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7 護衛オークの消去







 

 輸送の仲介をしたゴブリンのゾランは、襲撃が始まったら黙って見ていろと言っていたが、避難する場所も無く逃げ道もないこんな場所では無理がある。

 なんたって俺のところにまで矢が飛んでくるんだからな。

 

 それに犬達に矢が命中するのが怖い。

 かといって犬二匹をカートから開放したら大変な事になりそうだ。

 だがこのまま放って置いて良いものでもない。


 俺は犬をカートから解放しようとしたところ、御者席にいるバールが口を開いた。


「何を……ずるんだ……」


 バールは傷が悪化しているようで苦しそうだ。

 顔中に玉のような冷や汗でびっしりだ。

 どうやら俺が治療の際に傷口に仕込んだ毒が効いてきたか。

 さすがに致死性の毒だと症状でバレるから、体調が悪くなる程度の弱毒にしたんだが、それでも目まいと頭痛が酷い事だろう。

 この状態ではまず戦えない。


「ああ、犬をカートの下に隠れさせるんだよ」


 そこへ護衛オークの一人からバールへ声が掛かった。


「バール、奴ら、黙らぜろ!」


 いや、今のバールは無理だよ。

 そう思っていたんだが……


 バールがひざに手を置き力を込めながら、御者席から立ち上がった。


 そこへ矢が何本か飛んできて、座席にカツカツと刺さっていく。

 その内の一本がバールの左太ももに突き刺さる。


 しかしバールは気にしたそぶりも見せず、背中に背負った戦斧を両手に持ち替えた。

 そして戦斧を胸の前で拝むように立てる。


 こいつこの状態でまだ戦えるのか?


 バールはゆっくりと歩いて左の斜面の森へと入って行く。

 冒険者の半数もそれに続く。

 

 急な斜面をものともせずに、ゆっくりとだが確実に登って行くバール。


 普通の人間だったら動くことも出来ないのだが、この化け物は動いた上に戦うつもりらしい。

 しかもこの登り急斜面でだ。


 バールの後を付いて行った冒険者は、次々に斜面に足を取られて登れない。

 しかしバールは着実に登り敵の潜む場所までたどり着くと、戦斧の一振りでゴブリン二人を黙らせた。

 そして二振り目でさらにもう一人の頭を叩き割った。

 そこで片膝をつき肩を大きく上下させて息をする。


 人間だったら立っていられない。

 だけどこいつはオークだ。

 これでも多めに毒を入れ込んだのだが、ちょっと甘かったか。

 

 それでも動きが止まったオークなど、単なる射的の的でしかない。

 格下のゴブリンが相手でもそれは同じ結果だ。


 片膝を着くバールに向かっていくつもの矢が飛来する。

 その内の半分ほどだろうか、弱ったバールの身体に突き刺さっていく。


 五本ほどの矢が刺さっているのが見えるが、バールの様子は変わらない。

 むしろ俺が盛った毒の方が効果があった気がする。

 早いとこ誰かバールを仕留めてくれないものか。


 そう思っていると、バールが再び立ち上がった。

 まさに化け物。


 バールは立ち上がったところで空に向かって咆哮ほうこうを上げた。


「ぐらああああああっ!」


 そこへ矢が一本飛来して、上手い具合にバールの首に突き刺さった。


 バールが黙り込む。

 そして苦しそうは表情を浮かべつつも、首に刺さった矢をむんずと掴む。

 そして力を込めて一気に矢を引き抜くと、傷口から湧き水のごとく血が噴き出した。


「ぐおおおおおお……」


 バールは言葉にならない唸り声を発すると、徐々に力を失っていく。

 そして両膝をついたかと思ったら、そのまま前のめりに倒れて動かなくなる。


 俺は「よしっ」と小さく拳を握る。


 これで邪魔者は消えたし追加報酬の金貨も手に入る。

 追加報酬でオーク一人に付き金貨一枚だったからな。

 消去した証拠に手首を回収しないといけないのだが、この状況ではそれも難しそうだ。


 あとは残った護衛オーク三人の消去とゾッチの消去さえすれば、取りあえず俺の仕事は終了出来る。

 エルフはオプションだし、ゴブリン依頼も完了している。

 問題はない。

 

 だが、あの護衛オーク三人が邪魔でゾッチの馬車に近寄れない。

 それに冒険者ギルドは敵に回したくないから、冒険者達にはバレない様に行動しなくちゃいけない。


 そんな事を考えていたら、ゴブリンの襲撃者達が斜面の上の方へと消えていく。

 撤退するらしい。

 そりゃそうだろう、依頼者であるゴブリンのゾランは護衛は四人だけだと言ってたから、それに合わせた襲撃人数だったんだろう。

 撃退されて当然だ。


 すると馬鹿な冒険者達が「一人も逃がすな!」とかいって斜面を追いかけていく。

 といっても六人ほどだ。

 残りの四人の冒険者は負傷していて、それどころじゃない。

 彼らはお互いの治療で忙しい。


 護衛オークの一人が、バールの様子を見に行って驚いている。

 バールが死ぬとは思ってなかったんだろう。

 他の二人のオークも無事なようだが、一人は背中に矢が刺さったままで、もう一人のオークがその矢を抜こうとしていた。


 今、ゾッチは馬車に一人。

 これは今やるしかないか。

 今後、こんなチャンスは訪れそうにはない。

 その前に護衛オークを何とかするか。

 

 ――――――消去開始


 俺は立ちあがると、横たわるバールの側で膝をつく護衛オークの背後へと向かう。



 気配を消す。


 俺は風のごとし。


 風で運ばれる気なり。


 俺は空であり気なり。


 周囲に溶け込んでいく。


 細長い突刺剣をスルリと抜く。


 俺と護衛オークの間に風が駆け抜けた。


 その瞬間――――


 突刺ナイフがオークの右耳から入り、左耳へと抜ける。


 オークは一瞬だけブルッと痙攣けいれんするも、直ぐに動きが止まる。


 素早く突刺ナイフを引き抜く。


 オークは両膝をついてうつむいた状態で動かなくなった。

 俺はそいつにゴブリンが放った矢を代わりに突き刺しておく。


 次に仲間の背中に刺さった矢を抜いているオークに接近する。

 まだこっちには気が付いていない。


 周囲に目を配る。

 冒険者達は目先の事に夢中で、こっちを気にする気配さえない。


 ゾッチの馬車に動きはない。

 ならばまだいける。


 抜き終わった矢を地面に捨てるオーク。

 そいつの前で尻を地面に着けて座り込む負傷オーク。

 二人は一直線上にいる。


 

 自然と一体化。


 そよ風のごとく移動。


 意識は空気の中。


 まるで身体の重さが無くなったかのよう。


 気配は完全に消えた。


 目の前にオークの背中が見えた。


 俺は背後から大きく手を伸ばし、負傷しているオークの額を掴み一気に引き寄せる。

 すると治療していたオークの顔面と、負傷オークの後頭部がガツンとぶつかり合う。


 ニ人のオークの頭が重なった瞬間。


 そこへ俺は逆手に握った細長い突刺剣を一気に押し込む。


 場所は首の付け根。


 自分の体重を乗せて置くまで刺し込んでいく。


 突刺ナイフは一人目のオークを突き抜け、二人目のオークの後頭部にまで達した。


 二人は短く「ふぐうっ」とか「がふう」とか喉を鳴らし、重なる様に前にゆっくりと倒れていく。

 

 突刺ナイフを素早く抜いて、直ぐに仕舞う。


 周囲に気を配る。

 

 誰も気が付いていない。


 そしてこいつらにも矢を刺し込んでおけば終了だ。

 これで追加報酬の金貨三枚を稼いだ。


 俺は素早くそいつらから離れると、ゾッチの馬車へと向かう。


 もう厄介な護衛オークはいない。

 金貨十五枚はもう目の前だ。


 だがすべてが上手くいくとは限らないのが世の常。


 俺がゾッチの馬車に取り付こうと近づいた時、突如馬車の扉が開かれる。

 そして扉からにょきっと顔を出したゾッチと目が合った。






 


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