第四十六話 俺の記憶 其の二
その日、僕は夢を見る。僕に似た誰かになって、いろんな人と戦う夢。
そして今日も、その夢の一部を見ることになる。
「ユイガ、君はカナの相手をしてくれ。僕はレイナの相手をする」
「一応言っとくけど、レイナは俺たち二人でかかっても勝てないような相手だ。ミスって死ぬんじゃねぇぞ」
「もちろんさ」
ユイガと僕は、レイナと言われていた彼女の前で別れると、僕は思い切り彼女の頬を殴った。しかし、それも一瞬で癒えてしまった。
「回復魔法か」
「そうよ。知っているのに攻撃してくるなんて、あなた馬鹿なの?」
「正解。僕は馬鹿だ。だから、何度だって攻撃する!」
そういうと僕は彼女に近づいたかと思えば、何度も攻撃した。何度も、何度も。しかし傷はことごとく癒えていく。それでも僕は攻撃した。その時が来るまで。
そしてしばらくして、彼女の回復魔法のペースが落ち始めた。そう。彼女は魔力切れを起こし始めたのだ。
これが、僕の作戦だった。彼女の魔力を根こそぎ持っていく。いくら天才であろうと、魔力が切れかかった状態では勝てるはずがなかった。
「僕の、勝ちだ」
そのまま剣の柄を当てようとした瞬間だった。地面が揺れ始め、あたりは騒ぎ始める。ふと上を見ると、そこには、フードで正体を隠した三つの影がいた。
一人が前に出る。すると何を思ったのか、突然火球を生成してそれを振り下ろした。突然のことで困惑してしまったが、風魔法をフルに使ってその場から離れた。
直後、大きな爆発音とともに、先ほど僕たちがいた場所には大きな穴が開いていた。
「大丈夫か。お前たち」
後ろから聞きなれた声がした。そこに視線を飛ばすと、そこには先生がいた。
先生?
目の前の状況に目を疑う。なんせそこにいた先生というのは、正真正銘の僕の父、エディタ・グイドであったから。
「俺の過去を覗いたんだな」
瞼を閉じて目を開けた瞬間、僕は先ほどの空間ではなく、別の空間に来ていた。しかしこの場所のことはよく知っている。
「そうだよ」
「少し疑問に思ったことがあるだろう」
そう言われた瞬間、僕の脳内に先ほどの光景がフラッシュバックする。大丈夫か。と心配する先生。もとい父。
なぜ父のことを先生と呼んでいたのか、それが唯一の疑問点だった。
「なんで、父のことを先生と呼んでたんだ?」
「ああ。それは俺がそのころ、幼少期の記憶をなくしてしまっていてな。親父と俺は幼少期のころにあって以来あったことがなかったから、記憶をなくした俺にとって、あの時は親父としてじゃなくて、先生としてみていたんだろうな」
幼少期の記憶をなくした。か。
僕は体験したことはないけれど、それがつらいことだということは僕にもわかる。それに父の記憶もなくして、父からすればそれ以上に苦しかっただろう。
そう思うと、僕は気づけば彼を慈悲深い目で見つめていた。
「何変な目で見ている。まさか俺に同情しているのか?同情はやめてくれ。別に苦しかったわけではないしな。それに...」
話している最中、彼は何かを思い出すと、フッ。と笑った。
「記憶をなくしていなければ、俺はあいつらとも出会わなかったわけだしな。だから、そう悪いことじゃないんだ。いいかアドレ。悪い出来事があっても、それで終わらせちゃいけない。いつかいい出来事につながることがあるから。だから、進むんだ。進んで進んで、進んで。転んでもあきらめきれなかった馬鹿たちが、そうやって幸せをつかんでいくんだ」
そこで、僕は目を覚ました。なんともない、普通の朝。しかし少し早く起きたせいか、窓から日を覗いてみると、日はいまだに上り切っていなかった。
その時、手の甲に一滴のしずくが垂れ落ちた。涙袋から顎までがやけに涼しく感じた。その時僕は、これは単なる雨水ではなく涙だということに気が付いた。
「なんで、僕は涙を流してるんだ?」
わけがわからぬまま、僕はただ茫然と手を眺め続けていた。
そして時を同じくして、グイドは馬小屋で目を覚ました。やはり幾度となく冒険をしてきたせいか、寝起きには強く、けだるい様子を見せることなくそのまま朝の市に歩いていく。
「世界は、変わったんだな」
彼の横を通り過ぎていく人々はみんな笑顔で、そこに悪意なんてなかった。あの時とは大違いだ。と思いながら、嬉しさで口角が上がる。
俺が救ったんだ。
確かな実感を持ちながら、彼は歩いていく。
しかし。と、彼は先日のことを思い返す。もちろん最初に思い浮かんできたのは、息子であって息子じゃない誰かのことであった。
確かにあれはエディタ・アドレだ。だけど、アドレじゃない。戦い方も、口調も、一人称も。なら、あいつは一体誰なんだ?
見当もつかぬまま、しばらく歩いた末に、最終的に宿屋の前にまで戻ってきていた。その時には日はすっかり上っており、人もまた多くなってきていた。
「ちょっと、まだ食べてる途中じゃないの!まだ食べ足りないのにぃーー!」
「別にいいだろイヴ。資産も問題ないわけだし、それに今は買い出しだ。お前のわがままに付き合ってる暇はない!」
「もぉー、ユイガのせっかち!」
「誰がせっかちだ」
そんなとき、宿屋の入り口から騒がしい声が聞こえた。姿は見えずとも、その特徴的なやり取りから、誰かわかってしまう。
アドレ、お前は仲間に恵まれたな。
「お、アドレのお父さん!この前言ってた、冒険してたときによく作ってた料理の材料を買っておきたくて。手伝ってくれません?」
「もちろんいいぞ。それじゃあユイガ。俺と一緒についてこい」
市とは間反対の方向に手を伸ばす。するとユイガは、その手をゆっくりと取った。
「じゃあ私もついてく!」
「あんま足手まといになんなよ?ただでさえめんどくさいんだから」
「はぁ!?めんどくさいって何よ!こっちは良かれと思って尽くしてあげてるのに!!」
朝からそんな軽口が飛び交う。ユイガとイヴの話している姿を見ると、昔こうやって冒険していたのを、彼は思い出した。
そういえば。と、何かに気が付いたようにイヴがユイガに話しかける。
「アドレはどうしたの?」
「ああ。あいつは今修行してるってさ」
最後まで読んでくださりありがとうございます!執筆速度は遅いですが、これからもこのシリーズを続けていこうともいますので、ブックマークをして待っていただけると嬉しいです。
これからもこのシリーズをよろしくお願いします!




