45 新しい人生の始まり
俺は家の中へと入って行った。
しかしここに住んでいた残りの冒険者四人の遺体が無い。
部屋を一つ一つ探して見ると、寝室に人の気配があった。
俺は慎重にドアを開ける。
すると部屋の中には四人の縛られた冒険者が座っていた。
「生きてたのか!」
良かった。
一人は死なせてしまったが、四人は生きている!
縄を解き経緯を聞いてみると、夜番をしていたパーティーメンバーの一人が殺されたが、他の四人は寝ているところを拘束されたらしい。
寝ていたから助かったのか。
四人は大喜びだった。
でも、もう少し遅かったら俺の行き先を拷問の末にしゃべらされ、最後には殺されていただろう。
そこはこいつらには黙っているがな。
俺は彼らに正直に、襲撃者は俺を狙っていたと伝えた。
その上でこの家を無料で譲渡する事を提案してみた。
家の持ち主が俺じゃなければ襲われないとも言った。
「どうだ、仲間が死んだ家で住むのが嫌なら売ってしまっても良い。好きにしてくれて構わない。これが権利書だ」
応対するのはこのパーティーのリーダーだ。
「そうか、それなら遠慮なくこの家は譲り受けるよ。死んだ仲間の為にもここは俺達パーティーの城とするよ。使わせてもらう」
こうして俺は家の権利書を譲り渡した。
俺はそのまま元自宅だった家を出た。
すっかり辺りは暗くなった街道を俺は馬でゆっくりと進んで行く。
するとこんな夜中なのに、街道をこちらに向かって来る一団がいる。
隊商の様だ。
「こんな夜中に移動なんてちょっと怪しいな」
まさか、刺客か!
俺は自然と突刺剣に手がいく。
「ウオオオオオン!」
あれ、この声って……
一団から四つの影が俺に走り寄る。
狼だ。
「イースト、サウス、ウエスト、ノース!」
四匹の狼達が嬉しそうに馬の周囲を回り始める。
それでこの一団が誰かが分かった。
「おい、ローマン。俺達を置いて行くとはどういう事だ?」
真っ先に大きな声で言ってきたのはアノさんだ。
そして―――
「ローマン様!」
走り寄って来たメロディが俺の騎乗する馬の前に立つ。
ちょっと怒ってるっぽいな。
俺が馬から降りると、メロディがツカツカと目の前にやって来て仁王立ち。
「勝手な行動はチームワークを乱します。ダメですよ、ローマン様」
「ああ、すまん」
そこで何があったかを知らせた。
アーレの自宅を襲撃されると情報が入った事。
それと襲撃者は全員撃退したが、冒険者の一人が死んでしまった事。
自宅の権利書を譲った事。
そしてボーに謝罪した。
「すまん、お前の知り合いの冒険者が一人、帰らぬ人となってしまった。俺のせいだ」
するとボー。
「おいおい、謝らなくてもいいよ。そこまで親しい奴らじゃないよ。私が知り合いなのはリーダーだけだから。それも冒険者ギルド内で会話する程度の仲だしな」
なんだ、その程度なのかよ。
放って置いてもよかったかな。
ああ、でもおっさんのこともあるし。
そこでシルパさんが話に入ってきた。
「まあまあ、それよりもさ、この先に広い場所があるから、野営の準備しないとね」
そうだった、もうすっかり夜だ。
かなり遅い野営となったが、皆といると落ち着くな。
翌朝には仕切り直して、改めて港を目指して出発した。
ソーダンの街とダバドの街は追手の事があるから素通りする。
ただ、おっさんの手紙だけは、少しの金と一緒に伝達屋に託した。
そして俺達は商業ギルドや冒険者ギルドの依頼で金を稼ぎつつ、幾つかの街を通り過ぎて行った。
そして予定よりも大幅に遅れて港へとたどり着いた。
三ヶ月、アーレから三ヶ月も掛かったのだ。
それは久しぶりに見る海だった。
海からの独特の臭いに狼達も、しきりに鼻をクンクンさせている。
メロディとボーも海は初めてらしい。
近くに行って見たいという二人の要望で、浜辺でちょっと休憩をとる。
「ローマン様、何でこんなに水面が暴れているのですか?」
波を初めて見ればそう思うか。
メロディはちょっと怖がっているが、興味津々といった感じだ。
反対にボーは大はしゃぎ。
「凄いぞ、凄いぞ、この水はしょっぱい味が付いているぞ!」
狼達は唸り声を上げながら、打ち寄せては引く波に噛み付こうと必死だ。
だが噛み付くたびにしょっぱいのか、口をクチャクチャしている。
ゴブリン達は海を知っているようだ。
砂浜に座ってボーっと水平線を眺めている。
マヌエル夫妻が俺の隣に来て腰を下ろす。
俺も砂浜に腰を下ろした。
そしてアノさんが急に話し出す。
「なあ、ローマン。この先に港があるんだが、そこから船に乗ったらもう後戻りは出来ない。後悔はしないか?」
「俺が後悔するとしたら、ここにいる誰かを死なしてしまった時だよ」
思わず本音が出てしまった。
それに対してアノさんは神妙な顔だ。
「なあ、“死んでしまった”じゃなく“死なしてしまった”って言い方なんだな。あんた、それって全部一人で背負い込もうとしてないか。俺達はひとつのチームなんだぞ。もう少し信用してくれても良いんじゃないのか、俺達をもっと頼れ」
俺の気持ちがバレているな。
信用しろとか裏稼業じゃ形だけの言葉でしかない。
だがアノさんが言っているのは、本当の意味での信頼なんだろうな。
「ああ、すまないな。そういうのに俺は余り慣れていないもんでな」
「あんたは俺達みたいに、表立って生きて来た者じゃないことは薄々感じていた。だけど今は違うだろ。ここにいるってことはだ、俺達と同じ世界の住人だ。今すぐにとは言わないがな、その気になったらいくらでも話は聞いてやる。俺達は仲間だからな」
危なく泣きそうになる。
何て良い人なんだろうか。
かえって話せないよな。
俺は過去に沢山の人を金の為に殺してきたから。
こればっかりは墓の中まで持ち込むつもりだ。
近くに信頼のおける仲間がいるのに、何も話せないなんてな。
今までの俺の人生はくそったれだ。
だけどここからの人生はそうはならない。
俺はゆっくりと立ち上がり、大きく伸びをした。
「さあ、そろそろ港へ行こう。俺達の旅はこれからだ!」
最終話でしたが完結していません。
この小説を書き始めた時は、シリーズものにするつもりでした。
しかし余り人気が無かったようで……
それでシリーズ化は断念しました。
それでこのような終わり方となっています。
地味な話は一般受けしないみたいですね。
次の新しい作品をもう書き始めているんですが、マニアックな内容の小説なので、もしかしたらこれも一般受けしないかもです。
詳しくは活動報告を見てください。
それではまた次作でお会いしましょう。
最後までお付き合いありがとうございました。
<(_ _)>