40 王国の財宝
マヌエル夫妻が盛り上がっているところへ、俺は割って入った。
「で、どうなんだ。神殿の場所だか王国のあった場所とかは載っているのか?」
するとシルパさんが本をじっと見たまま答える。
「う~ん、そういった記述はどこにもないわねえ。折角上巻と下巻が揃ったのに、これじゃあ進展がないですよね」
そう言って上巻と下巻の本を二つ並べている。
そこで俺はメロディを見る。
するとメロディは頷いた後に、マヌエル夫妻が見入っている本を指さす。
「すみません、その本、私にも見せてもらってよろしいでしょうか」
そう言って二冊の本を手にしたメロディが、じっと動かずに本を見続ける。
読むでもない、ページをめくる事もしない。
ただ、ただ、表紙を見続けた。
「おい、姉ちゃん、大丈夫か」
そんな声を掛けたのはアノさん。
心配になったシルパさんも声を掛ける。
「メロディちゃん、どうしたんだい?」
だが俺にはその行動が何となくだが分かる。
メロディの持つギフトの能力『導き手』を使っているんだろう。
そして突如メロディが本をパタンとテーブルの置いた。
「ハーフリングの王国があった場所、それは森の奥深い所にあります。神殿を取り囲むように街が広がっています」
マヌエル夫妻が驚いてキョトンとしているが、構わずメロディはしゃべり続ける。
「場所は……そうですね、風切り山脈を越えて……さらに底無し河を渡った先にある太古の森の奥です」
それを聞いた直後に俺は固まった。
確かに凄い能力だというのと同時に、もしそれが本当なら大変な事になる。
だって遠すぎるだろ。
さすがに俺も付き合いきれない。
そこへ行くまでに何か月掛かるか予想できないし、だいたい風切り山脈を越えるだと?
無理だ!
太古の森へ行くだと?
魔物の餌になりたいのか?
固まっていたシルパさんが、驚きの表情から心配そうな顔へと移り変わっていく。
そしてメロディに言った。
「可哀そうにねえ……」
あれ?
そう思われた?
慌てたのはメロディだ。
「いえ、そういうのじゃないんですっ。私のギフトなんですって、もう、ローマンさーん」
俺に助けを求められてもなあ。
ギフト持ちはメロディなんだし。
仕方ない、助け船を出すか。
「シルパさん、多分だが、メロディが言ってることは本当だ」
するとアノさん。
「ギフト持ちなのか?」
「ああ、そうみたいだな。だが俺も話を聞いただけで、実際に能力を使ったそれを確認した訳じゃない。だから俺もそうだが、信じるしかない。なあメロディ、もうここまで教えたんだ、マヌエル夫妻にも説明したらどうだ」
マヌエル夫妻がメロディを見つめる。
するとメロディは諦めた様に喋り出した。
「それもそうですね。それではお話します。その前に理解しているとは思いますが、今から話すことは他言無用でお願いします。約束出来ますか?」
マヌエル夫妻は大きく頷く。
それを見たメロディが次にボーを見る。
「え、私もか。も、もちろん誰にも言わないよ」
「では、お話します」
そう言って自分のギフトの能力を説明し、最後にずっと被っていたフードを脱いだ。
フードで隠されていた耳が現れた途端、マヌエル夫妻は目をに開いた。
しばしの沈黙のあと、アノさんがつぶやく。
「エ、エルフ族……」
シルパさんが続いてつぶやく。
「本当に居たんだねえ……」
「そうです、私はエルフ族です。この耳を見ればそうと分かるでしょう。私が使った魔法もエルフ族特有の魔法らしいですね」
そう聞いてもまだ二人は、メロディの尖った耳から視線が離れない。
そこでアノさんが口を開く。
「ああ、それで変わった魔法を使っていたんだな。ということはギフトも本当か。まさかここまで打ち明けといて、嘘は言わないだろう。姉ちゃん、俺は信じるよ。そのギフト」
アノさんは信じてくれるようだ。
それを受けてシルパさんも断言した。
「私も信じるよ、メロディちゃん」
そして再びアノさんが話し出す。
「それでだな、そのギフトの力で大地の女神の神殿を見つけに行きたいんだが、どうだ?」
シルパさんは期待を込めた表情で俺とメロディを交互に見る。
おいおい、そんな目で見るな。
俺は豪商を目指している身。
トレジャーハンターやってる余裕などない。
そんな冒険していたら俺のスローライフが遠のく。
そう思っていたらメロディが笑顔で返す。
「はい、喜んでお供します。マヌエル夫妻とボーさん、それにローマンさんが居れば怖い者なしですね」
待て!
今、さらっと俺の名前を入れているんだが、何かの冗談か?
「おい、メロディ、俺は行くとは言ってないぞ」
堪らず口を挟んだ。
するとメロディ。
「えええっ、何でですか!」
「メロディ、良く聞け。さっき言った経路、あれは無理だ」
「何が無理なんですか」
「まずだな、風切り山脈越えだがな、すべてが氷るほどの寒さだ。さらにあそこにはスノーマンが棲んでいる。あれは厄介な魔物だし、奴らの庭での戦いは不利だ。それに底無し河にはリバーサーペントが居る。無事に渡れるとは思えない。そして最後の難関は太古の森。あそこにはオーガ族が棲んでいる。どう考えても無理だ。そもそもその工程で何ヵ月掛かるか分からないぞ。そんな長い期間を無駄には出来ない。俺は商人で冒険者じゃない。そう言うのはボーの仕事―――」
そう言ってボーを見るとうたた寝をしていた……
ちょっとボーには難しい話だったらしい。
「ちょいといいかい、ローマンさん」
そう言ってきたのはシルパさん。
「なんだ?」
「あなたは商人だっていったね」
「ああ、そうだ」
「神殿に眠る財宝を持ち帰って売れば、それも立派な商人の仕事じゃないかね。それに船を使えば途中吹っ飛ばせるよ。船で底無し河まで行ってしまえばいいのさ。どうだい?」
財宝と言われても、どんな物かにもよる。
それで儲けられるというなら確かに商人の仕事だ。
「財宝といっても金銀宝石がわんさかあるって訳でもないんだろ?」
するとアノさんが「そうだな」といいつつ本のページをめくっている。
「うんうん、書いてあるぞ。財宝とは書いてないが、神殿の描写の説明と絵が描かれている。それを見る限りだと、神殿には魔法のランタンや銀の燭台もあるみたいだな。それに神官は魔力石の杖を持っているように描かれているぞ」
魔的な品物か!
これなら高く売れるな。
銀の燭台も普通に金になるし、魔法のランタンなんか誰もが欲しがるやつだ。
それに神官が使う魔力石の杖だと。
絶対にオークションだな。
「よし、直ぐに出発の準備を始めよう!」
そう言って俺は立ちあがった。
題名がまだ決められない。
元に戻すかなw