42 討伐依頼
ここにいる全員の視線がボーに集中している。
恐らく皆の頭の中では『箱』という言葉が駆け巡っているのだろう。
もちろん俺もそうだ。
『箱』といったらあれしかない。
罰依頼で運んだ商業ギルドの荷物。
言い換えれば『呪いの品』だ。
シーンと静まる中、恐る恐る俺は口を開いた。
「それって、あの箱じゃないよな?」
するとボーは俺から目を反らす。
俺は確認の為にもう一度尋ねる。
「ボー、ちゃんと答えろ。お前が見たってのは『呪いの箱』の事なんだな」
殺気のこもった俺の質問に、今度はハッキリと返答があった。
「す、すまない、誘惑に勝てなかったんだ。呪いの箱を開けて中を見てしまった」
一瞬だけ全員の顔が驚愕の表情に変わるが、直ぐにそれは全員のため息と共に掻き消される。
俺は思った。
こいつはそういう奴だったと。
そこでメロディがボーに話しかけた。
「それでボーさん、具合の悪いところとかありますか?」
呪いの影響を聞きたいんだろう。
「それが特に変わった所はないんだが、もしかしたら突然呪いの症状が出るかもしれない。その時、私は、ど、どうしたらいいんだ!」
泣きそうな顔でこっち見んな。
ったく、人騒がせで身勝手な奴だ。
そこで俺は言ってやった。
「安心しろ。その時は俺が楽にしてやる」
そう言って俺は、腰に挿した突刺剣の柄に手を掛けた。
「ローマン、ま、まさか、私を刺す気なのか。楽にするって殺すって意味なのか、そうなのか!」
もう面倒臭いので放っておく。
俺は返答もせずに、さっさと旅の準備に取り掛かった。
ちなみに箱の中身は、何重にも箱で保護された『王冠』だったそうだ。
その翌日の夜明けと共に、俺達一行はアーレの街を出た。
まずは船に乗るために港を目指す。
港までの道のりはマヌエラ夫妻が詳しい。
「港まではどのくらいだ?」
と、俺が尋ねると「二ヶ月くらいだよ」と返ってきた。
二ヶ月もかよと思ったが、陸路を行くよりも早いのだと自分に言い聞かせる。
それよりも、旅の資金稼ぎをしなけりゃいけない。
人数も多いから、今迄以上に稼がないといけなくなった。
となると旅の途中で商売をするか、依頼をこなさないといけないな。
そうなると二ヶ月で港までは無理っぽい。
それはしょうがない。
問題は金の稼ぎ方なのだが。
「なあ、ボー」
俺は銀等級の冒険者であるボーに話を振ってみた。
「どうした、ローマン」
「旅の途中で資金稼ぎをしようと思うんだがな、冒険者ギルドでボーが受けた依頼をだな、俺達が手伝った場合でも普通に金は貰えるものか?」
俺は冒険者のボーを使って金を稼ごうと考えたのだ。
「ああ、人数に関係無い依頼を選んで受ければ、全く問題は無いな。もしかしてこのメンバーで依頼を受けるのか?!」
ボーがちょっと嬉しそうになってきた。
「ああ、そう考えている。それが出来るなら、内容によっては商業ギルドの依頼を受けつつ、冒険者ギルドの依頼を受けられるからな」
「やろう、私たちはパーティーだからなっ!」
ボーが興奮してきたよ。
他の皆にも聞いたが反対はされなかった。
「よし、ならば次の街で依頼を探そうか」
「そうか、そうか。それならパーティー名を決めないといけないな、ふふ、ふひひひ、ひゃっはっはっはっ」
だ、大丈夫だろうか……
ソーダンの街には何事もなく到着した。
『古のランタン亭』には行かないことにした。
宿のおっさんに迷惑が掛かりそうだからだ。
俺には追手が掛かっているし、メロディも同様だからだ。
真夜中に襲撃はまずい。
そうなると皆には悪いが、この地方を離れるまでは野宿だ。
ちゃんと皆の同意はとれてる。
だからこの街でやることは、二つのギルドの依頼などの仕事探しと、儲けられそうな品物探しだ。
残念ながら品物探しは空振りだった。
しかしボーが冒険者ギルドで、討伐の依頼を受けて来た。
「どうだ、良い依頼だろ」
そう言ってボーが見せてくれた依頼表。
そこには『オーガ討伐』と書いてあった。
その依頼表の下の方には『金等級推奨』と書いてある。
「おい、金等級推奨って書いてあるじゃねえか」
俺がそう言うと、ボーは「だから何だ」と言いたげな顔をする。
するとアノさんが、ボーのフォローをするように話し出した。
「オーガくらいならこのメンバーに丁度良いだろう。サクっとこなして先へ進もうぜ」
そうは言うが、オーガの一般的な強さくらいは俺も知っている。
それに金等級推奨ってのは、かなり高いレベルだ。
一応は討伐対象は一匹とは書いてあるが、それ以上だった場合は、こちらの被害も覚悟しなければいけなくなる。
盗賊レベルとは大きく違う。
だが俺は決心する。
こっちは魔法が使えるのが二人もいるし、信頼の置ける狼が四匹もいるんだ。
こうして俺達一行はオーガ討伐の為に、山の中へと踏み込んで行った。
出没場所は薬草の採集場所なようだ。
しかしオーガ出没の影響か、人の気配は全く無い。
狼達も特に何の反応も見せない。
そんなことをしている内に、陽が暮れ始めた。
暗くなったら魔物が有利だ。
やむを得ず、適当な所で野営をすることになった。
そこで恐れていた事が起きてしまった。
焚火の側でシルパさんが大きな鍋でスープを作っている。
それは全然構わない。
むしろありがとうと言いたい。
だが!
そのそばでメロディが香草らしい何かを手で揉んでいる。
「メロディ、ちょっと聞いていいか」
メロディが両手を緑色に染めながら俺に顔を向ける。
「はい、どうしましたか、ローマン様。ああ~、もしかしてお食事が待ちきれないのですか~~。もう、困った方ですねえ。もう少し待っていて下さいね」
顔に緑色の何かを付けながらそう答えた。
終わったな。
その翌日の昼くらいまで、俺だけがゲッソリしていた。
ハーフリングのマヌエル夫妻も獣人のボーまでもが、美味しいと言って食べていたところを見るに、この味は人間だけに効く毒なのかもしれないな。
しかしその根本原因の香草を知ることが出来た。
あれは香草なんかじゃない。
毒草だ!