第五十一話 天才で落ちこぼれ
あれからどれほど攻撃を食らっただろうか。僕では数えきれないほど打撃を叩き込まれ、衝撃によってできた壁穴の中心に、僕は座り込んでいた。しかしグレイヴは攻撃をやめるつもりはないらしく、満身創痍な僕に何度も蹴りや拳を振りかぶる。
次第に意識は薄れていき、壁穴は深くなっていく。普段ならここで俺に交代するところだが、とても交代する気にはなれなかった。
僕はいつも、俺に甘えているのだ。何かあっても俺がいるから大丈夫。そう思ってしまっているからこそ、死ぬ気で何かをしようと思わなくなった。だからこそ、ここでその甘えを断ち切るのだ。
何とか立ち上がる。膝はがくがくと笑って、まともにグレイヴを見ることすらままならない。それでも、確かに剣を構える。
「その根気強さ、称賛に値する。私の名はグレイヴ。アルベルト王の側近にして、レベル9の元冒険者だ」
そういって、グレイヴは簡潔に自己紹介を終えると、ついに背中にあるさやに納めていた大剣を取り出して、構えた。
直後、大きな金切り音が鳴ると、僕とグレイヴは剣を交えていた。しかし拮抗したと思ったのもつかの間。グレイヴは大剣を大きく振ると、僕をなぎ倒した。その後何度も剣を交えるが、僕の攻撃は一向にあたる気配を見せず、ただただダメージが僕に蓄積する。
そしてついに、僕は膝をついてしまった。
しまった...!
何とか体勢を立て直さないと。と慌てて起き上がろうとするが、僕の下半身は電源がショートしたように動かない。
「よくぞここまで耐えた。やはりお前は強者であり戦士だと認めよう。生まれ変わったら、またどこかで会おう」
そうして、グレイヴは大剣を僕めがけて振り下ろす。その刃が僕の脳天に接触するまでの間、僕はひどく後悔していた。友であるルベルトの約束を守れなかったこと。何一つ役立てなかった僕に。そして...
「アドレーーー!!!」
そして...
やっぱり『俺』のことを頼ってしまう僕自身を。
大声で叫ぶルベルトを安心させるかのように、俺はその男の大剣をやすやすと止めていた。その時、グレイヴはやや目を見開かせ、こちらを凝視していた。
「お前、何者だ」
彼はバックステップで距離をとると、怪訝そうな目でこちらを見ながら、大剣を今一度構えた。俺はその反応ににやりと笑いつつ、コツコツと王室に音を響かせ、グレイヴに向かって歩いていく。
「俺はエディタ・アドレ。レベル4の冒険者だ」
「やはりお前は先ほどとは別人のようだ。一人称も、態度も。まるで格下と話すような口ぶりだ」
「おいおい」
俺は薄ら笑いを浮かべて、懐にしまっていたナイフを取り出す。そしてそれを、グレイヴに刺すかのように構える。
「まるで。じゃない。俺は格下と話しているんだ。このぐらいの態度をとって当然だろう」
「ずいぶんとまぁ傲慢だな。俺はお前を戦士として認めることはできなさそうだ」
グレイヴは静かに大剣の持ち手を強く握った。その手には、確かな怒りが込められているような気がした。
「別に、格下のやつに戦士と認められようが認められまいが、俺には関係ない。それに、俺は戦士じゃない。風魔法しか使えないただの魔法使いさ」
直後、どすっ。というあまり聞きたくない音が響き渡る。俺は、グレイヴの腹を膝でけっていた。グレイヴは嗚咽を漏らし、うぅ。とうめき声をあげた。
「たった一撃でこれか。レベル9もこんなものなら、俺は一体どのレベルに分類されるんだろうか」
「先ほどから、口が絶えないやつだ」
崩れた壁のがれきから、グレイヴはなんともなかったかのように起き上がった。しかしその割には先ほどのがれき崩れでできたであろう傷はまだ残っていた。
はったりか。それまたスキルか。どちらにせよ、俺はこいつを倒せばいい。
「いいことを教えてやろう。俺のスキルは『無』。無視だ。俺は痛覚を感じる神経の信号を無視して、痛みを感じないようにしている。つまり、俺の体に限界が来ない限りは、俺は常に全開で戦えるというわけだ。そして...」
俺がナイフを振りかざした時だった。俺のナイフはグレイヴの頭をすり抜けた。それに反応するように、ズシリと、彼の拳が俺の腹に入っていた。思わずうっ。と、苦しさで声を出す。
「お前のナイフさえも無視できる」
俺はそのまま距離をとるが、弱点はおおよそ理解できていた。しかし、相手も実力者。その弱点すら克服できている。それ故に、今の俺の身体能力では彼に勝てないと、そう確信した。
なら........。
次の瞬間、俺は頭にではなく体に手を当てた。そして「発動」。というと、俺の体は光に包まれた。その光の強さに、この場にいる全員が目をつぶる。
しばらくしてその光が収まったかと思えば、グレイヴの前には全く別人の姿をした俺がいた。なにせ、先ほどとは対照的な色合い。黒い髪は白髪へ変わり、青空のような瞳は、まるで血だまりをほうふつとさせる赤黒い瞳に変わっていた。
「さぁ、第二ラウンドといこうぜ」
直後、俺はグレイヴにナイフを突き刺した。と思ったが、そのナイフは空を切る。直後、グレイヴの左拳が来る。
「フン」
俺は待ってましたかと言わんばかりに、今一度グレイヴの胸にナイフを刺す。すると、確かな感触とともに、グレイヴの胸部からは血が流れ落ちた。
「お前、何をした!?」
その表情は絶望に満ちており、目を見開いてガタガタと歯を小刻みに揺らしている。その姿を見て俺は笑い、そしてナイフを抜いて言った。
「お前の無視はずっとじゃない。無視し続けていれば、お前も攻撃はできない。じゃあつまりは、お前が無視を解く瞬間があるということだ。その隙を、俺は狙っただけだ」
「だとしてもだ。俺が無視を解除するのはほんの一瞬のはずだ。なぜそんな芸当ができる!?」
「それを、お前に教える必要があるか?」
俺の言葉に反論できなかったようで、グレイヴはその場で黙った。すると見る見るうちにグレイヴの目からは光が消えていく。心配する王たちに、扉の前で、俺は背中を向けたまま言った。
「大丈夫だ。致命傷は避けてある。そしてルベルト。あとは頑張れよ」
手を振ろうとしたその時、ざしゅ。と僕の耳元でそう言ったような音が聞こえた。目を見開いて、ゆっくりと視線を落とす。すると、僕の胸部から大剣の刃らしきものが飛び出していた。
「すまない。私はありとあらゆる手を使ってでもお前に勝たねばならんのだ」
そういって大剣を一気に引き抜くとともに、赤い鮮血が飛散する。しかし俺は倒れない。それにあいていた傷はなぜかふさがっており、まるで何事もなかったかのようにこちらへ振り向いて見せた。
最後まで読んでくださりありがとうございます!執筆速度は遅いですが、これからもこのシリーズを続けていこうともいますのでブックマークをして待っていただけると嬉しいです。
これからもこのシリー、ズをよろしくお願いします!




