましたが、私には横暴な態度をとっていました。それもそうですよね。私は貧乏ですから......。何度も何度もそういう日を過ごしていたら、もう嫌になってきてしまって。それで.....。仕方が、なかったんです....」
そういって、彼女は膝から崩れ落ちた。彼女は目じりに涙をため、泣かないようにと目をぱちぱちしていた。
これは、どっちが悪いんだろうか。
そんなことを、静かに思った。
「お前はどうしたい?」
その時、ユイガが彼女にそう言った。彼女はえ?と声を漏らし、ユイガのほうを見る。ユイガははぁ。とため息を漏らして、そして彼女の肩に触れ、そして諭すようにこう言った。
「過去がどうであったかより、今どうしたいかを考えろ。お前はどうしたいんだ?もう二度と追われないようにあの男を殺すのか?それともまっとうに生きるのか?」
彼女はユイガにそう聞かれると、彼女はこぶしを握り締め、そして走り出した。
「おい、どこ行く!?」
ユイガがそう大声を上げ、彼女を引き留めようとする。しかし彼女は止めらず、走り続ける。そして人ごみに紛れる直前、彼女はこちらを向いて、にっこりと笑った。
「私は、二度とこんな思いをみんなにしてほしくない!」
そうして、彼女は人ごみに紛れていった。
「あいつ、なんだったんだろうなぁ」
ユイガがあっけにとられながらいう。
そういえば、名前おきくの忘れてたな。
と、彼とは反対に、のんきに考えていた。
その日、僕たちは宿屋に泊まることにした。宿屋の受付嬢から聞いた話だが、この国は治安が良いと定評を受けている国らしい。それ故に人口が多くて、快適な国づくりとしようと、領地を広げようとしていると聞いた。
治安がいい。か。
その言葉を思い出して、あの時のことが脳裏をよぎる。あれを見てしまったからには、僕はこの国が治安がいい国とは思えなかった。
眠りにつき、僕はまた夢を見た。
最後まで読んでくださりありがとうございます!執筆速度は遅いですが、これからもこのシリーズを続けていこうともいますのでブックマークをして待っていただけると嬉しいです。
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