第一話「記憶は喪失するもの」
「あ、危ないっ!」
「え?」
そんな声が聞こえた瞬間、目の前が真っ暗になった。
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目が覚めたと思う、そんな不確かな感覚で意識が覚醒した。
起き上がりたくない衝動に駆られつつも起き上がって周りを見てみると、白で統一されたような内装にベッドが何個もおかれてあった。おそらくここは病院の一室なのだろう。よく見るとそれぞれのベッドの近くに区切る用のカーテンが束ねられていて、よりここが病院であることを確信させた。
となると自分はこの病院に入院している患者なのだろう。そう思うと同時に、頭に頭痛が走った。痛みに耐えるため自分の頭を手で押さえると、頭に包帯がまかれているのに気が付く。
どうやら「私」は頭を打って怪我をし、この病院に入院したようだ。けれど、病院に来た覚えがない。
多分私は頭を打って気を失い、そのまま救急車でこの病院に運ばれたんだと思う。
でもそれが本当かどうかもわからない。あまりに急な展開に思考が追い付かない。
一度深呼吸をして冷静に考える。
どうして私は病院にいるんだ? いつ、どこで、何があって怪我をしたんだ?
考えてみてもわからない、思い出せない。
何度も自問自答を繰り返してみても分からなかった。頭を打って記憶が飛んでしまったのだろうか?
仕方なく自分で思い出すことは諦めて誰かに聞くことにしようと思い、
また少し周りを見てみると、この部屋には私以外に誰もいなかった。
ベッドはあるため、他の患者もこの部屋に泊まれるはずだけどどうしていないのだろう?
病院側の親切か、
それとも私以外に入院するような人がいないのか、
はたまた今はいないだけで少ししたら戻ってくるのか、
そんなどうでもいいことを考えてくると部屋の扉があいた。
すると、一人の女性が入ってきた。ナース姿をしていることから看護師さんであることがわかる。
「あ、【白河】さん、起きたんですね。」
「え?」
一瞬別の人に言ったのかなと思った。だけど看護師さんは私のほうを見ていた。
それにこの部屋には私以外誰もいない。
つまりはこの言葉は私に言ったのだ。なのに、この名前には聞き覚えがない。私の名前ではないはずだ。
私の名前は、、、私の名前は、、、あれ?
そこでようやく気づく。
どうして自分がここにいるのかがわからないどころか、
何もかもを思い出せないことに、、、
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看護師さんに自分が誰なのかわからないことを伝えるとすぐにお医者さんのところに連れていかれた。
そこで、自分についてのことや覚えていることを根掘り葉掘り聞かれた。
正直めちゃくちゃ面倒くさかった。
本当に面倒くさかった。
だってさ、
自分にはわからないこと何度も聞かれるんだよ?
分からないって言っているのに何度も何度も。
少し自分に対して無関心すぎるような気もするが仕方ない。めんどくさいものはめんどくさい。
そのあと検査をすると、私は「全生活史健忘」と診断された。
いわゆる記憶喪失になってしまったらしい。
そう言われると、そうだったのか、ていう感想しかわかない。
というか、あんまり実感がわかない。急にそんなこと言われてもどうするればいいかわからない。
しかし不幸中の幸いか、頭の怪我以外に異常なところはなくすこぶる健康体らしい。
そうだとしても、記憶を無くしてしまったことは変わらない。それほど嬉しく思えない。
診断が終わったあと、なぜは私はここにいるのか話された。
どうにも私は事故にあったらしい。
まぁ、そうなんだろうなと予想はしていたもののその内容に驚いた。
なんとお店の古くなった看板が私の頭に落ちて当たったらしい。
どんな奇跡かと思う。
けれど、その奇跡せいで今ここにいることになり、記憶喪失になってしまっている。
ここは自分の命にはかかわらなかったことに喜ぶべきなのだろうか、、、
それとは別にいろいろ説明された。
まず、私の名前は「白河透羽」というのだと教えてくれた。
名前が分かっているのは事故の時に身に着けていた持ち物に身分証明となるものがあったからだと看護師さんは言っていた。名前のほかにも自分の生年月日や家の住所なんかも書いてあるそうだから、帰る場所はわかるようで安心した。
それに、私の入院費用は落ちた看板の管理をしていたお店が保証してくれるらしい。
記憶を無くす前の私は保険に入っているのかも分からないから、ひとまず安堵できる。
けれども、そのお店はあまり経営がうまくいってないらしく費用は今日まででギリギリらしい。
幸いにも私の身体は健康なため明日には退院になるのだとか。
それに不満はないがしっかり看板の修理くらいしておいて欲しかったと思う。
看板を直す余裕なんてなかったんだろうけど、、、
あと、私がこの病院に入院した時に私の家族に連絡を取ろうとしてたらしいがつながらず、
誰も見舞いに来なかったみたいだ。
私には家族がいないのかもしれない。
それにしても誰も私の見舞いに来ないとは、、、
まったく、酷いったらありゃしない。
友人どころか親も見舞いに来ないとか、
本物のボッチじゃん。もしかして私は根っからのボッチなのだろうか、、、
そんなことを思ったあと、私は気持ちを整理するため病院の庭に出ていた。
私の病室と同じように、誰もいない。
庭の中央には大きな木が一本、そびえ立っている。
私は出てすぐ近くにあるベンチに腰を掛けた。
明日にはここを退院しなければならない。
これからどうしよっかな?
親もいるかわからないし頼れる人もわからない、記憶も無くした。どうしようもないし、、、
明日はとりあえず自分の家に帰ってみようかな?
「どうしてお前は生きている?」
ーーーそう、こんなことを考えてるときだった。死神と出会ったのは、、、