第十八話 準備と別れ
信じられなかった。俺ことハイム・ブロウラーは、その少年をただただ見つめることしかできなかった。
あの時、俺は確実にスキルを使用して未来や過去。ありとあらゆる物を観た。どれもこれもあり得そうな話ばかりだった。だが、ただ一つだけ納得できないものがあった。それが、あいつの過去と未来だ。あいつは、隣にいた少年が何度も死んだ光景を見た。
見たはずだ。なのに、それに値するものがない。それすなわち、誰かの「死」を体験したことがないということである。
更に、あいつの未来は散々だった。俺は知っている。これからあいつがどうなっていくのか。とはいえ、あいつは少年の意志に背くことできないから、大丈夫であろう。
きっと、うまくいく。少年らよ、頑張ってくれ。
いつもと変わらないホテルの天井。いつもと変わらずに杖ばっか見ているポンコツ聖女。いつもと変わらずにユイガは買い出しに行っている。
しかし、エナがいない事に僕は気付いた。すぐさま起き上がり、エナを探しに行く。
ホテルから出ようとした時だった。ロビーから、少し俯いたエナが歩いてきていた。僕はエナの下へと走っていく。
「心配したよ。どこいってたの?」
「アドレ。お前に、いや、お前たちに言いたいことがあるんだ。」
すると、彼女はとんでもないことを言い始める。
「私は、ここでお前たちと別れること日しようと思う。理由は、聞かないでくれ。」
意味が、わからなかった。僕はなんでと聞きたくなる。理由がないと、認めたくないから。
だけど、言えない。だからこそ、僕は口をつぐみ、僕たちの部屋に向かう彼女の背中姿を追いながら、ついていくしかなかったのだった。
それからは、いろいろなことがあった。ユイガとイヴがエナとの別れでエナ本人に追及したこと。エナが、切なそうにしながらも、明るい声でごめんと一言だけ言ったこと。僕が、その争いを仲裁したこと。みんなと一緒に過ごせる、最後の1日を過ごしたこと。僕がよく寝付けずに、沢山の涙を流しながら体力がなくなって眠ったこと。
そのどれもこれもが楽しくて、嬉しくて、悲しかった。そして、そんな楽しい生活も終わる。そう、今日を以てして、エナとはお別れである。最後の最後までスキルを教えてくれなかった彼女は、最後の最後まで笑顔を貫き通そうとしていた。
僕達はこの国の出口で、皆からの別れの言葉を聞くことにした。
聴いた感謝の声。その中でも多かったのが、あのおっさんを退治してくれたことだ。食べ物やお金など渡そうとする人もいたが、断っていた。イヴは不満そうだったけど。
これで終わり。そう思った時だった。ある一人の女性が僕たちに向かって歩いてきていた。
その女性は僕達がよく知っている人物で。冒険者ギルドに入会させてくれた恩人でもあった。
恩人は僕たちの目の前に来て、ニッコリと微笑んだ。そして、彼女はこんな事を言い始めた。
「私がお前たちと別れようと思った理由を話してもいいか?」
と。
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