第七話「帰りの会は済ませたかい?」
翌日、私は朝食をいただいてからすぐに病院を退院するための準備を始めた。
本当は食後の休憩をしたかったのだが、それはできない。
なぜならただいま現在、死神がどこにもいないのだ。
そう、いない。見当たらないのだ。
ベットの下を見ても、窓の外を見ても、天井を見ても、部屋を舐めまわすように見ても、
どこにも死神の姿が見当たらない。
昨日病室に帰ってからすぐに、「用事がある」と言って出て行ったが
それ以来姿を見ていない。次の日の朝ぐらいには私を監視するためにも
帰ってきていると思っていたのに、見事に予想を裏切られた。
起きて最初は、昨日の出来事が夢だったのだと錯覚してぬか喜びした。
もうベットで三転倒立するくらいには喜んだ。
だけど朝なのに時間が午後5時くらいを指していた時計を見て絶望したね。
おかしいと思って棚の隙間を見ると乾電池があったんだもん。
最悪の気分だった、、、
昨日は現実、死神は事実、私の死は確実だってね。
、、、今のはちょっとうまかったな。
とまぁ、そんなバットモーニングを迎えて今に至る。
死神から逃げられるとしたら、今しかない。
おそらくまた見つかるだろうが何もしないよりはマシだ。
少しでも死神と距離を置く時間を増やしたい。
世話をしてくれた看護師さんやお医者さんにあいさつを挨拶なんかをしながら
着々と退院の準備を進めていった。
勿論、怪我をした当日に身に着けていた持ち物を返してもらったりもした。
詳しく言えば、ポケットがたくさん付いた黒色のショルダーバックだ。
見るからに装飾美ではなく機能美を追求したデザインをしている。
きっと記憶を無くす前の私は「可愛い」や「綺麗」なんかではなく、
「利便性や」や「実用性」を求めるリアリスト的な奴だったのだろう。
誰かが「このバックのリボンめっちゃ可愛くない?」なんて言っても
「それ使ってて邪魔じゃない?可愛さで飯は食えないよ」とか返すのだろう。
うわぁ、嫌だなそれ。私も気をつけようっと。(他人事)
そんなことは置いて、私のバックの中身について話そう。
まずは安定のスマートフォン。機種はリンゴの会社だ。
しかしパスワードが分からないため使えない。鉄のまな板である。
次に財布である。財布には小銭少々、お札が数枚でぱっと見て5000円ほど入っていた。
他には身分証明書になるマイナンバーカードなど、個人情報の書いてるものである。
私の個人情報はええっと、、、、
おおっと、個人情報は言えないよ。なんて言ったって個人情報だからね。
個人的な情報を他人に教えてはいけないってばぁちゃんから言われなかったかい?
、、、いや、この場合はお母さんからかな。それはどうでもいいな。
兎にも角にも、個人の個人的な個人のための個人情報なんてものは教えられない。
みんなも言わないように気を付けるんだぞ。
サービスとして教えられるのは私の誕生日は10月1日で、
私が16歳の女性であるということだけだ。
サービスだからな、感謝するんだぞ。
少し話が逸れたが、話を戻そう。
他に入っていたものは家の鍵、無地のハンカチ、ノック式のボールペン、それに手帳だ。
ここまで聞くとシンプルな中身であるといえる。
しかし、この中でおかしいものがあった。それは手帳だ。
手帳の表紙には「やりたいことリスト 22」と書かれている。
まだ中身は見ていないがおそらく将来に向けて何がやりたいのか書いてあるのだろう。
ほぉ、我ながら立派な心掛けだ。自分に尊敬の念を抱いてしまうかもしれない。
だが、もう一度考えてほしい。この手帳には「やりたいことリスト 22」と書かれている。
22。つまり、この手帳はおそらく22冊目の手帳なのだ。
これは過剰を通り越して異常だ。そんなに書くなんて明らかにおかしい。
手帳が異様に小さいわけでもない。手より一回りほど大きいサイズだ。
記憶を失う前の私は未来や将来にでも不安を抱いていたのか?だから不安を紛らわすためにこんなに何がしたいのかを書いたのか?
、、、心当たりがないわけでもない。
一番初めに思いついたのは昨日の時計だ。
あれを異常と言わずに他に何がある。
何らかの影響で私は時計恐怖症になったのだろうか?
あとは、お見舞いに誰も来なかったことだ。
どれだけボッチで友達がいなかろうとも、親くらい来るだろう。
親との仲が相当険悪なのか?それとも、、、、
考えても仕方がない。
死神に命を狙われる奴なんてろくでもない奴に決まっている。
そのくらい分かり切っていたことじゃないか。
自分がどんなに酷い奴なのか、楽しみにしておこう。
酷かろうが何であろうが前向きに生きるよ、私は。
ちなみに、この手帳は最初の1を見つけてから読もうと思う。話はちゃんと順序を守って読むべきだからね。
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退院するための準備が整った。
今私は病院のエントランスにいる。後は出口を通るだけだ。
とりあえず、まずは家に帰ろうと思う。自分の家なら何かわかるかもだしね。
記憶は取り戻したくないが、今の状況だと何もできない。
必要最低限の情報くらいは知っておきたい。
それに家に帰れば自分の家族がいるかもだしね、、、、
家の場所については看護師さんにグーグルなマップを使ってもらい、教えてもらった。
私の家はこの病院から歩いて30分かからないくらいの場所らしい。
遠くなくて助かった。道は頑張って覚えた。
病院を出てからすぐそこの信号を渡り、上上下下左右左右BAな感じで歩けば家に着くことが出来る。
大丈夫だ、何も心配することはない。
看護師さんが「家まで送りましょうか?」なんて親切なこと言ってくれたが、
しっかり断っておいた。私くらいになると帰路くらい3秒で覚えられる。
そんな冗談はさておき、いざ病院の外に出ようと思うと少し緊張する。
病院に思い入れがあったわけではない。1日2日で出来るわけがない。
ただ、記憶を無くした私にとって外は新世界同然なんだ。
それに死神とかで不安がいっぱいだ。これからどうするべきなのかも全く分からない。
本当にこれから大丈夫なのかな、、、
、、、、そんなこと考えても仕方ないか、、、よし!
自分の気持ちを吹っ切らせるかのように私は走り出した。
きっと死神から逃げたときよりも遅い走りだっだだろうが、
あの時よりも体が軽く感じられた。