6 ゴブリン襲撃
戻って来たオークのバールだが、肩にクォレルが刺さっていた。
そもそも木の上のクロスボウ持ちをどうやって倒したんだ?
見た所、飛び道具は持ってなさそうだし、謎だ。
俺はバールに近づき肩のクォレルを抜こうと提案すると、以外にも彼はそれに応じた。
俺はクォレルを引き抜き、治療しながら質問をしていく。
結構痛い事をしているのだが、彼は全く動じる様子はない。
「どうやって木の上のクロスボウ持ちを仕留めたんだ?」
少なくても四人のクロスボウ持ちが木の上に潜んでいたはずだ。
大抵は他人に自分の戦い方などは教えないはず。
だからこれはあくまでも探りを入れる程度の質問だったのだが、彼ははぐらかすこともせずにあっさりと秘密をしゃべった。
「投石だ」
たったその一言。
そして治療の途中だと言うのに近くの石を拾い上げ、その腕を大きく振り上げる。
振り上げたまま少し止まるも、次の瞬間には目にもとまらぬ速さで振り下ろす。
持っていた石を投げ放つと傷口から霧のように血が舞った。
石が空気を切り裂く音。
そして次には石が木にめり込む音が響く。
投石が命中したであろう木には石がめり込み、そこからわずかに煙が出ている。
恐ろしいほどの威力だ。
それによく考えたら肩を負傷している上でこの威力。
この威力なら当たれば一撃で片が付く。
それほど時間が掛からなかったところを見れば、命中率も悪くないんだろう。
さらにバールはこう言った。
「木の上以外、十人以上盗賊いだ。半分は倒じだ。でも残り逃げだ」
早い話、一人で盗賊の半数以上を倒したってことか。
こいつはヤバい奴だ。
ここで盗賊が襲ってこなかったら、その実力も知ることがなかった。
これは下手に動けなくなったか。
それにバールは俺に付きっきりだ。
マズいな、なんとかしないと俺の仕事が出来ない。
「バール、凄い腕前だな。お前みたいな戦士は初めて見る。そうだ、治療の続きをするからこっち来い」
少しおだててやった。
「そうだ、俺はづよい。お前よぐ分っでる」
お、チョロい奴なのかも。
少なくても脳ミソは軽そうだ。
こいつは大体の実力は分かったが、残りの護衛オーク三人の実力を知りたい。
だけどその機会は訪れそうにないか。
あと気になるのがエルフの奴隷。
エルフ救出がメイン依頼なら金持ちの娘とかって線が考えられるが、今回の依頼ではエルフ救出はオプションだ。
メインはゾッチの消去でエルフはついで。
それと俺が伝達屋から受けた依頼以外にも、ゴブリンのゾランの様にエルフをメイン依頼にしてくる奴もいる。
非常に面倒臭い依頼を受けてしまったようだ。
あのエルフにいったいどんな価値があるっていうのかが、ちょっと気になる。
そんな事を考えながらバールの治療を終える。
ゾッチは部下が怪我してもポーションはくれないようだ。
道を遮っていた倒木をどかし、俺達は再び先へ進む。
適度に休憩を挟みつつ進み、特に変わった事もなく襲撃予定地点へと差しかかった。
切通しの道だ。
道は突如狭くなっており、その道の両側は急斜面の森。
弓やクロスボウなどの飛び道具なら、木に登らなくても上から撃ち下ろせる。
しかも両サイドに逃げ道はない。
そして道はクネクネと不規則に曲がり、速度を上げて突っ切るのも難しそうだ。
待ち伏せポイントとしては絶好の場所かもしれないが、行く手としては逆に警戒する地点でもある。
ちょっとあからさま過ぎる場所である。
案の定、その切通しの手前で停車の指示が出た。
バールは俺の横で相変わらず動かない。
だが、良い感じに調子が悪そうだ。
額には汗がびっしりと張り付いている。
無表情だが逆にそれが可愛そうになる。
ゾッチの指示で冒険者二人が様子を見に行くらしい。
良い判断だが、俺にとっては都合が悪い。
既にウエストとノーズの二匹は臭いで待ち伏せを悟っているらしく、ソワソワと落ち着かない。
俺も二匹を宥めるので必死だ。
だが冒険者二人は直ぐに戻って来て「問題なし」と判断した。
いくらなんでも、入り口では仕掛けて来ないからな。
襲撃するなら切通しに完全に入り切ってからだろう。
襲いかかるならもうちょっと先だな。
引き続き冒険者二人は俺達よりもかなり前を先行して行く。
切通しに入ってちょうど真ん中辺りだろうか。
犬の二匹が唸り声を発し始めた。
さらに斜面のずっと上の方の木の影で、動く気配を感じ取ってしまった。
それを見て思った。
襲撃側は戦いに慣れてない。
待ち伏せで敵にバレるとはちょっと酷い。
これだとこんなに良い襲撃立地なのに、下手すると返り討ちだ。
そしてやはり待ち伏せはバレた。
先行する冒険者二人が別の場所に隠れている襲撃者を見つけてしまった。
「あそこに誰か隠れているぞ!」
大きな声でそう叫ばれたらしょうがない。
俺もそれに呼応してやった。
「マ、チ、ブ、セ、ダ~~!」
ワザとらしかったか?
冒険者達が次々に武器を構える。
俺がカートを止めようとすると、後ろから「止めるなっ、前だ、前へ行げっ」と護衛オークからあおられた。
仕方ない。
俺は直ぐ止まれる速度で犬を走らせる。
そこで襲撃がやっと始まった。
両側の斜面から一斉に矢が降り注いだ。
挟み撃ちはキツイ。
それもかなりの数だ。
片側だけでも十人以上は居そうだ。
弓の腕はそれほどでもなさそうだが、これだけの数で射られれば負傷者は続出する。
「敵はゴブリンだ、落ち着いてやれば勝てるぞ!」
冒険者のリーダーがそう叫んだ。
そう、そうなんだよな。
残念ながらゴブリンなんだよ。
人間に比べて身体も小さく非力だから、短弓しか扱えず接近戦でも力負けする種族。
どうしても数で圧倒しないと戦いでは負ける。
だがこの人数程度じゃ無理がありそうだ。
前を見通せる場所まで来ると、突然木が倒されて道を遮る。
一本、二本と倒木は増えていき、次第に人も通れないほどになってきた。
道が狭いからこの場で馬車の向きを変えるのは難しい。
これで俺達は逃げ場が無くなった訳だ。
それなら俺はジッと機会を待ちましょうか。
カートを止めると、何故か俺の所にまで矢が飛んできた。
おいおいおい、襲撃は黙って見てろと言われたが、俺も攻撃されるなんて聞いてないぞ。
カートに矢が次々に刺さっていった。