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43 オーガ討伐








 朝から調子の悪い腹を抱えながら、オーガの痕跡を探す。

 そして腹の調子が良くなってきた昼頃、集合地点にボーとサウスが神妙な表情で現れた。


「ローマン、多分それらしい巣穴みたいのを発見した。だけどな、中には何もいなかったんだ。どこかへ行ってるみたいだね。待ち伏せでもするか?」


 巣穴を発見したか。


 これは基本通りに待ち伏せが良いか。


「場所はどのくらい離れているんだ」


「そうだな、ここからだと歩いて半時くらいだ」


 微妙な距離だが、しょうがない。


「よし、馬車や獣車はここに残す。ゴブリン達と狼二匹をここに残す。他は全員で待ち伏せする、いいか?」


 反対者は誰も居ない。

 武器の準備を整え出発した。

 

 


 

 到着してみると、三階建てほどの高さの岩壁がある。

 その岩壁の大部分は細長い草で覆われている。


 ボーが指を差して「あそこだ」と言った先、草で分かりづらいが確かに穴が空いていた。

 高さも幅も人間ニ人分ほどの穴だ。

 奥行きは三十歩ほどだという。


 連れて来たイーストとサウスが鼻を高くしてクンクンさせているが、反応が薄いところをみるとオーガはいないようだ。


「よし、ここで帰って来るのを待ち伏せする。洞穴の向こうとこっちで挟み撃ちにするか」


 作戦なんて簡単なもの。

 洞窟の両側に待ち伏せての、オーソドックスな挟み撃ちだ。


 向こう側にマヌエル夫妻とボーが隠れ、こっち側に俺と狼の二匹だ。


 その時は直ぐにやって来た。


 狼達がせわしくなったかと思ったら、森の奥から俺の身長のひとつ半はある巨体が、その屈強な体躯を揺らしながら現れた。

 獲物だろうか、何かをぶら下げている。

 

 近くまで来て分かった。

 左手でゴブリンの片足を二人分も握って、逆さまにぶら下げている。

 そして右手で巨大な棍棒を肩に担ぎ、身体には魔物の毛皮をまとっている。


 恐ろしいのはその張り出した下あごの牙。

 何か食ったのか、その牙に布と一緒に血が付いている。


 あのゴブリンも運が悪かったんだなと、何気なく見ていて、不意にその姿が記憶によみがえる。


「あのゴブリン、ゾランじゃねえか……」


 メロディをつけ狙っていたゴブリンのゾランだ。

 俺達の跡を付けていてやられたのかもしれないな。

 残念だったな。


 今なら俺が気配を消して急所を一突きで終わるのだが、手の内は身内でもあまり知られたくないんだよな。

 それに、こいつらの力量ならば十分いけるはずた。


 だから―――


「イースト、サウス、掛かれ!」


 俺のかけ声で二匹の狼がオーガに襲い掛かった。

 完全な奇襲だ。

 それに合わせて、メロディのエンタングル魔法が浴びせられた。


 オーガの片足に魔法の力により、木のつたが絡((から)みつく。


 ほぼ同時にアノさんのスタッフスリングのつぶてが空を切ってオーガの肩口に命中する。

 するとオーガはバランスを崩して前のめりにぶっ倒れた。


「フンガアアッ!」


 叫ぶオーガ。

 倒れた拍子にオーガの棍棒が、手から離れて転がっていく。


 そこへ狼二匹が飛びかかった。


「ガウウウウッ」

「ガウルルル」


 しかしつぶてと狼の牙くらいじゃオーガは倒せない。


 仕方がない、俺が行くか。

 と思った時、ボーが走り込んでジャンプ一番。


「うらああああああっ!!!!」


 気合と共に空中で大きく剣を振りかぶり、そのままオーガの背中に振りかぶった剣を振り下ろした。


「グオオオオオォォォォッ」


 オーガの叫び声が森に木霊こだました。

 

「オラオラオラ、どうだ、こいつ。これでどうだ!」


 こいつはオーバーキルと言う言葉も知らないらしい。

 何度も剣を叩き込むボー。


「止めろ、ボー。そいつはもう死んでる!」


 俺が怒鳴ってやっと理解したらしい。

 飛びかかった時は少し感心したんだが、それが何だか損した気分だ。


 しかし戦いはあっという間だったな。

 俺達、実は物凄く強い気がしてきた。


 この勝利にボーなんかもう有頂天だ。


「私達のパーティーは凄いぞっ、直ぐに金等級のパーティーになれるぞっ!」


 だから冒険者はお前だけだから。

 俺達は商業ギルド加入だから。

 冒険者ギルドの金等級のパーティーになんかなれないんだってのに。

 

 だけどこれだけ嬉しそうなボーを見てると悪い気はしない。

 なんだかこっちまで嬉しくなってくる。

 もしかしてこれが“仲間”ってやつなのか?


 少しだけ胸に込み上げてくるものがあった。



 


 討伐の証明にオーガの遺体をメロディのカートに乗せて、再びソーダンの街へと戻る。

 街中を行くとメロディのカートに視線が集まる。

 ユニコーンモドキに跨ったボーは、メロディの獣車の側で誇らしげだな。

 道行く人に「オーガなんてちょろい」とか言い放っている。

 いかにも自分が一人で討伐したかのように振舞っているが、まあ好きにさせておいてやるか。


 冒険者ギルドへ到着すると、俺達は中へ入らずボーひとりに任せる。


 しばらくすると誇らしげに冒険者ギルドから出て来た。

 褒賞金は金貨一枚。

 まあ悪くはないのだが、この人数だとちょっと効率が悪いかとは思う。

 この程度の討伐なら、二人位が丁度良い感じかな。

 棲みかさえ見つけられれば、俺一人でもやれたしな。


 だがこれで少しは金になった訳だし、改めて港を目指して出発だ。


 これでソーダンの街ともしばらくお別れだ。

 と思って街の門へと向かっている時だった。

 一人の男が俺の獣車に走り寄って来た。

 変装はしてるが身に覚えのある奴だ。


「ちょっとすいませ~ん。借りてたこれ返しておきます~」


 そう言って小さな荷物を御者席に投げ込み、直ぐに立ち去って行く男。

 いつもの伝達屋だ。


 俺は直ぐに荷物の中を確かめる。

 中には干し肉の塊と小さな布切れが一枚。

 布切れには何やら文字が書かれている。

 暗号文だな。


 俺はこっそりとそれを読むと、伝達屋個人からのメッセージだった。

 あの伝達屋とはもう何年もの付き合いだ。

 たまにだが特別な情報を貰える。


 その内容というのがアーレの俺の自宅に関してだ。

 近いうちに襲撃する計画があるらしいと書いてある。

 俺が所属する組織も遂に俺を裏切者と判断するようになったようだ。

 エルフ女、つまりメロディの存在がバレたってことか。


 だが俺は自宅にいない、だから安心と思ったんだが、よく考えたら留守番の冒険者が住んでいる事を思い出した。

 昔の俺なら放って置いただろう。

 俺には関係のない事と。

 

 だが、その冒険者はボーの知り合いだ。

 そう考えたら放って置けなくなった。


 俺は獣車を止めた。

 そして飛び降りると先頭を行くボーの所へ走り寄りながら考える。


 襲撃の事、話して良いだろうか。

 もし話してしまったら、確実にこいつらも巻き添えになる。

 よし、一人で行って片づけて直ぐに戻るか。

 

「なあ、ボー、ちょっと止まってくれ」


「どうした?」


「急用を思い出した。一旦アーレの自宅へ戻る。先に進んで行ってもらえるか。それで悪いがその馬を貸してくれ。その馬なら直ぐに追いつけるからな」


 ボーは何の疑いもなくユニコーンモドキを貸してくれた。

 代わりに俺の獣車に乗ってもらい、ゴブリンや狼達も任せる。

 

「ボー、皆にも説明しておいてくれるか?」

 

 するとボーは「任せろ」と快く引き受けてくれた。


 俺は馬に乗って皆の横を走り抜けると、不思議そうにマヌエル夫妻とメロディが俺を見る。

 俺は何も言わずに軽く手を振り馬を走らせた。










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