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ハンカチ落とし

作者: 言折双二

 後書きにちょっとしたことを書いています。

 面白そうだと思ったら、やってみてください。

「というわけで、これがテストさ」

 そういって天守先輩はビニールの証拠袋を取り出した。

 中には白い布が入っていた。渡される。

「まぁ、これが落とし物というていで持ち主を見つける、と、ウチの入部試験『ハンカチ落とし』さ」



「ルールをもう少し詰めるとこのハンカチの持ち主はこの時点でまだ学校の中にいるし、これはあくまでも落とし物と考えて欲しい。そして、試験でしかない。『これは貴方の物です』と言えるのは一回だけ。……まぁ、聞き込んだり脚で稼いだりするのは刑事の仕事だよね、竹守君」

 うん? と挑発するように俺をみる天守先輩。

 天守雨理――探偵倶楽部・三代目部長だ。入部試験――この学校で唯一、探偵倶楽部のみに存在している部活に入るためのテストであり、今、倶楽部に所属している部員達は皆この試験に合格しているという。

 テストの制作者は九十九フラン、ウチの学校のOGであり、『探偵倶楽部創設者』兼『初代部長』、そして、今は日本で唯一の捜査権を有した民間機関『ゆるさわ』所属の探偵という人物だ。

 ウチの学校は五年前に出来たところだから、年齢でいうとさほど離れていないはずなのだが、しっかりと社会人をしている人というのは高校生の自分から見るとずいぶんと大人に見える。

――まぁ、要するに自分、竹守丈は探偵倶楽部の入部希望者なのだが。

「ま、『ハンカチ落とし』だからね。ハンカチを落とした鬼が後ろに回ったらアウトさ」

「鬼?」

「神岡澪、顧問の先生だよ。……鬼って言っても便宜的なもんでね、下校時刻十分前に部室の鍵を閉めに来てくれるからそれまでにハンカチを落とした人を見つけておくれ、ってことさ」

 神岡先生は美術の先生であり、俺のクラスの担任でもある。ウチの高校が出来た年に教師になったという若い先生だ。

 顧問と言うことは九十九フランとも親しかったのだろう。

「試験は試験だからねー、答えが合ってるかどうか、と同じくらい解法が美しいかどうかも採点対象だよ。つまりは、みっともない真似すんなよーってこと」

 そんじゃあ頑張って、と言って天守先輩は単行本に視線を落とした。



「で? 丈君は何をしてるのかな?」

 一旦教室に戻ったところ、教室前の廊下で幼馴染みの少女に出会った。

 一川小子。腐れ縁の幼馴染みはクラブ見学期間の前に美術部に入ることに決めていた様だが、入部手続きが取れる初日の今日は美術部が休みだそうだ。

 一週間に三回、火木金と活動しているのだが、本日週明け月曜日はやっていない。

「何って、テストだ」

 そういって俺は証拠袋を掲げる。ちなみに解法の採点のために見張られているらしいが視線は感じない。

「てすと……?」

 小子は首を傾げる。――まぁ、確かに、入学して直ぐに何のテストかと、しかも、ハンカチを突き出されても何のことだかわかるまい。

 時間は無限でないと解っているけれど、幼馴染みを無下にすることもできない。

「探偵倶楽部は入部試験がある、と聞いていたけど。筆記試験じゃないらしい」

「そうなんだ~」

 それで? と小子は首を傾げる。

「ま、簡単に言うとこのハンカチの持ち主を捜し出してその人に返す――ってのが、テストらしい」

「なるほどぉ」

 小子は一度頷くが、またしても首を傾げ。

「遺失物係の仕事だよねぇ」

 と、不思議そうな口調でやる気の萎えそうなことを言う。

「手伝おうか?」

 小子は多分、心のそこからの親切でそう聞いてくれた。

 ――さて?



 テストを人に手伝って貰っては駄目だろうということで小子の協力の申し出を断ったのだけれど。

「誰なのかなぁ」

 付いてきた。面白がっているのだろうか?

 表情は真面目そうに見えるが油断してはいけない。時として天然は凶器だ。――あるいは狂気。

 付いてくるなら真剣にして欲しいなぁと、思ったとき。

 小子は笑顔で振り向いた。

「あ、そういえば丈君、今日はおじさんとおばさんと居ないということで晩ご飯作りますけど、何がいいですか?」

――真剣なんだけどなぁ!

「……じゃあ、かに玉で」

 俺弱っ!

 小子はくすくすと笑う。

「蟹は缶詰でいいですよね。卵はありますか?」

 蟹。小子はカニカマが嫌いらしい。美味しいのになぁ。

 で、卵か。

「……あった、とおもう」

 少なくとも昨日の時点ではあった。

「他の材料は……まぁ、何でもいけますからね」

 タケノコ、椎茸、キクラゲ、ニラ、ぐらいだろうか。あとはわからないが、小子に任せておけば失敗はない……と思う。

 こうみえて、というのも失礼だが。小子の料理の腕前はうちの母親と比較しても遜色はない。

 珍しく心の中で褒めていたのに、小子は直ぐに話題を切り替えた。

「んー、それでどうやってハンカチの持ち主を捜すつもりですか?」

 話が戻ってきたので良しとしよう。

 だが、まぁ、協力しようかと言い出したわりに主体性の無い言葉だった。

「小子はどうしたら良いと思う?」

 彼女が協力するといった覚悟がどの程度なのかを見ようとしたのだが――曖昧な笑みと首の角度だけで答えやがった、考えてないだろう、こいつ。

「私は美術部志望ですから、探偵のお仕事なんて解りませんよぅ」

 何で付いてきた――と思いながら。

「あ、警察犬ですか?」

 何でだよ。

――いや、アイディアとしては悪くないのかもしれない。

 けれど。

「どこに居るんだよ、犬」

「私、嗅ぎましょうか?」

 犬か、犬なのか! 確かに、猫と比べれば犬っぽいが。

 だからといって感覚器官まで敏感になったりしたら、嗅覚が敏感な動物の進化の歴史が否定されるだろう。

 でも、まぁ、人間の歴史だって一進一退、成功と失敗の糾いだ。

「――試してみるか?」

 証拠袋を渡す。

 小子は忙しない様子で、その口を開けて中の匂いを嗅いだ。

「……」

 沈黙。沈黙がオレンジ掛かり始めた校舎の中に響く。

――残り時間はどれくらいかなぁ、教室に戻ったときは四十分はあったと思うけど。

 思考、沈黙を割るのは、小子が眼を瞑り鼻をひくひくと動かす音と呼吸音くらい。

「……これは、あれですね、女性の持ち物です」

「――そうか」

 結論はしごく簡単な物だった。

――うん、まぁ、そうなんだろうな。白い布とは言っても、表面に凹凸がある。繊維の肌理という訳ではなく、刺繍ほどの自己主張もない。

 縮れているという程度の緩い起伏。ただ、それは手を拭って出来たものではなくデザインを作っている。

 薔薇の形、だろうか。某百貨店の物よりも記号化が進んでいるが、気品や芸術性と言った物は損なわれていない。

 単純なデザインでありながら、他の植物ではなく薔薇であると一目で理解できる。

――これを男が持っているというのは、ちょっと嫌だ。

「あと、すっごい柔らかいですね」

「――?」

 さっき持ったときはそんなことは無かった、少し固いぐらいだった気がするが。そんな考えが表情に出ていたのだろう、ほら、と証拠袋が小子に突き出される。

「へぇ」

 受け取ると確かに柔らかい感触がある、それも普通のハンカチの柔らかさではない。手指を押して返すのは空気の柔らかさ。

――なるほど。真空パックか。

 繊維が柔らかいのは基本的には空気が入るからだ。布では少なくとも二次元に密である、綿……ぬいぐるみに入っている物は三次元に線が入っているだけなので布よりも柔らかい。

――この柔らかさは証拠袋を開かなければ気付かないという訳だ。

「なんだろうな」

「……? なにがですか?」

 疑問の呟きに小子は応じる。

「いや、柔らかいから」

「素材ですか?」

 言いたいことを察してくれる。

「タグなんかは付いてないみたいだしな」

 証拠袋ごと光に透かしてもタグの影は浮かない。

「シフォンって奴ですよ、多分」

「紅茶か?」

「――? 何をいってるですか?」

 シフォンって言えばシフォンケーキのシフォンじゃないのだろうか?

 話が通じない、と俺が思う。

 んー、と一瞬考えた小子は悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「それは違うですよ。『シフォンケーキ』のケーキの前についてるシフォンはそのケーキがシフォン――つまり、絹織物みたいに柔らかいからつけた名前であって日本語にすれば『絹のようなお菓子』という風になるです。紅茶のシフォンケーキは、おばさんの得意なお菓子でありますがあれは基本のレシピの水を紅茶に変えて香りを楽しむ物であって、ただのシフォンケーキは別に紅茶を使う決まりがあるわけではありません」

 ……自分の得意な分野になると饒舌だな。

「えーと、それじゃあ、絹、ってことか」

「そうですね、その中でも特に薄く作られた物、だとおもいますよ。手芸店でみたシフォンってこんな感じでしたから」

 それと、といって、小子は俺の手から証拠袋を奪い口を閉じた。

 そして、両手の平で押しつぶすようにして持つ。

――バストアップのポーズ、みたいな。

「何やってんの?」

「暖めてます」

「……なんで?」

「気化します」

 なにが、と思う間もなく小子は再び証拠袋を開いて鼻を突っ込む。

「――ん」

 小子の頬に赤みが差す。

「んぁ」


 艶めかしかった。



「……ニガヨモギ」

 袋から顔を上げた小子は何かを呟いた。

 ニガヨモギ、というとあれか。ノストラダムスの大予言。

「違います」

 違うらしかった。

「甘い匂いが一緒にします、砂糖の」

「ヨモギの匂いじゃなくて?」

 砂糖。

 ニガヨモギと砂糖というと……。

「ハブ、アブサンですね」

 蛇? 野球マンガ?

「ハブはカクテルの名前です。――アブサンはニガヨモギを中心にした数種類のハーブ、スパイスで作った薬草のお酒で、綺麗な緑色のお酒ですよ。水を入れると白くなりますが」

 知らないよ、そんな、マニアックな酒。

「美術部志望ですから」

 小子は薄い胸を張る。

「関係あるの?」

「――丈君は探偵志望のわりに雑学系の知識が不足してますね。ゴッホとか、詩人のヴェルレーヌとか、そういう人が愛好したお酒です。まぁ、昔としては安いお酒だったからというのもあるらしいですが」

「香水じゃないんだ」

 小子の後に匂いを嗅いだが何かの香水かと思った。

「香水を含ませた、とかじゃないと思う。多分、アブサンを入れたグラスの近くに置いてあったとか、一度、零した物を拭いて何度か洗濯したと……それぐらいで移った香りだと思うよ」

 それは詰まり。

「え、このハンカチの持ち主って、学生じゃない?」

「……それはどうでしょうか? というか、そこまで私が考えて良いんですか?」

「いや、良くないけど」

 ふうん、……。

「――? どこにいくんですか?」

「どっちからいこうかな……美術室で」



「――なるほどね」

「これが見たかったんですか?」

「そう、所詮は試験って事。しかも、『推理』の試験。幾つもの前提から確からしい結論を導き出せばいいってことだろ?」

「私に聞かれても困りますが」

 証拠能力などと言われても困る。科学分析が出来るわけでもない。

「まぁ、綱渡りみたいなもんだなある意味では。そして、直線、直接推理の積み重ね」

「?」

「要するに、『ハンカチ』→『香り』→『アブサン』→『ゴッホ』、『黄色絵の具』……『向日葵』ってな」

「んー、それは推理というよりも連想ゲームですよね」

「……そうだな」

 まぁ、そういうことだ。これはこれで正解だろう。

 試験問題としては、だ。



「で?」

 天守先輩は椅子に座ったままで視線を傾けてこちらをみた。

 単行本を閉じもしない。

「だから、このハンカチの落とし主は神岡先生ですよね」

「……理由は?」

「ハンカチの素材、香りから、女性と推測しました」

「それだけ?」

「アブサンの香りから大人かな、と」

 ふうん、と天守先輩は睨めあげる。

「まぁ、でも、大人の女性って一人じゃないよね? 先生にも二人いるし、生徒の中にもお酒を嗜んでる不届き者だっているかもしれないよね?」

「生徒はありえません」

 敢えて、強調して言う。

 天守先輩は、顎で続きを促す。

「ポイントは試験内容です」

 大事なのは、部員の様子だった。

 試験を経ているという自信。それが、あまりにも一様だった。

 誇っているとか、馬鹿にしているとか、それに対する扱いは上下するがそれは一点に向かっての評価の違いである。

――なにが言いたいのかと言えば、隣人に対する扱いだ。

 他の部員と違う試験内容ならそこに、軋轢とまでは言わなくても妙な空気が漂う物だが、探偵倶楽部にそれはない。

 しかも、普通なら今居る部員はこの様な試験に対して『面倒だ』という思いか『新入部員なんぞ落としてやろう』という意地の悪さのどちらかが表に出るものだがそれもない。

――恐らく、だが、事前情報の通りそうなのだ。

 探偵倶楽部の創始者にして初代部長、九十九フランによって作られた素人判別のための試験は、彼女自身の威光のせいで、変わることなく伝えられてしまったのだろう。

 誰もが同じ試験を受けているために、隣人との評価の諍いは起こらない。

――以上の事を伝えると、ようやく、面白がっているような表情になった。

「それでつまり?」

「あー、つまり。九十九先輩が入学した年に文化祭の事件と中間テストの事件があって、その結果二学期から入部希望者が増えて、入部試験を作らないといけなくなったとか。まぁ、この辺はウチの学校の『歴史』ですよね。で、それは三年前です」

 つまり、九十九フランが卒業していると言うことはその時からいるという生徒はいないはずなのだ。

 試験内容に変更が無く、生徒が居なくなっているのなら。

「持ち主は教師ってことでしょう」

 それと、もう一つ、この試験が『ハンカチ落とし』だというのなら……、


――ハンカチを落としたのは鬼に決まっている。


「……うん、ま。内容は合格だけど――」

 意味深い間をおいてから天守先輩は意地の悪い口調で問う。

「君としては今回ので合格することに何の罪悪感もないのかな?」

 痛いところを突いてくる。今回の試験は、たしかに、小子の知識と感覚が無ければ応えにたどり着けなかっただろう。

 アブサンなどという酒は知らなかったし、ゴッホがそれを愛飲していたことも知らなかった。マイナーな酒を飲むとしたら、そこには理由があるのだろうし、美術教師がこの『魔性の緑酒』(というらしいと小子に聞いた)を愛飲しているのは意味深すぎる。

 そんな諸々はやはり、小子の助言無くしては発見できなかっただろう。そうなれば、推理ではなく直感の域だ。

「――それは小子のことですか?」

「そうだよ。見させて貰ったし……聞かせて貰ったけど。彼女の助けが無ければここに至れなかっただろう?」

「そうですね」

 認めざるを得ない。

「つまり、君は『不合格』、なのかな?」

 当然のように不合格と言われても仕方がないのに。合格、不合格を告げる筈の天守先輩は何故か疑問型で聞いてくる。

「どうして、聞くんですか?」

「――え? 君以外の誰が決めるんだい?」

 天守先輩は不思議そうな顔をする。


 その時、部屋の奥から物音がした。


 入り口付近に立っていた俺には見えなかった場所。

 奥のソファーから一つの影が立ち上がった。

「おや、チーズどうしたのかな?」

 天守先輩が立ち上がった男子生徒に声を掛ける。

 背の高い男で、眼鏡を掛けている。

 体格に見合わないグラスの小さな眼鏡は待避として大柄さを際だたせている。

――チーズというと個人的にはマルタ島の犬だとか、パン工場の犬だとかが浮かぶのだけれど、その男の印象を犬で言うならドーベルマンタイプだった。

 小子はチワワだろうか? ――ヨークシャーという線もある。

「柄の悪い先輩が質の悪い後輩を虐めているようだったからな」

 グラス部分が小さめの銀縁眼鏡をくいっとあげながら、チーズと呼ばれた男はこちらをみる。

 そして、口を開く。

「新入部員。探偵に必要な第一は何だと思うかな?」

「……え? 冷静さとか」

 急に言われて適当な事を口にする。

「――どうだろうな、私も知らん」

――無責任だった。

「だが」

 と、男は続ける。

「明確には知らないが一つ、思っている候補がある」

「何ですか?」

「――それは判断力だ。決断力と言っても良い。自立と言い換えれば若干の語弊がある、解りやすくはなるが」

「――?」

「要するに責任だ。自分の能力不足に対する責任、自分の行為への責任、自分の存在への責任、自分の――自分に対する責任。それを人に預けない覚悟。それが最低条件だと思う」

 何が言いたいのかと思うと、男は笑った。

 ポジティブな感情から出たものにも、ネガティブな感情から出たものにも見えなかった。だが、透明な笑みというのにもほど遠い。

 靄の様な笑み、と言えば一番近いかもしれない。

 笑みではないのに笑みにしか見えない表情、と表現するのが最適なのかもしれない。

「補欠合格、という言葉を贈ろう。私は、……私たちは君の能力を探偵倶楽部に適した人間として保証『しない』、だが、しかし、君が探偵倶楽部に入部することを拒絶『しない』」

 冷たい目。

「それこそ、好きにすればいい。だが、自分で選んで自分で責任を取ってくれ、一人で失敗したら一人で死ね、一人で勝利したら一人で謳え。私たちは君のそれぞれに、気まぐれで涙し、気まぐれで拍手をする。――探偵倶楽部とは、そのような組織だ」

 仲良しこよしではない。呉越同舟というのとも違う。

 こんな物はそれこそ、ただの物理現象みたいなものだ。


 たまたま、同じ方に向かっているというだけのこと。


 怖い、と思った正直に。


 でも、この道なのだ、多分。


――俺の望むところへ至る最短は。



「で、どうだったの? 丈君」

 夕食の時間、かに玉は何故か蟹クリームコロッケになっていた。

 ホワイトソースの期限が切れかけていたらしい。

――缶詰なのに。

 ……まぁ、衣もさくさくしていて美味しいんだけど。

「あー、個性的な人達だった」

「丈君没個性だもんね」

 ――失礼な。

「あ、ところで私のヒントあってたの?」

「おう、大正解ばっかり。――で、なんで、アブサンなんて知ってたの?」

 家に帰ってからネットで調べて見たところ、アルコール度数が高くカクテルベースに使われることが多い酒らしい。

「――秘密」

 怪しさ爆発。

 だが、小子は直ぐに話題を変える。

「で、入ったの?」

「どこに?」

「探偵部以外の話はしてないよぅ」

 ――ん。

「ま、仮入部ってとこかな」

「補欠合格?」

「――ま、そんなとこかな」


 ふ、と鼻で笑われた。


 コノヤロウ。



「歴代最遅、か」

 銀縁眼鏡がぼそりと、言った。

「正解した中ではだけどね。――チーズは早かったよね」

 ち、とチーズと言われた男は舌打ちをする。

 彼の名前は望月地築、副部長である。

「俺は鼻がきくだけだ」

「だから、犬の名前なんだよ。フラン先輩の直々だしね」

 ちなみに彼は袋を開けて匂いを嗅いだ瞬間に言い当てた。

 記録としては数秒だ。

 体臭を嗅ぎ分けられるとのふれこみである、実証されたことはないが、彼が言ったことに反した結果がでたこともない。

「今年は今のところ二人かぁ、仲良くしてくれるといいんだけどなぁ」

 設立五年を通しても十一人目と十二人目である。挑戦者は五倍とも十倍とも言われている。

「俺はどっちでもいい。面倒が無ければな」

「チーズは怠惰だなぁ」

――どっちがだ、と彼は言い。

「私は、怠惰じゃないよ、真剣真摯勤勉に暇を食いつぶしているんだよ」

「――それを怠惰というのだろうと思うけどな」



「で、気に入ったのか、あの新入部員を」

「んん、どうかな、フラン先輩の逆をいくようなスペックだしね。けど、雑学なんて後から幾らでも詰め込めるし、そういう頭でっかちは要らないよ。独力で出来ることは自分で片付けたら良い、でも、重要なのは、自分の能力を超える事態があって、それでもその問題を解決しなきゃいけない時だよ」

 天守は自分の経験で語る。彼女にとっての探偵の理想。

「――ただ、あの子、多分面白いよ。本人は駄目なままだろうけどきっと色々と。駄目なわりにお腹の中に何を飼っている事やら」

「――お前の言うことはさっぱりわからん」

「うん、それでいいよチーズ。犬は主人を理解できなくても尽くす物だ」

「……」

「んー、どうしたチーズ、お手でもしてやろうか?」

「天守。飼い犬に手を噛まれるという言葉の意味を刻んでやろうか?」


 天守はそれでもくすくすとわらい、望月は眼を伏せ顔をしかめた。

 これまで短編では長編のキャラクターの前日譚や後日譚を書くとき以外は何か一つの単語をお題として話を作りました。


 それは傘や尾行やトレンチコートでした、今回はハンカチであり、次回はわら半紙だそうです。トレンチコートから先は友達に出して貰いましたがどうせなら読者様に出していただこうと思い至りました。


 もしよろしければ、感想を書いていただけたら嬉しいです。

 その時一言の欄に『』二重鉤括弧でお題として希望する単語を入れていただけると、お応えさせていただくかも知れません。


 この話に対しての感想を書いていただいた折りに頂戴したお題は、次の次、つまりわら半紙の次の短編のお題にさせていただきます。


 このような試み、ご不快と感じる方がおられましたら、どうぞ、それに付いても意見いただけるとありがたいです。不作法を行う者は自分でそれと気が付かない者が多くありますから。


 また、それに関して誠に勝手ながら制限を一つ。

1)二次創作はいたしません。他の作者様がお作りになられた人物を自分の文章で扱うには私の言葉では足りなく思います。

 次に制限ではございませんが、採用させていただく基準を。

2)政治、信条に関するお題は出来れば避けさせていただきます。

3)高度に専門的な用語についても、短い文章の中で十分に生かし切ることが出来るとは限りませんし、また、多くの方々に理解していただく事が難しくなるので避けることが多くなろうかと思います。

4)逆に、意味が広すぎたり、物語として広がり過ぎる物。『男』や『女』のような単語もうまく物語が描けないかも知れませんので避けさせていただくかも知れません。

5)ただし、2)~4)については、興味惹かれる単語ですと無謀にも挑戦するかもしれません。その時は笑ってやってください。

6)早い者勝ちにはしません。


 ちなみに、ここでの短編はおよそ20kb以下、一万文字以下を目安にしています。

 それでは、宜しくお願いします。

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