7-2:うさぎ妖精の評価基準
アイリスIF5大賞の応募作品を読んでいるとき、ふと思いました。
今、自分がどのような評価点のつけ方をしているのか。この読者の視点を具体的にしておけば、小説を書くときに役に立つ情報になるはず、と。
アイリスはポイント重視なので10000pt以上ある作品という前提条件がついてしまうのですが、その中でもうさぎ妖精が高い評価点をつけた作品は受賞しやすい傾向があります。逆に、どんなにポイントがあってもうさぎ妖精が低い評価点をつけた作品は受賞を逃しています。
また、ポイント関係なく内容で選考してくれる「第11回ネット小説大賞(ネトコン11)」や「第12回ネット小説大賞(ネトコン12)」では、うさぎ妖精が高い評価点をつけた作品がよく一次通過していました。
つまり、うさぎ妖精が作品を読むときに評価している部分に注意すれば、アイリスで受賞できたり、ネトコン一次選考を突破できたりする可能性が上がるということ!
うさぎ妖精の評価基準を知りたい方はこのまま読み進めてください。
ただし、女性向けの恋愛もので8万字から20万字までの完結長編が対象となる評価基準です。短編や大長編にしか興味がないという作者さまは読まずに飛ばしてくださいね。
かなり厳しい評価基準となっていますので、心が繊細な方も読まずに飛ばすことを推奨します。
うさぎ妖精の評価基準はこの4つです。
1.『読みやすいか』
2.『キャラは魅力的か』
3.『起承転結があるか(クライマックスで一番盛り上がっているか)』
4.『読後に満足感があるか』
それぞれ5点満点、合計20点満点です。
3点を「普通」として、好みに合えば加点、合わなければ減点しています。
本屋さんや図書館に置いてある本だと仮定して点数をつけるなら、という気持ちで判定しているので、かなり厳しめの点数をつけています。
12点以上の作品は、普通に本屋さんや図書館に置いてありそうなイメージ。
15点以上の作品は、書籍になったら買いたいなというイメージです。
事前に総合ポイントは確認せず、作品の内容のみで判断しています。
さて、それぞれの評価基準における【加点要素】と【減点要素】をあげていきますね。
これはあくまで私の好みが反映された要素であり、ポイントをとるための要素ではありません。ご注意ください。
1.『読みやすいか』
【加点要素】
・比喩が適切に使われていて、わかりやすい。
・気温や天気がわかる描写がある。
・資料や取材、体験をもとにした描写がある。ただし、大学生のレポートのように資料の書き写しにしか見えないものは減点。
・読者に印象付けたい情報(キャラの外見など)は1回だけでなく、何回も繰り返し書いてある。
・物語全体の雰囲気に合った文章になっている(シリアスならあえて漢字を多めにするとか)。
・シーンを映像として思い描きやすく、五感を刺激する描写ができている。
【減点要素】
・文章を書くための基本的なルールが守れていない。
・辞書を引く癖がなく、漢字の誤用、仮名遣いのミスなどが頻発している。
・誤字、脱字、キャラ名のミスが多すぎる。
・セリフが味気ない翻訳のようになっている。
・セリフが誰のものかわからない。
・同じシーンを別キャラ視点で繰り返す。視点を変える必要のないところで変えている。
・情報提示のタイミングがおかしい。必要な情報を後出しにするのは印象が悪い。謎解き系は特に注意。
・主人公(読者が最も感情移入する人物)が知っていることをいつまでも開示せず、わざとらしく隠し続ける。
・文末表現のバリエーションが乏しい。
・一文の中で、主語が統一されていない。主語と述語がねじれている。
・意味もなく短めの一文ばかり連続していたり、逆に長すぎたりなど、文章のリズム感が悪い。
・時系列がわかりにくい。
・物語内の時の流れが速すぎる(必要な描写の不足)、もしくは遅すぎる(不要な描写が多く退屈)。
・5W1Hの情報が不足している。場面転換したときは特に注意。
・一人称と三人称が混在している。
・日記もしくは文字数の多いあらすじ(単なる出来事の羅列)に見える。
・心情描写ばかりで周囲の状況の説明が不足している。
・読者を置いてけぼりにした展開(キャラの言動の理由や根本的な状況説明の不足)。
・前話のラスト部分を、次話の冒頭で繰り返す。
・キャラのやりとりばかりで、何がやりたいのかわからない。
・世界観に合わない単語が使われている(和風の世界観なのに中華風のキャラ名とか)。
・語彙力が乏しい。同じ単語が頻出し、表現の幅が狭い。
・資料で調べず、思い込みや間違った知識で書いている。
・説明ばかりで情景描写やキャラの言動についての描写が雑。
2.『キャラは魅力的か』
【加点要素】
・主人公と友達になりたくなる。一緒にいたら楽しそう、落ち着くなどプラスの感情を抱ける。
・主人公に物語を動かすくらいの積極性がある。
・過去がしっかりと設定され、キャラの性格や考え方にその過去が影響していると納得できる。
・脇役キャラにも主役になれそうなほどの魅力があり、主人公の都合の良い駒になっていない。
・若者だけでなく、いろんな年齢のキャラが活躍している。
・敵役キャラやライバルキャラが主人公よりも能力が上で、手強い。魅力的な人間性を持っている。
・特徴を掴みやすい。二次創作もしやすそうだと思える。
【減点要素】
《主人公について》
・虚勢を張ったり、威張ったり、自分のことを過大評価して調子に乗ったりしている。また、「自称サバサバ系」「ぐうたら系」など、現実にいたら嫌だ、こうはなりたくないと思う人物像になっている。
・設定に振り回されて無個性。もしくは受動的。ドアマット系のお話に多いパターン。
・幸せになれないルートを自ら選んでいるにもかかわらず、悲劇のヒロインぶって愚痴ばかり述べている。最後まで自分から幸せを掴むために必死に動こうとせず、他人任せ。
・やるのが当たり前のこと(王妃教育とか)をしているだけなのに、なぜか周囲の人から絶賛されている。
・複数の異性に気を持たせる言動を繰り返す。
・脇役キャラ、敵役キャラ、モブキャラを見下す言動を繰り返す。
・悩みがない。あったとしてもその悩みが軽すぎたり、主人公以外のキャラがすぐに解決したりするので、共感できない。溺愛系のお話に多いパターン。
・主人公が好かれるエピソードに説得力がない。
・主人公の言動に人間らしさを感じない。リアリティがない。
《ヒーロー(恋の相手)について》
・ヒーロー(女性にモテるタイプ)が主人公に惚れる理由が理解不能。
・ヒーローが、主人公以外の女性に対して態度が悪い。自己中心的すぎる。
・スパダリらしいエピソードが乏しくて説得力がない。主人公を一途に想う(溺愛する)だけの都合の良い駒でしかない。リアリティがない。
《キャラ全体について》
・敵役キャラ、ライバルキャラがありえないほどポンコツ。
・キャラに欠点がない。外見も性格も良くて、みんなから愛される完璧キャラはつまらない。
・ストーリー上、必要のないキャラが多すぎる。キャラの区別がつきにくく、覚えきれない。
3.『起承転結があるか(クライマックスで一番盛り上がっているか)』
【加点要素】
・クライマックスが最も盛り上がる(読者の心を揺さぶる)構成になっている。
・「起」で物語の目的がはっきり示されている。「承」以降も目的を忘れずに行動している。
・ドラマチックな演出で、読者の心をコントロールできている。
・さりげない伏線が物語の前半に入れられている。気付かないくらい自然だとかなり上手く見える。
・「起承転結」のバランス(比率)がよい。
【減点要素】
・伏線を未回収のまま、中途半端な終わり方をしている。「結」が少なすぎる。
・一番の見どころであるはずの「転」が短い。10万字程度の物語なら、2万~4万字は「転」がほしい。
・番外編が長すぎて本編の存在感が薄れている。
・序盤を超える感情の揺さぶりが後半にない。序盤しか面白くない。
・謎を追いかける展開なのに、読者に手がかりを与えず推理できない状態にしている。伏線を上手く仕込めていない。
・キャラがいちゃいちゃしているシーンがしつこく、テンポが悪い。ダラダラしている。溺愛ものに多いパターン。
・単なる短編を並べているだけで、全体のまとまりがない。
・「起承転結」の形になっているけれど、「転」の意外性がない。
4.『読後に満足感があるか』
【加点要素】
・読んでいる時間の大半が明るく楽しい気持ちでいられた。
・カタルシスがある。苦難をきちんと乗り越えたうえで幸せになっている。
・伝えたいメッセージやテーマを感じられる。人生のヒントとなりえるような役立つアイデア、視点、考え方、知識が書かれている。
・主人公の成長が見られた。
【減点要素】
・途中で「飽きた」「つまらない」「あと何ページ読まないとダメ?」と思う。
・納得できない結末。受動的な主人公が幸せになるだけというご都合主義の話など。
・人気作品の劣化コピーと感じる。流行ものに多いパターン。
・面白いのが序盤の一発ネタだけ。短編向きの話を無理やり引き延ばしている。
・予想通りで意外性が全く感じられない展開、結末。
・物語の大部分が不愉快になる展開で、クライマックスでもそれを上手く覆せていない。
・感情を揺さぶられるシーンがない。読後に「だから、何?」と言いたくなる。「上手なんだけど、何もない」も厳しい。
・物語をきちんと終わらせていない。「第○章完結」で完結表示にしてある作品は印象がかなり悪い。
『きゅんきゅん度』についても書いておきます。
【加点要素】
・恋する二人の関係性が何度も変化する。「無関心から好き」「やっと両想いになったのに別れなくてはならない」など。
・そのキャラならではの個性あふれる甘いセリフがある。
・読んでいるこっちまで絶望させてくるほどの切ない展開がある。ただし、そこからハッピーエンドにならなければ減点。
・物語全体にバランスよく恋愛描写、恋愛サービスシーンが散りばめられている。
【減点要素】
・主人公が好かれる理由が不明なまま、溺愛モードに入る。はじめから両想いで変化がない。
・主人公に共感する前に濃厚なラブシーンが始まる。知らない人たちの路チューを見せられているような不快感がある。
・ハーレム、逆ハーレム、三角関係で、好かれる中心人物に魅力がない。
・恋愛描写、恋愛サービスシーンが少ない。
・恋愛描写が出てくるのが中盤以降で遅すぎる。
・クライマックスのピンチ展開において、恋愛要素を絡めていない。
・恋愛的なピンチ展開がない。あったとしても、大したピンチではない。
以上、うさぎ妖精の評価基準についてでした。
ところで、ネトコン12では協賛企業さまが「こういう作品がほしい!」というコメントを寄せてくださってますよね。
うさぎ妖精と感覚が近いコメントも多かったので、一度目を通してみるとよいかもしれません。
実際に目を通すとわかると思いますが、キャラクターを重視している企業さまが多いです。
主人公に目的があるか。積極性があるか。共感できるか。憧れるか。応援したくなるか。そして、主人公が物語を通して成長しているか。
ネット小説で好まれる主人公像とはかなり違うので注意してください。
実はうさぎ妖精もキャラを重視して評価しています。というか、キャラが一番重要だと思っています。
キャラが魅力的であれば、それだけで読者の興味を引き続けることができます。まあ、そのキャラを魅力的に見せるために文章力やストーリー構成力が必要になるんですけどね。
物語の目的がはっきりしている作品を好む企業さまも多い印象です。
目的がはっきりしていると、すごく物語を追いかけやすくなります。物語の途中で読者を飽きさせたくないのなら、わかりやすい目的は絶対に必要だと思います。もちろん目的から脱線しないことも大事です。
専門知識を必要とするお仕事ものを求めている企業さまもいます。これは資料や取材、体験をもとにした描写のある作品が求められているということ。
うさぎ妖精も専門知識などが書いてある作品は大好きです。知らない世界を見せてくれるお話って素敵ですよね。
いろいろ書きましたが、加点要素や減点要素のすべてを意識する必要はありません。小説の質を上げたいなと思ったときに、作者さまの納得する要素だけ意識してくだされば充分です。さらに、要素を意識しすぎて文章が書けなくなってしまうくらいなら、無視しても問題ありません。
作者さまが好きなように書く。
それが一番大事です。
アイリスIF5大賞の結果発表は2024年11月末の予定。
どんな作品が受賞するのか、楽しみですね!