君
広いようで狭い世界。
もし君を幸せにする方法があるとするならば、俺は君の記憶を…
「桜川紅恋愛奈です」
「紅ちゃんは今日からこのなんでも屋の一員になります!仲良くしてねー」
お前は学校の先生か?と突っ込みたくなる的場雇。
雇はこの物語の主人公の一人である。
「そして、紅ちゃんの教育係に雇を任命する」
「はぁーーー!?」
「拒否権なんてないわよ?」
リーダーである支倉七衣は微笑んでいるがどこか圧を感じる雇。
(絶てぇ笑ってない)
「返事は?」
ビクッと支倉の強くなっていく圧に体が跳ねた。
「ひゃい!」
おまけに声まで裏返った雇。
(このババア恐ろしや)
「よろしくお願いします」と紅恋愛奈が言った。
「あーうん」
そして、もう一人の主人公である紅恋愛奈。
二人を中心としたなんでも屋のたそがれた物語が今始まろうとしていた。
「さっそく見回りよろしく」
「なっ!?」
「文句があるのか?」
「い、いやないです…」
(圧かけてくるのやめろよな!)
雇は支倉の圧には勝てなかった。
「行くぞ」
「はーい」
女の子らしい声というかぶりっ子声を出す紅恋愛奈を雇は軽く睨みつけた。
外に出ると夏特有の匂いがした。
(あっちぃー!今日の気温確か最近で一番高いんだよなー)
「お前さ…」と雇は紅恋愛奈に話しかけようとしたがやめた。
なぜならエロに目が止まったからだ。
紅恋愛奈はハーフなこともあって目は茶色で髪の毛は金髪ボブの美少女。
目はデカくて胸もそこそこデカい。
服が汗でくっついるせいで倍に胸が大きく見える。
と雇も男なので胸に目がいってしまった。
(こ、これに関しては不可抗力)
バレないように横目で見るが…
「お前名前なんだっけ?」
(え?)
静止画のように雇は固まってしまった。
(今、誰か喋った?)
「や、やまいだっけ?」
(あれあれあれー?)
驚きが隠せない雇。
その理由は声が可愛らしかった女の子の声が怖いほど低くなっていたから。
「まぁ、なんでもいいや。あのさ」
「は、はい…」
遠慮気味に返事をした。
(目を合わせられない)
「今さっきからここ見てんのバレてんだけど?」
どこ?と思い恐る恐る紅恋愛奈の方を雇は見た。
その瞬間雇の体に電撃が落ちた。
紅恋愛奈が人差し指で自分の胸を指していた。
「正直キモイんだけど」
「か、勘違いじゃないかなー」
誤魔化そうとそっぽを向いた。
「支倉さんに言ってやる」
「うわぁーーー!それだけはご勘弁!」
紅恋愛奈に近寄るなり手を握り喚いた。
「うわーキモっ。ってかここ一応さ公共の場だからな?」
人の変人扱いする視線が痛かった。
その時またもや雇の体に電撃が落ちた。
(あー、俺の人生詰んだわ。グッバイ)
全てを諦めた雇の顔はこの世ではない場所を見ていた。
そして、不自然な笑顔も貼り付けていた。
「まぁ、今回はいいや。次したら支倉さんに言う」
「え!?」
この世に引き戻された雇の顔には心からの嬉しさが伝わる笑顔を貼り付けていた。
「だから、この手を離して」
紅恋愛奈の視線の先には雇が今さっき懇願する時に握った手がまだ繋がれていた。
パッとすぐ離した。
「ご、ごめん」
「名前は?」
「へ?」
「だから名前は?」
「的場雇」
「じゃあ雇でいい?」
「あー、うん」
「私のことはなんと呼んでくれてもいいよ」
「うーんじゃあ…」
雇は長すぎる名前をどう縮めようか考えた。
(いいニックネーム。センスが試されるぞー)
ポンッと頭の中で一つのニックネームが思いついた。
「紅恋」
「…」
反応がないと思い雇は紅恋愛奈の顔を見た。
「めっちゃ嫌そうだな!」
センスを疑うような目で雇を見た。
「センスのかけらもない」
「分かってるわ!」
だんだん恥ずかしくなってきた雇の耳は赤かった。
「私の名前覚えてたの?」
(そうだな。お前は俺の名前忘れてたもんな)
「紅恋が来る二日前くらいに履歴書みたいなのをリーダーが見せてくれてさそれがお前だった。名前長ぇなーと思って見てたらいつの間にか覚えてたわ」
「ふーん」
興味がなさそうなフリをする紅恋愛奈の口元は緩んでいた。
「何笑ってんだ?」
「笑ってない!」
紅恋愛奈は顔を背けた。
変なのと思いながら雇は前を向いた。
(名前を呼ばれるのって嬉しいね…)
前を向いている雇を横目で見て心の中で一人呟いた。