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41 新たな旅立ち








 俺は出発する気満々なんだが、シルパさんが慌てて俺を制する。


「長い期間この街を離れるのよ。私達は良いけどローマンさんはこんな立派な家が有るのよね。留守の間はどうするの。放って置けば空き巣が入るわよ」


 確かにそうだ。

 狼達を長期間も留守番させられないし、長期の留守番を任せられる知り合いもいない。

 どうするか。


「確かにそうだな。この家を任せられる人物……冒険者ギルドへ行って依頼を出すか?」


 そんな事を言うとボーが一言。


「誰がそんなつまらない依頼を受けるかね。まあ金額によるかな」


「お前、たまにはまともな事も言うんだな」


「し、失礼なっ。私だって銀等級の冒険者だぞ」


 そうだ、忘れてたけどボーだって銀等級冒険者なんだよな。

 (あなど)ってはいけないか。


 しかし金額次第か。

 それならいっそ冒険者向けとして、宿代わりに使ってもらうか。

 しかも値段はタダ。

 タダで家に住めるなら冒険者も喜んで来るんじゃないのか。

 さらに俺達が帰って来て家の引き渡しの時に、依頼達成料金として金貨一枚出すって言ったら喜んで引き受けるんじゃないだろうか。


 それを皆に話すと「それは良いアイデア」と言ってくれた。

 そこで早速、ボーに冒険者ギルドにその依頼を持って行ってもらった。

 その間に俺達は荷造りと買い出しで旅の準備だ。


 しばらくするとボーが帰って来た。


 俺が「どうだった?」と聞くとボー。


「依頼を張り出して直ぐに奪い合いになったよ」


 どういうことか良くわからない。

 聞けば、家を丸々一軒タダで借りられるのは美味しすぎると。

 それにパーティーメンバーが全員で住めるし、毎日の宿代が浮くのは大きいそうだ。

 さらに依頼報酬で金貨一枚まで貰えるとなったら、奪い合いの喧嘩に発展したそうだ。

 そんな中で結局、ボーが選んでくれた五人組の銀等級冒険者パーティーに決定した。


 家の問題はこれで片付いた。

 ならばあとは旅の準備を進めるだけだ。

 取りあえず金を掻き集める。

 商業ギルドの預けてある金は全ておろす。

 それでも長期の旅となると、商売をしながら移動しないと金が持ちそうにないな。


 そして翌日の朝には旅の準備が整った。

 結局、皆は俺の家に泊まっていった。

 

 各種手続きを済ませて、俺達の隊商は出発した。

 先頭にはユニコーンモドキの馬に乗ったボー、その次にマヌエル夫妻の馬車、そしてメロディのバイスンが牽くカート、最後尾がホーン二頭に牽かせた装甲荷車だ。

 メロディと俺の獣車は交代でゴブリンが手綱を握る。

 それに加えて、狼に騎乗したゴブリンが交代で偵察に動きまわる感じだ。

 狼達はもちろん全部連れて来た。


 何だかワクワクする。

 闇の世界で暮らす住人だった時には感じた事がない感覚。

 なんだかトレジャーハンターも良いな。

 そんな事を考えながら俺達は街道を進んで行った。


 そして何事もなくソーダンの街へ到着すると、俺は用事があると言って、一人で『古のランタン亭』へと足を向けた。

 宿主兼情報屋のおっさんに、長旅に出ることを伝えておかないといけないからだ。

 頼んでおいた情報収集にはまだ少し日が早いがしょうがない。

 

 俺が宿に顔出すとおっさんはいつものように居眠りをしていた。


「おい、調子はどうだ?」


 そう声を掛けるとおっさんは目を覚ますなり、驚いた表情で俺を見る。


「闇の執行人……なんでここへ……」


 何か言いたそうだ。


「ああ、ちょっと旅に出ることになってな」


 するとおっさんは真面目な顔で言ってきた。


「あんたに追手が掛かってる」


 は?

 追手ってゾランとは別の奴等か?


「どういうことだ」


「あんた、エルフを連れ去ったらしいな。元々はそのエルフが狙いらしいが、外部からうちの組織に圧力が掛かってな。あんたの命とそのエルフの確保の依頼が幾つかの組織から出ている。うちの組織としてはそれに関してはノータッチだそうだ。ま、うちの組織は弱小だから圧力に勝てなかったんだろう」


「つまり、俺達が何されようが組織は守ってくれないってことか」


 おっさんは済まなそうな顔をする。

 

「すまんな、俺には何もできねえ」


 そうか、俺に追手が掛かったか……

 これは逃げ切れないかもしれない。

 皆にどう話すか。


「危険があるってのに悪いな、情報助かる」


「ああ、構わんよ。それからな、例の情報が少しだけ入ったぜ?」


 例の情報とは俺が依頼していた『ゾラン』と『大地の女神の神殿』に関してだ。


「待て、この状況でその情報を俺達に流したら、お前がマズい立場になるだろ」


「なあに、気にするな。あんたには返しきれない恩があるんだ。それくらいの事はさせてくれ」


「すまない」


「なあに、良いって事よ」


 それで俺は情報を聞いて情報料を払い、裏口から宿を出た。


 俺達を執拗(しつよう)に狙うゴブリンのゾランに関しては、直ぐに情報が入ったそうだ。

 そいつはゴブリンだけで結成された闇の組織なんだとか。

 組織名は『緑の悪魔』。

 もちろん非合法な事を請け負う闇の組織だ。

 主な活動地域はもっと北の方らしい。

 その幹部の一人がゾランという訳だが、そのゾランという名はこの地域だけの偽名らしいがそれはどうでも良い。

 ただし、肝心のエルフを狙う理由は分かっていないらしい。

 まあ、俺はメロディのギフトを知っているから、理由なんて想像できるがな。

 

 それと『大地の女神の神殿』に関しては、俺が知っている情報程度しか調べられていないようだ。


 まあ、短い期間でここまで調べられているなら、十分良くやったというレベルだ。


 俺は皆と合流すると直ぐにこの街を発つ事を伝える。

 そしてその理由はメロディを狙う組織がいるからと伝えた。

 もう少しここで色々調べてからと思ったんだが、そうもいっていられない状況だ。

 マヌエル夫妻はそれを神殿の財宝を狙う組織と判断したようだが、どう判断しようがそれは自由である。

 情報屋にでさえ理由は分かっていないのだから。

 ただ、メロディがいないと神殿探しは成り立たない事も確か。

 結局はメロディを守らなければいけないのは一緒。


 それともう一つの問題、それは俺の命も狙われているってこと。

 これは俺やメロディ以外の皆にも被害が広がる可能性がある。

 これも伝えなきゃいけないよな。


「なあ皆、もう一つ重大な事がある。この話を聞いた上で今後の自分たちの在り方を考えてほしい」


 皆が俺に注目し、シルパさんが不思議そうな顔で聞いてきた。


「重大な事ねえ。いったいなんなの、それは」


 少し言うのを躊躇ためらうが、決断してそれを口にした。


「狙われているのはメロディだけじゃない。実は俺も狙われている」


 俺の言葉にメロディが真っ先に反応した。


「そうでしょうね、ローマン様も有能ですから、きっと奴隷にしようとしてるんですね」


 メロディは斜め上に勘違いしている。


「そうじゃない。俺は命を狙われている」


 メロディが「はあ?」と、いつもじゃ見せない表情をしている。

 俺は話を続ける。


「俺はちょっとその筋の奴らを怒らせたようだ。メロディを狙っている奴らに命を狙われている。恐らく賞金が掛けられているだろう。だからこの先、俺と一緒にいると危険が生じる。だから―――」


 俺の言葉をシルパさんが遮る。


「何を言い出すかと思ったらもう。“大地の女神の神殿”探しはね、その行動そのものが命の危険を帯びるものなのよ。ローマンさんの命だけじゃないの。それに関わるここにいる全員が初めから危険なのよ。だからローマンさんは余計な心配はしないで良いのよ。皆でお互いをカバーすれば良いだけの話でしょ」


 するとアノさんも。


「そうだ、シルパの言う通りだ。皆で力を合わせて神殿を見つけようじゃないか」


 そしてボーまでも。


「ローマン、冒険に命の危険は付き物だろ。それが怖くて冒険者なんてやってられるかよ。あんたの背中は私が守ってやるから安心しな」


 そしてメロディ。


「そうです、ローマン様。皆の言う通りです。そういった事を含めてここにいる皆は仲間なんです。お互いの命を預けた仲間なんです。一緒にがんばっていきましょう」


 ふっ、仲間か。

 仲間なんて言われたの初めてだ。

 俺にも仲間なんて言うのが出来たんだな。

 悪い気はしない。


 そうか、仲間だ。

 仲間が居れば俺のフォローもしてくれるし、仲間なら俺も命がけて守る。

 それが仲間ってもんか。

 

「ふふふ、はははは」


 嬉しくて笑ってしまった。

 するとメロディ。


「ローマン様?」


 そしてボーが気味悪そうに言った。


「うっわ、ローマンめ、遂に気が変になったか」


「おい、ボー。“遂に”って何だ。遂にって!」


 一瞬で全員が笑いに包まれた。

 何だか居心地が良いな、こういうのも。

 そんな事を考えていたら、『命を狙われている』という不安は既にどこかに消し飛んでいた。

 

 その代わり、俺は新たな決心を心に誓っていた。

 俺はこの先もメロディを守るし、仲間達も守る。

 そして神殿も見つけてやる。

 その上で『豪商』になってやる。

 見てろよ、俺はな、人生の成功者になる。


 俺の新しい人生はこれからだ!


 皆の決意も確認し、さぁ出発という時点になって、ボーがボソリと言った一言で全員の動きが止まった。


「その前に言わなきゃいけない事がある。実は箱の中を見てしまったんだ……」






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